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厄介な置き土産

 私は盗賊のアジトを駆ける。

 みんなが戦う大部屋から右側の通路を選んで私は立ち止まることなく進んでいく。

 早く早く。

 誰かの気配はない。

 この先には誰もいないことが分かれば、遠慮することもない。

 奥に進んでいくと、突き当りにぶつかった。

 突き当りの部屋は物置のように様々な物が置いてある。

 武器になりそうなもの、高級品のような絨毯や絵画、大きな箱の中には宝石類、布類と一応は部類に分けては置いてあるものの、整理されているわけでもなし、雑多に置かれている。

 とりあえず価値のありそうなものをここに置いてあるだけのようだ。

 天幕のようにぼろい布がかけられているので、腰に刺してあるショートソードを抜いて全部切りながら進んでいく。

 丁寧に見聞する必要はない。

 一番奥まで切り裂いたところで、通路が現れた。

 一番は壊すのがいいだろうが、通れなければいいだろう。

 そう思って、身体強化を施した体で大きな箱を移動させる。

 身体強化込みでしっかりと力を込めないと動かせないほどの重さをしているのだから、ただの力自慢が動かすには少々苦労するだろうし、してほしい。

 二つ目の箱の中には布類が入っている。重さもそれなりだが、宝石に比べたらまだマシだ。

 それらを身体強化を使って投げ捨てるようにして、上に乗せる。

 ムツミだったらこれぐらい普通に持てる。

 まだまだ身体強化も体の鍛えも弱い。

 扉を完全に封鎖することは出来なかったが、それでも通過するのに上の箱を退かす手間が出来た。

 これが出来たら上々。

 身を翻して、気配を殺す。

 まだ剣戟の音が聞こえる。

 わざわざ反対側まで見に行く必要もない。

 片方塞ぐことが出来たのなら、ムツミの技能で封鎖してもらえれば済む話だから。


 ☆


 「ムツミ、魔法で左の通路塞いで!」


 大部屋にノナさんの声が響いたと同時に、私は左の通路に壁を作る。

 強度は不安定だが、持続させるだけならどれだけだって出来る。

 それが私に与えられた力だから有効に使わせてもらう。

 ノナさんの声に振り向いた盗賊の一人をジーンが切り裂いて、ノナさんが別の盗賊の首を掻っ切る。

 人数差が落ち着けば、不安要素がぐっと減る。

 敵の頭である傷だらけの男はまだ残っている。

 ジーンが相手をするのだろう。

 しっかりと剣先を向けている。

 ジーンが駆けると、男が迎え撃つように剣を振るう。

 剣と剣がぶつかる音が響く。

 しかし、押し切ったのはジーンの方だった。

 

