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【連載版】魔女の汚名を被ったとしても ~聖女の姉を救うため、過去へ戻り偽聖女と神殿への復讐を誓う~   作者: shiryu


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第26話 神殿長の思惑通りに…?



「その儀式――やり直しを求めます」


 レイナの声が響いた瞬間、会場の空気が――止まった。

 拍手の途中だった手が止まり、感嘆の吐息が喉の奥で凍りつく。


「やり直し……?」

「どういうことだ?」

「今のは神の祝福では……」

「魔女が何を――」


 中央の壇へ向けて、視線が一斉に突き刺さる。

 その中心にいるのは、淡い夜色のドレスを纏った少女――モランテス伯爵家の次女、レイナ。

 群衆の視線を浴びながら、彼女は怯むことなく、まっすぐ歩いてくる。


 神殿長カルディスは、その様子を祭壇の前で見下ろしながら、胸の奥で短く笑った。


(やはり、来たか)


 予想の範囲内。

 むしろ来なければ、拍子抜けだった。

 姉の威光に取り憑かれ、神殿を敵視し、己の闇を正当化している。


 だが――今回の儀式は完璧だ。

 床下の魔法陣は、見つけられないように隠蔽した。

 仮に気づいたとしても、この場で破壊できないようにしてある。


 絨毯を剥がす? 壇を壊す?

 そんな乱暴が許される空気ではない。

 しかも、会場の全員は今、ミネルヴァの光に酔っている。


(問題など起こりようがない)


 カルディスは、悠然と腕を広げたまま、わざと表情を柔らかく保った。

 慈悲と威厳を同時に見せるための笑み。


 そして、彼の思った通り――神官が先に吠えた。


「この神聖なる儀式に、ケチをつけようというのですか!」


 若い神官が一歩前へ出る。顔が紅潮している。


「浄化礼祭の締めに、聖女様の祝福を受ける場で! 何たる不敬!」


 それに釣られるように、別の神官も声を上げる。


「そうだ、何を言っている!」

「これだから魔女は……!」

「異端者が口を挟む場ではない!」


 貴族たちも、ざわめきの波に乗る。


「魔女が神殿に口出しとは……」

「やはり危険な女だ」

「闇に染まった者は、神の奇跡が眩しいのだろう」


 ――その空気に、カルディスは内心で満足した。

 群衆は扱いやすい。

 恐怖と権威を並べれば、自ら正義の側へ集まってくる。


 だが、レイナは止まらなかった。

 壇の前で足を止め、顔を上げる。

 その目は冷たい。怒りを隠した冷たさではなく、怒りを研いだような冷たさ。


「神聖なる儀式?」


 レイナは小さく笑った。

 それは嘲笑ではない。断言だ。


「これは――不当な儀式です」


 会場が一段、荒れた。


「何を言う!」

「魔女のお前が、神に口を挟むな!」

「儀式は滞りなく終わった! 新聖女様の神力が証明されたではないか!」


 カルディスは、神官たちの興奮が暴走しすぎないよう、指先を軽く上げた。

 静かに、と。威厳をもって。

 抑えることで、さらに自分の正しさを演出する。


「よい、よい。皆、落ち着きなさい」


 カルディスは柔らかく言った。

 神官たちが息を呑み、黙り込む。

 貴族たちも、神殿長の声に従ってざわめきを小さくする。


 カルディスはレイナへ視線を向け、あくまで穏やかに口を開いた。


「レイナ殿……でしたかな。儀式は、何も滞りなく終わりました」


 落ち着いた声。理性の装い。


「あなたの一存で、もう一度などというのは――難しいですな」


 拒む、これだけでいい。

 もう一度したところで結果は変わらないが、する必要もない。


(拒めば、この場は勝ちだ)


 カルディスは確信していたが……。


「今の儀式は、不当なものです」


 レイナの声は、驚くほどはっきりしている。


「神聖なるものとは、まったく違う。邪魔が入っていました」


 そして、少しだけ目線を横へ――エリシアへ向けた。


「だから、聖女エリシアは力が出ず」


 今度は逆側、ミネルヴァへ。


「聖女ミネルヴァは、不相応な光を発していました」


 その瞬間、神官たちの怒りが爆ぜた。


「そんなわけがないだろう!」


 先ほどミネルヴァを讃えていた神官が叫ぶ。


「神聖なる儀式に異議を唱えるだけでなく、聖女ミネルヴァ様を貶すとは! 恥を知れ!」

「この魔女め!」

「異端者め! 口を慎め!」


 会場は再び騒然とし、貴族たちも混じって罵声が増えた。

 レイナの周囲に、誰も味方がいないことが目に見える。


 遠巻きの視線は好奇と嫌悪。

 追い落とされる空気が完成していく。


 聖女エリシアが、壇上で不安げにレイナを見る。


「レイナ……」


 その声は小さい。


 そのとき、神官の一人が前に出た。


「この魔女が、儀式の邪魔をするな! 出て行け!」


 声を荒げ、レイナへ手を伸ばす。

 腕を掴み、引きずり出すつもりだ。


 ――次の瞬間。


 空気が、黒く歪んだ。

 レイナの足元で影が、うごめいた。

 生き物のように伸び、絡まり、跳ねる。


「っ――!」


 伸ばした神官の腕を、影が弾き飛ばした。

 神官は「うわっ」と情けない声を上げ、尻餅をつく。

 床に手をつき、震えながら後ずさる。


 会場がどっと沸いた。

 恐怖が、歓声の代わりに湧く。


「ま、まさかこれが……」

「闇魔法……!」

「なんて禍々しい……」


 カルディスは内心、ほんのわずか眉を動かした。


(この場で見せるか)


