第1幕◆始まりの1日
―――『日本』―――
そこはかつてはそう呼ばれていた。しかし、1世紀前に起こった世界を巻き込んだ天変地異――後に【空間崩壊】と呼ばれる事件を皮切りに、世界は全てが様変わりした。
当然、今まで存在していた『国』という形は意味を失った。『日本』も今や様々な世界が呼んでいた名――『神耶』という名称に変わり、現在…9つの種族全てが通える唯一の中高大一貫の学園を有している。
物語は、そんな学園に通う1人の人族の少年から始まる…。
◆◇◆◇◆
~朝~
制服を着た1人の少年がフライパン片手に朝食を作っていた。
「まだ起きてこないな…」
リビングに朝食であるトーストとウインナー、スクランブルエッグをのせた皿を2つ置く。
椅子に座ってしばらくすると、匂いに誘われるかのように制服を半分着た少女がリビングに姿を現した。
「お前な…、ちゃんと着てから入ってこいよ…」
「うにゅ…」
少女の服は前を留めずに胸元が開いているせいでブラがチラチラと見えているし、パジャマのズボンは膝下辺りまで落ちていてパンツが丸見えである。
ちなみにスカートは少女の手に握られている。
つまり、一介の男子学生としてはすこぶる困った恰好である。
「うゅ…」
椅子に座る前にゴソゴソと残りの着替えを終える少女を無視して、少年は朝食を食べ始める。
「ふぁぅ…、おはよう、宗士…」
「おはよう、神那。お前、今日から新学期だってこと忘れてたんじゃねーよな?」
「もちろん忘れてた…。おかげで何も用意してない」
「おい…」
名前が出たところで紹介。
男の名前は月影宗士。ヒューマンの17歳。
少女の名前は神那・ファルエスト。ヒューマンとエルフの混血児17歳。
「お前、今日から2年だってのにそれでいいのかよ…」
「宗士も2年。今年も同じクラスなら安心」
「お前が安心でも俺は不安しかねぇ。そもそもなんで忘れてんだよ?」
「気がついたらカレンダーがなかった」
「んなわけあるかっ!お前が適当に壁にぶら下げるからだろうが!!」
2人の朝は変わることなくいつもの通りに過ぎていく。
◆◇◆◇◆
― 世立アガレスト学園 ―
【世立アガレスト学園】
9つの種族が通えるこの世界唯一の学園。国立ではなく世立と呼ばれるのは9つの種族達によって共同で管理している学園であるためである。
当然、通っているのは9つの種族であるため、生徒数は国内最大である。
「さて、クラス表を確認したいわけなんだが…」
「去年同様見えない」
2年・3年のクラス分けが表示された提示板の前には9つの種族のたくさんの人数がごった返しており、やや出遅れた宗士と神那はやや諦め気味にその光景を眺めていた。
「去年はただ通り過ぎるだけだったからあまり気にしてなかったが…、実際に参加するとなると凄まじいな」
「この中で見に行くのは自殺行為」
「…だな。しばらく待つか」
「おっ?宗士に神那ちゃんじゃねーか」
提示板の人混みから1人のヒューマンが歩いてくる。それを見つけた宗士は軽く手をあげる。
「久しぶりだな、安芸。クラス表、見てきたのか?」
「おう。あいにく俺はお前達とは別のクラスだけどな」
「お前達ってことは…」
「あぁ。お前達は一緒」
姫路安芸の言葉に軽い落胆を示す宗士に対して、神那はVサインを決める。
「結局はこいつの世話をせんといかんのか…」
「はははっ!腐れ縁はそう簡単には切れそうにないなっ」
「こいつとの腐れ縁はいらんのだが…」
「私は必要」
「じゃあ、俺は先に行くな。ちなみに、お前達はCクラスな」
「お前は?」
「Iクラスだ。まぁ、新学期もお互いに頑張ろうや!」
校舎の方へと歩いていく安芸を見送り、自分達もクラスに向けて歩き出す。
Cクラスの教室にたどり着いて中に入ると、そこにはすでに半数を超える生徒が集まっていた。
「アーマノイドにドラゴニクス、オールドにファンタズマ…。やっぱり去年みたいに種族ごとのクラス分けにはなってないみたいだな」
「フリューゲルにエルフ、あとはビーストもいる………けど、デビルはいないみたい」
「そういえば…確かにな」
クラス内には自身のヒューマンを含む8つの種族が入り乱れてこそいるが、何故かデビルだけが見当たらない。
「まさか今年はデビルいないとか?」
「去年、他のクラスにいたからそれはない」
「だよな。じゃあ、偶然か…」
しばらくするとチャイムとなる鐘の音が鳴り響き、生徒がそれぞれの自分の名前が書かれた席へと移動する。
全員が席に座ってから5分。教室の扉が開くと、眼鏡をかけた1人の女性型アーマノイドが姿を現した。
