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第2幕◆話し合い


次の日、朝を早めに登校すると門の前でアスナが待っていた。



「おはよう、宗士、神那!」

「おはよう、アスナ。お前、やたらと早いな」

「そうか?我は毎日、朝5時には起床しておるからそうは思わんのだが…」

「朝5時…。あと2時間は寝れる…」

「なんじゃ。神那は朝に弱いのか?」

「いや、俺でも6時過ぎにしか起きないから。アスナが早すぎるんだと思うぞ」

「ふむ…。案外軟弱じゃな、お前達は…」



お互いに話しながら教室に向かう。中に入ると電子掲示板にギルド間戦闘についてのことが表示されていた。



「なんだ、これは?」

「ギルド間戦闘の初戦表。私達のギルド『レギオン』の初戦は『Queens』」

「直訳は『女王達』でよいのか?それにしても、ようわからんギルド名じゃな」

「うちもたいがい…」

「『大勢、群』という訳じゃったか。まぁ、決まった意味など無くともよかろうて」



清々しいまでの笑顔を見せて、アスナは自身の席へと座る。宗士達も荷物を置くが、そこで神那が入口に目を向ける。



「どうした?」

「………わからない。でも、誰かに見られていた」

「…見られて、ねぇ…」



開けっ放しの扉を見るが、そこにはやはり誰もいない。しかし、宗士は神那の言葉を疑ってはいなかった。

神那が『見られていた』と言った以上、誰かが確実にこちらを見ていたのだ。



(ギルド間戦闘、か。なかなかに面倒な課外活動になりそうだ…)



授業の準備を始めながら宗士は静かに嘆息した。






◆◇◆◇◆






―――チャイムの鐘が鳴り響く。



「………む~、もう時間ですか…。仕方ないので今日のところはここまでにするです」



教卓の上の教材をテキパキと片付けてビーストの女性教師は教室から出ていった。

ようやく午前中の授業が終わったのだが、ほとんどの生徒が机に突っ伏して動かない。



「な、なんなんだ…、あの難解な歴史は…」

「1世紀の中の最初の10年【終わりの始まり】と呼ばれた9つの種族間で起きた歴史的初の戦争…。それぞれの種族の視点から話さないと不公平が発生する」

「いや、わかってはいるんだが…」



【終わりの始まり】

9つの種族間で起きた歴史的初の戦争。空間崩壊によって突如として融合を果たしてしまった世界は、当初から様々な問題を多重に抱えるハメになった。

元々、ヒューマンの世界ではあった今の世界だが、ヒューマン達自身がそれぞれの国の境界線を争っていた矢先に、残りの8つの種族がその境界線の奪い合いに参加することになってしまったためだ。



「でも、この10年も続いた戦争で全種族が学んだのは『このままでは全種族が滅ぶ恐れがある』という当たり前の事実」

「まぁ、その当たり前の事実ぐらい理解してもらえなかったら、今の世の中はなかったわけだしなぁ…」

「宗士、神那。昼飯でも食べながら少し話でもせんか?」



気がつくと、手に大きめの風呂敷包みを持つアスナが机の前に立っていた。



「…だな。とりあえず、屋上にでも行くか」

「空いておるのか?」

「結構な穴場がある」






◆◇◆◇◆






3人がそれぞれに弁当箱の包みを持ってやってきたのは、部室棟の屋上だった。



「おぉ~、確かに誰もおらんな…」

「ここは去年から私と宗士が使っている。ちなみに、奥にある小さな小屋は私達の秘密基地」



本来はいろいろな部活が作り上げた負の遺産の保管場所だった小屋らしいが、宗士と神那がそれを処分して今は勝手知ったる秘密基地として使用している。


「お前達もいろいろとやっておるんじゃな…」

「気にするな。あれぐらいならまだまだ序の口だ」

「私達、先生達の教員棟への呼び出しは去年、過去最多」

「悪ガキ共であったか、お前達は…。しかし、そういう輩であったからこそ、我を受け入れてくれたのやもしれんな」



弁当箱のおかずをつまみながらアスナは小さく笑う。その様子に神那は首を傾げる。



「受け入れるもなにも…。戦力は多いに越したことない」

「いや、そうではなくてな…。我のような底辺層のドラゴニクスを受け入れてくれる他種族は全然いなかったのでな――」

「底辺層ってなんだ?」


御飯を頬張りながら聞き慣れない言葉に宗士が反応する。



「なるほど。その辺りの事情も知らんのか…。仕方ないから食べながらでも話してやるとするか」



弁当箱のおにぎりを頬張りながらアスナは竜族に関して語る。



「竜族は大きく分けて3つの位階がある。1つは現在の竜族を支える3つの家系、フローレン家・エターニア家・グローリア家が所属する富裕層。次が一般的にこの学園に通うことを義務としている一般層。そして学園どころか他学校にさえまともに行けない、現在の竜族の約40%を占める底辺層からなっている」

「………アスナは特別?」

「いや、末娘たる我になってようやく学園に通わせられる資金が貯まったと両親が言いおってな。せっかくだから通わせてもらっておる」

「なら、なおさらギルド入れなくて成績つかなかったらヤバ過ぎるだろ…」

「う、うむ…。それはそうなのだが…」

「結果オーライ」

「そ、そうだ。お前達が誘ってくれて本当に感謝しておる」



弁当を食べるのをやめて頭を下げるアスナに、宗士は食べながら頷く。



「よかったよ。………で、さっきの話を聞くと竜族の約4割は学校にさえ行けてないんだよな?」

「行けてないことはないが……本当に下の学校に通ったりといったところだ。所詮は『通った』という証明は残るが、大学や就職は事実上不可能だ。結局のところ実家に戻って家業でもある狩猟や農業の手伝いなだけだ。学友ともそれきり会わなくなるなどは当たり前なのだ」

