第6話「2ページ目」
常田はスマホを見つめ、悔しさを噛み締めた。
爬虫類店には「コオロギ」も餌用として売っている。
死亡していたのは爬虫類店の店員と言う訳ではない、ただの無職の男だったのだ。
工藤はこのことを暗示していたのだ。物語と繋げ、殺人が起きる場所を伝えている。時刻は1:05。しかし、工藤が話し始めたのは5分前のこと。つまりは1:00。
話した内容は、1ページ目のピノッキオのことをどう思うか。そう、常田は悪い子だと答えた。そんな何気ない会話だが、先程とは少し遠いような。
気になるのは工藤は「話し忘れた」と言ったこと。
「常田さん。ピノッキオって不遇だなと思いませんか?」
「何故ですか?」
「嘘をつくと鼻が伸びるんですよ?僕はピノッキオじゃないので嘘をついても鼻は伸びません。」
常田は机をバンッと叩いた。
「嘘をついているのか!?」
「さぁ?それが分かる方法は無いことはないですけど、見たところあなたはその技術を持っていないようです。全世界の人間がピノッキオのように嘘をつくと鼻が伸びるような体質だったら分かりやすいのかもしれないですけどね。」
「そんなことになれば、この社会は一気に崩れ去るだろうな。」
「なんでですか?人間が嘘で作られたものだって知っているからですか?」
何も言い返せなかった。確かにその通りだからだ。人間は嘘の塊のようなもの。いい嘘、悪い嘘。人生で一度も嘘をついたことがないなんてホラを拭くやつが多いが、そんな人間は赤ん坊以外いない。
他人にだけにつくのが嘘では無い。自分自身に嘘をつくこともある。
それで心が安らぐ時がある、それこそが人間の良いところであり、とても醜い部分なのだから。
「物語の中でコオロギが死んだから、現実でも爬虫類店の人間を殺したんですか?」
「違いますよ。この物語に関連する者たちは全員死にます。唯一生き残るのは、唯一生き残るもの。訳が分かりませんよね。同じことを2度言っているんですから。でも、言葉通りなんです。」
「止めてみせますよ。あなたが言う配役のピノッキオを止めれば、この事件は解決する。」
主人公を軸に話は進む。
つまりは、主人公を止めることができれば、物語は終わる。常田はそう睨んでいたのだ。
「あ、そうだ。常田さん。さっき、鼻の話をしたと思うんですけど、嘘で鼻が伸びるならこの部屋の人の誰かは鼻が伸びますね。」
見抜け、そう言っているような顔だ。
目の前にいる工藤が嘘をついていると考えるのは普通。それ以外に考えようがない、問題はどこで嘘をついたのか、だ。
「じゃあ、2ページ目に行きましょうか?」
「待ってください。少し、話してもいいかな?次に人が死ぬのは2時なんじゃないんですか?あなたは先程、《《話し忘れた》》と仰った。話し忘れたのではなくて、時間がなかったんですよ。人が死ぬ感覚は1時間。そうでしょ?今回は時間が多くあるから自分の質問や雑談を交えてくれた。つまり、2ページ、それは2時を意味している。」
「話終わりましたか?では、2ページ目に行きましょうか。」
工藤の表情は何1つ変わらない。ただ、不気味さを醸し出しているだけだ。
自分の質問で表情を読み取ろうと考えていたが無理のようだと諦めたが、推理自体は当たっていると確信をしていた。
「空き家でピノッキオはコオロギの言ったことを考えていたんです。そして、その通りだと思い、自分の家に帰るんですよ。家には釈放されたゼペット爺さんがいて、ピノッキオは『学校に行きたい』とせがむんですよね。どうですか?常田さんならどうします?」
「怒りはしますよ。ですが、自分なら通わせると思います。ちゃんと学んで、大人になろうとしているんですから。」
「そうですよね。ですが、総称してワルガキとかクソガキだとは思うでしょ?」
「…」
「常田さんと同じようにゼペット爺さんは、よくぞ言ったぞと。自分のコートを売って教科書をピノッキオに買ってあげるんです。そして、ピノッキオは学校に向かうんですが、途中で劇場が気になってしまう。見るためにはお金が必要。ピノッキオは教科書を売って劇場を見るんです。気の毒に思った、劇場の人が金貨を5枚くれたんですけどね。これで2ページ目は終了です。」
目星は着く。劇場、それか映画館。
だがしかし、どこかが分からない。常田はもう一度情報を見るためにスマホを見た。
遺体があった場所、そこと最初の被害者が出たアパート。アパートから1番近い爬虫類店はそこだった。
つまり、アパートはピノッキオの家。そこから1番近い劇場か、映画館。すぐにメールを送信したが、気になるのは今、映画館や劇場のやっている時間ではないということ。そして、1番近い劇場は船堀、映画館は木場にある。
常田は時間を確認する。
1:20。残り時間あと40分。
これだけあれば、なんとかなると、すぐに手を打った。




