第3話「逮捕履歴」
葛西警察署。
新井康二はイラついていた。こんな時間から調べ物をすることになるとは思わなかったのだ。
事件が起きたとはいえ、今後それが連鎖するとは限らない。だが、犯人が今も逃走中という事実がある以上、動かない訳にはいかないのだ。
発見された被害者、山本弧次郎。
年齢は50歳であり、木材加工業に務めているごく普通の人間。外部との交流は深く無さそうだということは分かる。なぜなら、あんなに人気の無さそうなアパートに住んでいるのだ。あんなところに住むのは相当お金が無い人間か、人が嫌いな人物だけだろうと考えられる。
山本氏は過去に冤罪で逮捕されている。
警察側はこれを裏で隠蔽しようとしていたらしい。誤認逮捕なんて世間に知られてしまったら警察の面目が丸つぶれになってしまう。認める訳では無いが、隠蔽をしてしまうのも何となく分かってしまう自分がいるのは少し嫌だった。
もう1人、この事件の第一発見者、そしてこの事件に関係があると思われている人物。工藤凌介。
今は、警察署の取調室にいる。まだなんの情報も入ってこない。お偉いさん方が必死に事件の関連性を吐かせようとしているのだろう。
それなのに自分はただただ、情報を収集するだけの仕事。刑事になれた時は派手な仕事ができると思って喜んだが、これが現実かと諦めるしか無かった。
調べてみると、工藤は学校の教師をしていたそうだ。退職の理由は濡れ衣であった。
学校で自分の生徒が自殺。クラス内からのいじめ、工藤はそれを止めようと必死に動いていたと言う。しかし、周りは薄情なもので、工藤のことを一身に責め立て、退職に追い込まれたという過去を持っていた。
ここで推測できることは、工藤の動機。自分が良い行いをしていたと言うのに、責め立てられたというこの社会に対する復讐。
それを共有した共犯者と共に犯行を行っている。普通ならこんなストーリーが思いつく。それ以外に考えようがないからだ。
しかし、新井は気にかかることがある。
工藤は犯行を行っていないのだ。
彼が何をしたいのかが全く分からない。犯行をしていないのに、わざとバレるように警察を煽った。普通なら裏から手を回した方が身のリスクは減る。それなのに、捕まった、まるでそれが目的だったような。
新井は嫌な予感を感じた。
これから何か良くないことが起きる。そんな予感が。