「2―Cの皆さん、はじめまして。私はコードEXTEND。呼び方は各々が好きに呼んで下さって結構です。本年度の1年間、このクラスの担当教師になりますので、しっかりと記憶してください」
女性は教卓まで歩くと抱えていた荷物を置く。
「さて、昨年まではそれぞれの種族ごとにクラス分けをされていましたが、本年度よりは9つの種族全てが同じクラスへと通うことになります。しかし、今年は種族ごとにおける数に大きな差が存在しており、このクラスにおいてはデビルの方々がいらっしゃいません」
教師である者からの説明にクラス全体がようやく納得の空気が流れ始めた。
「………そうですね。説明はこれぐらいですませておきましょう。本日は始業式でしかないので、クラスごとの解散がOKされていますので、最後に皆さんに【ギルド制度】についての説明を行なって終わりにしましょう」
そう言って1枚の紙が生徒達に配られる。
【ギルド制度】
本学園2年次より導入されている成績システムの1つ。月に2回、ギルド間においての戦闘を行なっていただき、その勝敗及び戦闘行為の内容によって成績が変動する。
ギルド制度におけるルールは以下の通り。
1:2年次より必ずどこかのギルドに所属すること。所属しない場合、成績がつきません。
2:定例の戦闘に加え、ギルドには『決闘』と呼ばれるギルド間戦闘が存在する。詳しくは別紙参照。
3:ギルド間の戦闘における器物損壊等は一切罪には問われない。ただし、殺害は除く。
4:ルールは状況によって順次追加される場合がある。
「皆さん、ルールの確認までは終えましたか?それを終えたのなら、最低人数2人のギルドの制作を行なってください。………とはいえ、ギルドに関してはクラスの枠は存在しませんのでクラスとしてはここで解散します。本日中にそれぞれのギルドの入会をすませてからの帰宅をよろしくお願いいたします」
そこで教師は一礼すると、教卓の荷物を抱え直して教室から出ていった。
それに合わせて、生徒がそれぞれに集まって話し合いを始めた。宗士も隣に座る神那と話す。
「さて、俺達はとりあえず2人組のギルドか?」
「友人がクラス内にいない以上、他に選択肢は無い」
「だなぁ。じゃあ、とりあえずの登録は俺と神那の2人でギルド名は――?」
そこで宗士は1人で席に座って突っ伏している少女を見つけた。
「あれ、何してんだ?」
「どれ?」
突っ伏している少女の下へ2人は歩いていく。近くまで来ると、小さな寝息が聞こえてきた。
「寝てるみたい」
「………おい、あんた」
「………zzz」
「起きろっての!!」
「zzz………ふぎゅ…」
寝ている少女の頭をはたくと少女は伸びをしながら大きな欠伸をする。眠いのか、目をこすりながら少女はこちらを見上げる。
「なんじゃ、お前達…」
「お前達、じゃねーよ。ギルド制度のことは聞いただろ。ギルドに入会しないと成績が無いんだぞ?」
「………わかってはおる。………わかってはおるが…」
そこで少女は俯いてしまった。明らかに変な態度を取る少女に対して、宗士は自身の対応を変える。
「なにか、あるのか?」
「………このクラスには友がおらぬ…。我のような落ちこぼれと組みたいという酔狂な輩はおらぬのだ…」
その言葉に宗士と神那は顔を見合わせる。改めて少女を見るが、やや短めの黒髪に右の額にあるやや小さめの黒い角。伏せてよくは見えないが、わずかにのぞく瞳は紅く、外見的には間違いなく美少女に入る。
そんな少女が友達がいないという。その様子に神那が宗士に視線を向ける。それに気づいて宗士が再び少女に話しかける。
「………だったら、俺達と組むか?」
「………お前達と?」
「あぁ。俺達、今は2人だけだからな。ギルドは途中で他へ移ることはルール上は規制が無いみたいだし、その友人達のギルドが見つかるまでは、さ」
「私と宗士は歓迎する。仲間は多い方が楽しい」
「ほ、本当に我なんぞが入ってもよいのか?」
「いちいち気にするなよ。俺達は構わないからさ」
「う、うむ…。では、しばらくは世話になる」
そう言うと少女は立ち上がる。そこでようやく気がついた。やたらと小さい。
宗士は背が高い。175cmもあるし、神那にいたっても女性にしては163cmと高めである。
しかし、目の前に立ったはずの少女は2人そろって見下ろさないといけないほどに背が低い。概算……140cm後半ぐらいだろう。
「我の名はアスナ。アスナ・エーテルスフィアだ!」
「俺は月影宗士」
「神那・ファルエスト。よろしく、アスナ」
「うむ。よろしく頼む宗士、神那」
お互いに自己紹介をすませると、誰がとはなしに笑い合う。
宗士達の学園生活はこうして始まりを告げた…。