「クソがっ!!」


 傷だらけの男が悪態を吐くが、ジーンは止まらない。

 二度目のぶつかり合いは受けずに流してしまうと、相手の姿勢が崩れるのだが、足先を地面に埋めたと思ったら砂と一緒に蹴り上げた。

 それを避けるために一手遅れれば、さっきまであったアドバンテージが消える。

 ジーンと男の間合いは一歩踏み込めば剣が届く距離になった。

 先に動いたのは男の方だった。

 小さく構えた袈裟斬りをジーンはまた歯を滑らせるように受けると、柄にひっかける。

 そのまま跳ね上げてしまえば、無防備な胴体が晒された。

 足も浮いているせいでさっきのような芸当は使えない。

 男とは逆、右下から左上に向けての斬撃。

 切られた男は赤い花が咲く。

 ただ、それで終わりじゃない。

 まだ止まらない。

 切られて揺らいだ男の体。

 上段に構えられた剣をそのまま、ジーンは横に薙げば男の首が飛ぶ。

 切った体勢からジーンが構え直すが、男が絶命したところでようやく力が抜けた。


「ジーン、遅い」

「うっせ」


 返り血を顔に受けているノナさんが歩いてきた。

 ハッとなって周りを確認する。

 クリスとミレイさんが倒れている盗賊に向けて、槍やナイフを突き立てて死亡を確認して回っているところでもう私たち以外盗賊は立っていなかった。

 戦場のど真ん中で見惚れてしまっていたというのは大失態。

 クリスとミレイさんのところまで小走りで駆けていく。


「す、すみません、私……」

「いいよいいよ、みんな弱かったし」

「いい経験が出来たので満足ですわ」


 それでも頭を下げていると、ジーンとノナさんも合流する。


「あっちはお金になりそうなもの一杯」

「へぇー!」


 クリスが嬉しそうな顔になる。

 それはとても可愛らしいのだが、拭いた返り血の跡さえなければだが。


「ただ、ちょっと多いから全部運ぶのは大変」

「ムツミ、この壁解いてくれ」

「あ、分かりました!」

「みんなで持ち運べそうな量だけ頂いて、あとはギルドに任せるかー」


 私が壁を解除すると、ジーンが奥に進んでいく。

 その後に私も付いて行けば、隣にミレイさんも並んだ。


「臭いますわね」


 先頭を歩くジーンではなくて、ミレイさんが鼻を抑える。

 そうでしょうか、と言おうとした瞬間にツンとした悪臭が鼻を突いた。

 思わず、鼻を抑えて立ち止まってしまった。

 前を歩いていたジーンも歩くのを止めると、こちらを振り返る。


「嫌ならこっから先来ない方がいいぞ」

「私は知ってますので大丈夫ですわ」


 ミレイさんは臭いになれるためにか、数度口で呼吸を繰り返した後、歩き出す。

 男ばかりの盗賊たち。

 ストレスのはけ口になるのは何か。

 そうなると自然と予想はつく。

 何をされたのかも、何をしていたのかも。

 そういえば、私が見つかるきっかけになった男たちもそのようなことを言っていた気がする。


「ムツミ、戻っていていい」


 後ろから追いついてきたノナさんがそう声を掛けただけで、すたすたと先に行ってしまった。


「もうみんなムツミに甘いんだから」


 私の隣にクリスが着て、上目遣いに私を見てきた。


「どうする? 戻る? 行く?」

「ええ、行きます」


 私が歩き出せば、クリスも歩きだす。

 私が辿り着い時には、みんなが捕まっていた人たちを縛っている縄をナイフで切っていた。

 ここには檻は存在しないで、キャンプで使うような杭にロープを括りつけて捕まえていたみたいだ。

 みんな汚れているし、十分な食べ物をもらっていないみたいで弱っている。


「ムツミ、こっち来て」


 ノナさんに呼ばれて向かった先、そこに寝かせられているのは若い男性だが、足首の後ろ側を切られている。

 アキレス腱を切って歩けないようにしたんだ。

 いくら太い杭でも数人が力を合わせれば抜け出せないこともないと思っていたのだが、こうやって逃亡を阻止していたのかと納得すると同時にふつふつと怒りが湧いてくる。


「他の人たちも同様に?」

「多分」

「治しましょう」


 みんなが次々と縄を切っていく中私は教わったばかりの治療魔法を使っていく。

 魔法はイメージが大事。

 元のイメージを頭に浮かべて使わないと効力が拡散するし、自信がないと治療する力が弱くなってしまう。

 この時ばかりは自信がないなんて口が裂けても言えないし、思わない。

 上手くいく、絶対に出来る。

 それだけを信じて、イメージをする。

 治すのはアキレス腱だけではない。

 体中に細かい傷を負っている。

 それも全部治すイメージで手を置けば、男の人の体が淡い光に包まれる。

 傷口が綺麗に治っていく。

 表面上しか目視で確認できないのはもどかしい。

 一人終われば、次の人に移る。

 いくら怪我は治せても、痩せた体や空腹までを補えるほど万能ではない。

 だから、クリスが近くで鍋を用意し始めていた。


「全部あいつらの物だから、私たちには損にならないからね」


 鍋も投入される食べるものも全部盗賊たちが持っていた物。

 それをノナさんとミレイさんが手助けするように石を運んで来たりして、炊事場が作られる。

 火だけは私が付けて、後は任せることにした。

 それからどれだけ治療魔法を使ったのか、忘れた。

 気が付いたら最後の一人。

 飢餓もそうだが口の中も乾燥しきっているだろうに何かを話そうとしていた。


「今は何も言わなくても大丈夫です」


 それだけを伝えて治療魔法を行使した。

 ちょっとだけ疲れた。


「疲れた?」

「はい、気持ち的に疲れました」


 クリスはスープにしたみたいだ。

 きっと消化のことを考えての配慮だろう。

 捕まっていたのは女性が十三名、男性が二人の計十五人。

 そんな数の器を持ち歩いてない。

 そう思っていると、どこかから持ってきたのか器が用意してあった。

 どこからというか、多分これは盗賊の持ち物か。

 私がクリスの様子を観察していると、一番奥の部屋に向かっていたクリスとジーンが戻ってきた。

 しかし、二人とも浮かない顔をしていた。

 

 

「どうかしましたか?」

「……なんていうかだな」

「そうですわね、一番は一度見てもらった方が早いですわね」


 一番奥の部屋、そこには一人の女性がロープで繋がられていた。

 その女性は丸くなって寝ているようだ。


「外さないのですか?」

「外すが……なぁ?」

「ええ、外します。外しますが……」


 ボリュームのある白髪。

 そこから生えているのとは別でお尻から伸びた毛が動いて体に巻き付くようにした。


「え……これは」

「ええ、分かっているかと思いますが、彼女は獣人、亜人なのですわ」

 

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

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