才能の孤立、省エネの航跡
ピィーーーー!!
タウルス杯・総当たりリーグ戦、第2試合のホイッスルが鋭く鳴り響いた。 対戦するのは、タウルス領主の息子であるアデス率いる【繁華街チーム】と、漁師の男たちで固めたホーガン率いる【港町チーム】だ。
前回の騎士団対獣人町の激闘の翌日。タウルス領の広場は、新たな戦いを見届けようと集まった多くの住民たちの熱気で包まれていた。 この試合で主審を務めるのは、第1試合を戦い終えた獣人町チームのエース・キザンである。まだ不慣れながらも真面目に笛を構えるキザンの視線の先で、両チームの選手たちがピッチへと散っていった。
試合開始直後、ピッチの主導権を握ったのは繁華街チームだった。
「行くぞ! 僕に続け!」
チームの中心に立つアデスは、この半島でナンバーワンと称される抜群の足さばきと高いボールセンスを持っていた。軽快なステップで相手選手を抜き去り、正確なタッチでピッチを駆け上がる。その華麗な個人技に、観客席からは歓声が上がった。
だが、アデスの内側には強い焦りとフラストレーションがあった。
(まただ……! みんな、僕に頼りすぎている……!)
アデスの狙いは、カイトから教わった「仲間と連動し、スペースを活用するサッカー」だった。しかし、集まった町の子息や若者たちは、アデスと連携しようという意識よりも、「アデス様にパスを出せば目立てる」「アデス様をアシストして領主にアピールしたい」という私欲が勝っていた。
アデスがフリーの選手へパスを出しようとしても、味方の方が「いや、アデス様が自分で攻めてください!」と逆にパスを返してきたり、全員がアデスの周囲に群がって自ら進路を塞いでしまったりする。
「違う! 僕に集まるな、それぞれの位置でスペースを作れと言っているだろう!」
アデスが怒鳴っても、チームとしての連動は全く生まれず、個人の勢いだけで突っ込んでは相手の守備に引っかかるという空回りを繰り返していた。 前半15分、アデスが自慢のドリブルで相手守備陣を鮮やかに抜き去り、自らの個人技だけで意地の先制点を奪ってみせるものの、チーム全体としては決して機能していなかった。
◇
一方、対する港町チームの状況も、決して万全とは言い難かった。
練習場所が狭い倉庫の脇や砂浜であり、何よりメンバーである漁師たちは日々の過酷な労働ですでに体力を大きく消耗していた。
「ハァ、ハァ……足が重い……。こんな走り回る競技、やっぱり漁師の体にはキツいぜ……」
試合が始まってわずか10分も経たないうちに、港町の選手たちから早くも疲労の色が濃く滲み出ていた。ガムシャラに走り勝とうとすれば、前半のうちに全員がガス欠を起こすのは目に見えている。
しかし、その中でキャプテンのホーガンだけは、太い腕を組むように冷静にピッチ全体を見渡していた。
(あいつら、タウルス卿の倅の個人技は凄い勢いだが……動きが単調だ。全員が同じ方向に固まって自滅している。……そして俺たちは、まともに走り合ったら絶対に体力が持たない)
ホーガンの脳裏に、カイトの言葉と、日々の漁の光景が重なる。 ——『無駄に体力を消耗せず、ここぞというタイミングで走り込む場所を見極めろ』 ——『魚の群れをただ追い回すだけじゃ網に入らない。潮の流れを読むんだ』
「おい、無駄にドリブルで突っ込むな! 足を無駄に動かすなよ!」
ホーガンが荒い息を吐きながら、チームメイトに声を張り上げる。
「だがホーガン、突っ立ってちゃボールが奪えないぞ!」
「奪うんじゃねぇ、相手が勝手に突っ込んできて疲れるのを待つんだ! パスを繋げ! 足を止めるな、ボールを動かせ!」
ホーガンの指示のもと、港町チームは無理なドリブルを一切封印した。
足場の悪さと疲労を逆手に取り、余計な走力を削ぎ落とす。味方が近くに寄ってきたらパスで最短距離を繋ぎ、体力を温存しながら相手の攻撃を受け流す——徹底的に効率を重視した「省エネのパスサッカー」の萌芽だった。
アンド前半30分、港町チームはその戦術を結実させる。
ホーガン自身が相手ディフェンダーを背負いながらボールを確実に収め、近くへ寄ってきた味方へ素早くパスを落とす。落としを受けた選手がさらに前方のフリーのスペースへスルーパスを送り、走り込んだ味方がゴールへと流し込んだ。
【繁華街 1 ー 1 港町】
前半終了間際の同点弾に、港町チームのベンチから歓声が上がる。
ピィーーーーッ!!
前半終了の笛が鳴り響く中、ベンチへ引き上げるアデスとホーガンの表情は対照的だった。
自分の力だけではチームを動かせず苛立つアデスと、疲労を隠しながらも効率的な戦い方に手応えを感じ始めたホーガン。
二人のエースが迎える後半戦、それぞれの「チームの形」をかけた戦いは、いよいよ核心へと突入していく。
(第26話へ続く)




