強襲前には段取りを
依頼を受けてから五日。
依頼書に書いてある場所まで移動と、そこからのアジトの場所の調査。
そこから今日強襲をかけるために夜まで待機することになった。
火も使えないから保存食を噛みながら、森の中に潜んで待つ。
「ジーンはどれぐらい身体強化をできるようになりましたか?」
「あー……連続で使いっぱなしだとニ十分ぐらいかな」
「すごいのではないですか?」
「そんなこともねぇよ、クリスなんてもっと長く出来るからな」
みんな真面目に特訓を頑張っている。
私はというと、みんなが怪我するたびに治療魔法を施すことになっていた。
エウラリアさんが隣に付いて、どういう感じで使っていくのかとアドバイスを受けながら、みんなの怪我を治していた。
そのおかげで何とか慣れてきたところもあるが、出来たらみんなには傷ついて欲しくない。
それが難しいことだとは重々承知であるが。
「クリスはどれぐらい出来るのですか?」
「んー……全身ちゃんとやるとジーンと同じぐらいだよ?」
「どういうことだよ」
ジーンの言葉と気持ちがシンクロしてしまった。
「そんなのやってるのジーンだけだし」
「ノナもか?」
「そんなの当たり前。じゃないと持たない」
「ミレイは?」
「ええ、私もコツをつかむのに時間はかかりましたが……」
「マジか……」
ジーンが一人で凹んでいた。
けど、そうやって魔力の節約をしていけば継戦能力が上がると。
私もそうした方がいいのかと思ったのだが、エウラリアさんに聞いたら十中八九、「貴方、瘴気酔い一度もしたことありませんよね? だったら、無駄なことをしないで終わらせた方が早いですよ」と言われてしまいそうだったので口にはしなかった。
「けど、全身にちゃんと身体強化を施して活動できる時間としたら、ジーンとクリスが一番でしたわよ?」
「そうか?」
「ええ、私にしてもノナにしても、全身には施していません。なので、全身となった場合は大分活動時間は制限されますでしょうし、瘴気酔いになって倒れてしまうと思いますわ」
四人が真面目にしていると、それだけでちょっとだけ疎外感はある。
私は知らない間に身体強化を行っていて、みんなが頑張らないといけないポイントを飛び越えてのスタートだったせいであるのだけど。
別のメニューのせいでみんなと過ごす時間が減ったような感じがしないでもない。
「目標とかってあるのでしょうか?」
「キャロライナさんが言うには一日中身体強化が出来るようになるのが目標らしいよ」
「えっと……結構大変ではないですか?」
「そんなこともねーぜ、慣れたらだろうが」
「寝る時間、休憩時間、身体強化が必要ない時間はある」
そういえば、そうだった。
常在戦場ではあるが、常に臨戦態勢にしておく必要はない。
そんな事だと気疲れしてしまって、大事な場面でミスが起こるから。
それに一日中戦うなんて、それこそ戦争とかの規模になるだろう。
私たちは冒険者だから、基本的に国と国の戦争には参加する気はないし、国の偉い人たちも私たちを頼りにしていないと思う。
私たちには隊伍を組んで動く習慣がない。
事前の作戦と現場での判断、アドリブで合わせて作戦に敵を嵌める動き。
信頼した仲間としか出来ない事。
少人数だから出来る動き。
そんな私たちが加わっても邪魔にしかならないだろう。
あと個人的に、そのような依頼は断りたい。
積極的に人を殺したくないというのもあるし、私はそれが出来てしまう力がある。
それを自覚したからこそ、自分の力使うべきではないと思っている。
「それぐらい出来たら、もっと強化の具合を上げても平気になりそうだな」
「それは確かに? キャロライナさんとか、殴られても全然痛そうな感じがしないし、私もあんまり殴ってる感触がないんだよね」
「どれぐらいの力なのでしょうか?」
完全に興味で聞いてみたが、クリスは苦虫を潰したような顔をした。
「ムツミも、キャロライナさん寄りだからね? 結構本気の力込めてやってるって感じかな」
「どれぐらいの力か気になります」
私が顔の横に手を置いて、開いてみる。
クリスがうっと怯んだような声を上げて仰け反る。
「えー……これやる流れ……?」
「あれ、無自覚なんですわよね?」
「うん、魔性」
