第11話「誤算」
2:05。
常田を気にする様子もなく、工藤が話し始める。
常田は1度、遺体や現場の処理を他の警察官に任せることにした。今自分ができる最大限のことをするまで。
「3ページ目。始める前に少しお話でもしましょうか。常田さん。お金って大切ですよね。あんな紙切れやコインのために命を削るのが人間ですよ。」
「そうです。そのために勉強したりするんですから。」
「でも、考えてみてください。今はその紙切れに価値があるから大丈夫ですけど、もし、価値が無くなったとして食べ物を持っている人の方が有利です。価値が無くなれば本当にただの紙切れ、腹を満たすことはできない。食べ物と交換する価値もない。」
「何が言いたいんですか?」
「時に金は残酷です。どれだけ優秀な人であっても金がなければいい学校には行けない。命を削る価値のあるもの、それが金なんです。人間が紙切れなんかに価値をつけてしまったから、喜んで労働をしている。簡単に金が増えればいいのに、とか思いませんか?」
何故だろう。童話を話していない工藤は急に犯罪者のように見える。今までもそう見えていなかったわけではない。ただ、童話を話す姿は、まるで、学校の教師とでも言えるものだった。
だが、自論を展開した時、彼は社会に対して恐ろしい憎悪を持った怪物に変化してしまったかのように思えた。
「お金が簡単に増える方法なんて、運に頼るか、悪に手を染めるかしかないですよ。」
「運、ですか?」
「そうです。ギャンブルや宝くじ、一攫千金を正攻法で掴む方法はあります。しかし、現実的では無い。だからみんな働いて稼ぐんです。心のどこかで当たればいいな、そのぐらいがちょうどいいです。」
「ギャンブルとなれば、当然負ける可能性もある。これから話す話と少し似通ってますね。まぁ、人間が世界を支配している間は金の価値が無くなるなんて思えません。それこそ隕石でも降ってきて地球が氷河期にでもなれば話は別ですけどね。」
ごもっともな話であることは常田も理解していた。
自分は今、正義のために刑事をしているが、元はと言えば金のため。生活をするためには金が必要だからだ。
その中で自分のやりたいことを探した時に、なりたかったものが刑事というだけ。
仕事をしている人間は、最終的には金と結びついてしまう。自分の幸せのためであっても、それは金があって成り立つこと。そう考えると紙切れのために命を貼っている自分たち人間が惨めに思えてきてしまう。
「話を童話の方に戻しますね。劇場を見たあと、5枚のコインを持ったピノッキオはキツネとネコに会います。キツネはピノッキオのコインを見て『いいコインだ。ここは魔法の原っぱだから、それを埋めればコインが沢山増えるよ!』と教えてくれる。ピノッキオはその通りに埋めて、キツネに言われて他の場所で時間を潰しました。」
誰がどう聞いても詐欺だ。
これに引っかかってしまうのは無知な子どもだからである。常田は1つ1つの話を慎重に聞いていた。どこに手がかりがあるか分からない。
「そしてピノッキオが戻ってくるともちろん、コインは無くなっています。そしてその後、ピノッキオは殺されてしまうんです。首を木に吊られてね。これで3ページ目は終わりです。」
必死に考えた。場所が分かれば止めることが出来るかもしれない。しかし、今の話でどこを探せばいいのか分からない。
そんな時、スマホの通知に目がいった。
新井からメールが来ていたのだ。内容は既に次の場所に警察官たちを向かわせたという知らせだ。
場所は「パチンコ屋」
そうか、金を入れれば増える、けれども童話の中では減ってしまった。パチンコのようなものと考えれば辻褄が合う。
「工藤さん。先回りされていましたよ。あなたのお仲間はもう時期、捕まります。」
「何を言ってるんですか?」
「あなたが話してくれた童話の意味が分かりました。話す前から勘のいい刑事が次に殺しが起きる場所に先回りしています。」
工藤の表情は変わらない。
動揺の色もなければ、笑いもしない。これはこちらの策略のおかげなのか、それとも余裕を見せているのか読み取ることができなかった。
これで終わる。そう思っていた。だから、この間は犯人が捕まったという報告を待つだけにしてしまったのだ。
だが、何故だろうか、妙な胸騒ぎがしてならない。殺しが起こりそうな場所も理にかなっているのになぜか。今回、死ぬとしたらキツネとネコと…
ピノッキオ?
もし童話通りなら、犯人が死ぬのか?
そして、童話の中のピノッキオは首を木に吊られて死んだ。
常田はすぐに新井に電話をかけた。
「もしもし?常田刑事ですか?既に現場には警察官が…」
「違う!パチンコ屋の中と外じゃない!そのパチンコ屋の近くに大きい木はないか!?確認してくれ。もしあったならそこで人が死ぬぞ!」
時刻は2:58。