「なんていうか…」

「富裕層はその辺り気にしてないの?」



竜族の状況はある意味『悲惨』の一言である。宗士達の通うこの学園にでも通えない限りは未来が切り開かれることはないのだから。



「エターニア家などはいろいろと手は打とうと躍起になっておる――が、所詮は1つの家だけではやれることは限度がある。現状を維持することだけで精一杯だ」



女性とは思えない、弁当箱に顔を埋めて食べるアスナ。



「それに、フローレン家は竜族の現状に関しては我関せずだ。自分達がよければそれでいいらしい」

「底辺層の人達は打開案とか出してないの?」

「出そうにも何を変えれば今の状況が改善されるのか、まるでわからない。まぁ、こんな状況がかれこれ20年近く続いているみたいでな。底辺層は半ば諦めが入っている」

「いや、諦めるなよ…」

「我は諦める気はさらさらない。今の体制が将来的にまずいのはまるわかりであるし、何もせずに後悔はしたくはないのだ」



食べ終わったのか、弁当箱の蓋を閉じて風呂敷で包み直す。



「ま、まぁ、そういう状況を打開はしたいと思っている。だから、道をつけてくれたことは感謝している」

「そんなにかしこまる必要はないからな」

「そう。それに、竜族が1人でも仲間にいるのは心強いのは間違いない」

「そう言ってくれると助かる。………さて、竜族の話はもういいだろう?」

「ん?他に話し合うことあったか?」



宗士と神那は首を傾げる。その反応にアスナはやる気を削がれながらも切り出す。



「明日の放課後にあるギルド間戦闘の話し合いぐらいせぬか?」

「あぁ、それは話さないとな。時間は―――まだあるな」

「では、こちらを確認」



時計を確認してから神那は持ってきていたノートパソコンを起動させる。

画面に映ったのは『Queens』の人数構成が表示されていた。



「説明する。『Queens』のメンバーは基本的に3人のハイエルフを中心に組まれた10人チーム」

「10人か。我等は今は3人であるから1人あたり3人は相手をせねばならんのか…」

「正解。でも、ラッキーなことが1つ」

「ラッキーなこと?」

「『Queens』はハイエルフのリーダー以外のサブポジションの副リーダーを他のハイエルフ2名から選出しているギルドであるがゆえに、必然的に3人まとめになることが確定している」

「つまり、我等の戦いはどのリーダーとやり合うかを決めるだけですぐに敵メンバーは決定ということか…。確かにそれならば、迷う必要はなさそうではあるな」

「というわけで、リーダーたる3人を説明する。資料は―――」



パソコンの学園が切り替わるとそこには3人のエルフの全身姿が表示される。



「では、左から説明。特徴は見てわかる通り、蒼色のロングヘアーが目立つ人。名前はシアン・アトライト。最近ハイエルフになったエルフで基本的に使う魔法は水と風。大技的なものは持たないかわりに下についている配下のエルフとのコンビネーションは抜群に高いとのこと」



スラスラと説明をこなす神那にアスナは小声で宗士に話しかける。



「いったいどこからこれほどの情報を集めてきよったのだ?」

「神那は情報収集のエキスパートだからな。これぐらいなら2時間ぐらいで集まる」

「―――そこな2人、話聞いてる?」

「おっ、すまん。続けてくれ」



話をやめると、ややむくれながらも神那が説明を再開する。



「少々釈然としないけど時間無いから2人目。特徴は右手についてる4つの指輪。ハイエルフの中でもエレメントの四属性の全ての基本をマスターした証。とか言いながらこれでも副リーダーの1人」

「四属性というと、確か火、水、風、地………であっておるか?」

「正解。魔法はその4つに加えて光と闇の計六属性が基点となっている」

「それを極めたやつだけが持てる指輪があるらしい。俺は初めて見るんだけどよ」

「まぁ、面倒な相手だけれど上級魔法はまるで使えない子供だから一番楽かも」

「最後の一言がひどいな…」

「――で、問題はリーダーのこの人」



画面には特に特徴的な少女が映る。なにせ――――



「ちっちゃっ!?」

「この娘がリーダーなのか神那よ?!」



そこに映っていた少女が副リーダー2人の胸元辺りに頭があるのだから…



「見た目はアレだけど実力は『Queens』というギルドのリーダーをやってるだけはある。六属性をマスターしたハイエルフは今のところ学年には両手ぐらいしかいないんだけど、この子はその稀有な才能を持っている――いわゆる天才と言える部類の存在」

「へぇー…」

「このような娘が…なぁ…」



神那が持ち上げる少女の全身画を見ながら2人はただ息をつく。



「とりあえず、私が集めれた情報はこんな感じ」

「なるほどな。して、作戦などはどうするつもりなんじゃ?」

「いろいろと考えてはいるが…。とりあえずやらなきゃいけないことがある」

「「やらなきゃいけないこと?」」



そこで昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響く。



「まずは授業。そのあとは―――細工だ」



宗士は立ち上がりながらただ笑った。



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