『ホラーホラー・フェスティバル〜数珠繋ぎの作者たち〜 第6話』
いる。
* *
なに、あれ。
あたしは、どうにかしそうな自分を押さえ付けるのに精一杯だった。
『あれ』が見え始めたのは、三日前くらい。
冬に近付いて、もう大分日が短くなった。六時くらいにはもうとっくに陽は沈んで、辺りは真っ暗になる。でも、学校から母親が迎えに来るコンビニまでは、頼りないけど多少は明るいから大丈夫。
あたしの視線はいつもじっとしていない。一定の場所を見るというのが苦手だった。帰り道も例外ではなかった。
おいしくて安いと評判のたいやき屋さんと、道路を挟んでその反対側にある小料理屋の間を視線が行ったり来たりしていた。
――ふと、視線の動きが止まった。
誰か、いるのかな……。
人影が見えたような気がした。小料理屋の方。すぐに目を戻してしまったからもうそれはいなくなっていたみたいだった。
だけど、これは見間違いでも人影でもなかったのだと気付くのは、もっと先だった。
『あれ』はどんどん近付いて来ているようだった。最初に見たあのときは、二車線道路一本分。
次は自分の家の中庭。今度ははっきり姿が見えた。高校生くらいの女の子で、口はだらしなく開いていて、青白い肌が闇に映えていて、首からはロープが上に向かって伸びて、途中で消えていた。
次は昼だった。学校の教室の窓の外。あたしの席は廊下側にある。だけどこの前のとは違っていた。今度は血だらけで、頭蓋骨の皮が剥がれていて、右足がなかった。
最近は気配まで感じる。部活帰りにコンビニへ向かう途中、お風呂で髪を洗っている途中。授業中でさえ、『あれ』はあたしの側にいた。
――あれがこの世の者じゃないことくらい、分かっていた。
授業中は仕方がない。さすがに顔を伏せたりしていたら、先生に突かれる。『あれ』はみんなには見えないみたいだ。先生の横にいたり、黒板の上に浮いていたりするけど、あたし以外に気付いている人はいないみたいだ。
休み時間になったら、あたしは逃げる術がないから顔を伏せるしかない。
「ちょっとぉ、大丈夫ー?」
そうしていると、友人が声をかけてくれる。だけど――。
「あー、大丈夫だよー。寝不足でさー」
「まじでー? しっかりー」
友人はそう言って去って行く。
そう、それでいいんだ。でなければ、みんな巻き込まれちゃう。『あれ』に。
『あれ』が何なのか分かった。『あれ』と出くわしてしまった日から、一週間後だった。もう『あれ』は単体ではなくなっていた。一人、二人と日に日に増えて、今では部屋にいっぱい、むしろ入り切らないほどいる。
あたしは最近立ち寄っていなかった、「小説家になろう」にアクセスした。それからそこの先生方のブログにお邪魔した。――そして、あたしは不思議なことに気付いた。
おかしい小説があった。――文字数74文字。
「な、に……?」
どう考えてもおかしい。この「小説家になろう」は、600字以下の小説は投稿できないはずだった。あたしはとにかくをそれを読んだ。
ホラーホラー・フェスティバル
作:和佐
窒息死。首には小さい手の痕がある。それは坊によるもの。
小説の呪い。
真夏にホラー小説を書いた者に呪いが降り掛かる。あなたは、この呪いから逃げられるか?
ホラーフェアに参加された方々へ
作:アオキチヒロ
私が知っている全てをここに書き記します。
・2つの怪死事件は、ホラーフェアの小説に似ている。
・和佐先生曰く、これは小説の呪い
・自分が書いた小説通りに死ぬかも知れない
何かこれ以外に分かったことがあったら、教えてください。
「和佐」と言う作者も、「アオキチヒロ」と言う作者も、あたしは知っていた。二人ともブログを持っていて、あたしも最近の様子がおかしくなる前までは毎日訪問していた。そういえば、どうなっているのだろう?
気になってあたしはその二人のブログを見た。
――しばらく更新されていなかった。
* *
嫌な兆候がありすぎた。
あたしはもっと嫌なことを知った。
『犯人は赤子!?』
『大阪府、交通死亡事件? 被害女子高生、背中に手形』
共通点を知った。嫌な共通点。
確信を持った。信じたくない確信。
窓の外をちらりと見る。いる。――いるいるいるいる。
震える指で、お気に入りからまたサイトを開く。「小説家になろう〜秘密基地〜」。
あたしは共通点である「ホラーホラーフェスティバル」のスレッドを開いた。――窓の外。いる、いるいる。
霜月 沙羅
ホラーフェアに参加した方々に伝えたいことがあります。突然ですが、最近のニュースは見ましたか? 交通事故のニュースや、キエロの文字、赤子の手……そしてそれらが出て来る小説を読んだ覚えはありませんか? ……私達は死ぬのだと思います。詳しく話すと、
レスは途中で消えていた。――これはもう決定的だった。
ああ、部屋の中はもう、この世のものではないのだ。
「やだ……まだダメだって……」
呟いている自分は、傍目から見たら酷く滑稽な変人に見えるだろうが、至って真面目だった。
* *
ずっと塞ぎ込んだまま、今日は部活にも行かずにずっと教室にいた。友人には帰ると嘘をついた。
「……」
あたしと『あれ』しかいない教室で、携帯を取り出した。――ざわざわ。いる。
いつもは携帯から書き込みなんてしないけど、今日は違う。もう、あたしも危ないのだ。せめて他の企画参加者たちに、このことを知らせておかなければならない。だけど、思えば思うほどにあたしの手は震えて文字が打てない。
冬が近付いた秋田には、今朝から大雨が降っている。――最悪だ。
『死んでしまう早く逃げてしょうせつをけ』
「ぁ、うぁ、いやぁぁぁ!」
――ゴロゴロっ……!
あたしの叫びはどうやら雷に掻き消されたようだった。
今、ぬっと顔が目の前に出てきた。
真っ青で血が通っていなくて、まるで顔全体が内出血を起こしたような。眼球が飛び出す直前までに目が見開かれ、口はだらしなく開きはじから涎が垂れていた。髪ばらばらで、尚且つ知っている顔。
あたしは耐え切れなくて、窓に突っ込んだ。
――ごめん、なさ
『送信完了』
一旦退会したため、再投稿させていただきました。