 確かに、予想外ではある。

 だが、致命ではない。


 むしろ好都合だ。

 闇魔法は見た目が恐ろしい。

 魔女の本性という印象を固定するのに、これ以上ない演出。


「本性を露わしたか、この魔女め!」

「捕らえろ!」

「聖域を汚すな!」


 怒号。怯え。


 だが――レイナは一歩も引かなかった。

 闇をまとったまま、顔を上げる。

 その瞳は冷たい。

 けれど、言葉は驚くほど真っ直ぐだった。


「私を魔女と罵ろうとも、蔑もうとも構いません」


 会場の中心で、少女は宣言する。


「ですが――お姉様の名を、不当に傷つけるのは許しません」


 ざわめきが、一瞬だけ止んだ。

 魔力の圧ではなく、覚悟の圧。

 それが会場中に響いた。


 レイナは、そのまま壇へ上がった。

 闇が揺れる。

 黒い影が床を這い、彼女の背後で波打つ。


 そして――エリシアの前へ。

 エリシアは、涙が浮きそうな目でレイナを見る。

 嬉しそうなのに、心配そうで。


「レイナ……嬉しいけど、大丈夫なの?」


 エリシアの声が震える。

 レイナは小さく笑った。

 それはさっきの嘲りではない。

 姉に向ける、柔らかい笑み。


「大丈夫よ、お姉様」


 そして、言った。


「もう一回、やってみて」

「でも……今は、よくわからないけど、調子が悪くて……」


 エリシアは困惑を隠しきれない。

 手のひらを見つめ、まだ弱い光の余韻を感じ取ろうとしている。

 レイナは、首を横に振る。


「大丈夫」


 声が、確信で満ちている。


「お姉様なら、全く問題ないわ。私を信じて」


 エリシアは一瞬だけ目を伏せた。

 そして、ゆっくり頷く。


「……わかった。信じるわ」


 再び目を閉じ、祈りの姿勢を取る。

 深く息を吸い、心を静める。


 カルディスは、その様子を見ながら、内心で冷笑した。


(好きにさせればいい)


 何度やっても同じだ。

 魔法陣は生きている。

 この場でエリシアの魔力を奪うよう設計してある。

 エリシアの力は出ない。

 むしろもう一度やらせれば、ミネルヴァの神々しさが再確認される。

 群衆の印象は固まる。


(やらせても問題はない)


 カルディスは、表情を崩さず、ミネルヴァの方を見た。

 ミネルヴァもまた、悲しげな顔を作りながら、口元だけで笑っている。


 そして、エリシアが祈りを捧げた。


 次の瞬間――光が、爆ぜた。


 会場の空気を切り裂くように、白い光が立ち上る。

 先ほどの弱い灯火ではない。

 眩い。温かい。

 押し寄せるような癒しの気配が、壇から会場全体へ波となって広がった。


「――っ」


 貴族たちが息を呑む。


「これが……エリシア様の……」

「なんて、強い……!」


 ミネルヴァの光とは違う。

 派手さではない。

 胸の奥を満たすような、確かな力。

 身体の芯に触れて、怖さではなく安心を残す光。


 カルディスの目が、わずかに見開かれた。

 胸の奥が、冷たく落ちる。


(……なぜだ)


 陣はある。奪っているはずだ。

 隠蔽も完璧。

 無効化されないよう仕掛けていたのに。


 今この瞬間まで、誰も絨毯に触れていない。

 破壊など不可能なはず。


(いつ、無効化された? そんな暇は――)


 カルディスは視線を床へ落とそうとして、しかしそれすら動揺として見られることを嫌い、ぎり、と奥歯を噛みしめた。

 ミネルヴァの顔も、悲しげな仮面の下で凍りついている。


 そのとき。


 レイナが、こちらを見た。

 闇をまとったまま、薄く――薄く笑った。

 勝ち誇るでもなく、叫ぶでもなく。

 ただ、『わかったでしょう』と言わんばかりの、静かな笑み。


 カルディスは、その笑みに、初めて苛立ちを覚えた。


(小娘が――)


 だが、会場はすでに光に呑まれている。

 エリシアの力が健在だと、誰の目にも明らかだった。


 そして――カルディスの中で、確信が崩れ始めていた。

 陣は完璧だった。完璧だったはずなのに。


 ――なぜ、だ。




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