ノナさんとミレイさんがよく分からないことを言っていたが、今はクリスに手を殴ってもらうことを催促することにした。
学校で、よく男子たちがやっていた。
私には沿いういことをする友達もいなかったと思うから、そんな交流は一切ない。
ただ、少しだけそのやり取りに憧れを持っていたという記憶はある。
だから、ちょっとはしゃいでいる自覚はある。
「まぁいいけどさー……」
クリスが立ち上がって構えを取る。
格闘技をやっていたわけではないから、それがどんな流派の物なのかとかそういうことは全く分からない。
ただ、ボクシングとはまた違う、どちらかと言えば瓦割りの動画で見たことある……あぁ、空手の構えに似ている。
この世界、さすがにそこまで伝わっていないだろうと楽観視をして流すことは出来ないほど、日本の様々なことが伝わっている。
もしかしたら、誰かが知識として広めた上で現地の技術と融合を果たしたのか、はたまた日本から師範代と呼ばれる人が転移してきてこちらの人たちに教えたのか。もしくは、元々この世界に格闘術があってたまたま似ていただけ。
さすがに昔のことでもうそんな資料なんて残ってないかもしれない。
そんなことを思っていると、ギリギリ目で追える速度でクリスの拳が私の掌に吸い込まれる。
軽い音を立てて、クリスの拳が止まった。
想像していた物とは違う。
もっと威力があって、派手な音を立てるものを立てるものだと思っていた。
それでいて、私が「痛い」とか「すごい威力だよ」とかリアクションを取る。
そうしようと思っていたのだが、そうはならなかった。
「えー……っと、その」
「そのままの言葉で言ってもらった方がいいよー」
クリスがそのままガバっと抱き締めてきたので、私はそれを受け入れた。
「追いついたと思ったんだけど、まだまだだったよー……」
「その、ごめんなさい……?」
「ムツミが謝ることでもないだろ」
「まだまだ遠い」
「さすがムツミさんですわね」
それぞれ何故か褒められているような微妙なラインの言葉を送ってきていて困ったなと思いながら、クリスと目が合った。
クリスは素早く目を伏せて、また顔を胸に押し付けてきていた。
「ショックだよー……これでも結構頑張ってきたのにー……」
そういいながらも胸に顔を押し付けてきている。
これは多分、そう言うことだろう。
「クリスも頑張っていますから、すぐに追いつきますよ」
頭を撫でてあげると、クリスがそのままの恰好で話すのだが、案の定くぐもった声になる。
「もっと慰めてー……」
撫で続けていると徐々に日が落ちてきたのか、森の中に闇が広がっていく。
「さて、そろそろ移動しましょうか」
「はーい」
クリスがサッと体を離して、立ち上がる。
歩きながら確認する。
「今回も正面から正面からでしょうか」
「五人だからねー」
「他の入り口が見つかったとしても、あまり分散しすぎるのは得策ではありませんわね」
「では、全員で正面から行きましょう。他には?」
私に足りない知識はみんなが持っている。
日本では使わない、必要のない知識。
だけど、ここでは必要な知識。
それらを忘れないように頭の中のメモ帳にしっかりと記録しておく。
「逃げ口もしくは隠し通路、どこかに作ってるかもしれない」
「確かに……この山や森に逃げ込まれたら、探すのは……難しいですわね」
「ノナさんなら探すことは出来ますか?」
「可能、だけどそれだけしか出来ない」
それだけでも十分な成果だけど、それではいけない。
「なら、ノナさんにはそのまま残ってもらって逃げてくるのを狩ってもらうというのはどうでしょうか?その……前の仕事のことをやらせるようで心苦しいのですが」
「強制してくれてもいい」
「それだけは絶対にしません。嫌なら嫌と拒否してください」
私たちは仲間で上下関係で繋がっているわけではない。
だから、上司が部下に命令するようにしてやらせるなんてあってはいけない。
マフラーから見える口元が少し上がり、ノナさんが笑みを浮かべていた。
「知ってたし、嫌じゃない。その役目、私がやる」
「ありがとうございます」
一通りの段取りが決まり、私たちは盗賊のアジトに強襲をかけるべく向かった。
謝辞
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