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盗賊少女のきっかけ

 ずっと情けない姿ばかりを晒している。

 ムツミとのチームを組んでの活動では、私は全くといっていいほど活躍できていない。

 せっかく呪いが解除されたと言うのに、何もなしていない。

 ゴブリンの討伐でも、あれはチーム単位での活動であって私個人での動きでは決してない。

 今回のムツミとエウラリアという人の戦いでは、初手で閉じ込められてしまった。

 しかも、その閉じ込めた箱内というのがまた狭くて身動きを取るのも困難であったので、何も抵抗できなかった。

 気が付いたら、二人との服がボロボロになっているし、周囲は激しい戦闘の跡を残して、激しい雨まで降り出していた。

 ムツミの説明は聞いたのだが、ムツミは自分の実力を過小評価しているところがある。

 これはチーム内で私だけの考えではなくて、他のみんなもそう思っていることなのだが、このチームの核は間違いなくムツミだ。

 むしろ、私たちの実力が彼女とはかけ離れて低いせいで、ムツミ本来の力を出せないでいるし、私たちに力を合わせているせいでこれぐらいしか出来ないと勘違いしている。

 私たちが弱いから強くなろうとしているが、すぐに強くなれるわけがなくて、現実は甘くないと思い知らされる。

 ただ、自分たちは同ランクの冒険者の中では、実力的には悪くない場所まで登れていると思っているのだが、これ以上になると壁にぶつかっている。

 身体強化。

 Aランクの冒険者はこれが出来て当たり前になっている。

 どのようなものがきっかけで身体強化を扱えるようになったのか分からない。

 そのきっかけを知りたいと思うのだが、私たちはそれが掴めていない。

 ムツミがどこで知り合ったのか分からないのだが、ララという人。

 彼女はムツミに突撃する際に身体強化を使用していた。

 普通の人があんな突進を直撃したら、良くて吹き飛ぶ、悪くて背骨がぐちゃぐちゃになって二度と歩けない体になるぐらいだと思う。

 それを受け止めても平然としている、というよりも普通に後ろから抱き着かれたような感覚でいるムツミ。

 ムツミの身体強化はよく分からないのだが、それを受け止める実力があるということだけは確かだ。

 私たちもあそこまで上り詰めないといけない。

 そうでないと彼女の本来の力を腐らせることになる。

 普段は訓練とかもほどほどですよという顔をしているクリスも陰ではかなり真面目に鍛えているのを知っている。

 ミレイに付き合ってやっているという雰囲気ではあるが、どうにか身体強化が出来ないかとその糸口を探りながらやっている。

 みんながみんな追いつきたいと思っていても、実力が付いて行ってないという状況。

 その中でエウラリアが言ったことは私たちにとっては希望の光だった。

 エウラリアから話があった翌日。

 私たち四人は集められた。


「あたしは人に教えるのとかは向いてないんだよなぁ……感覚でやってるような奴だから」


 目の前にいるのはSランクのキャロライナ。

 背中に背負っている武器はどれも立派な業物だ。

 立ち振る舞いや言葉遣いはどこか大雑把に見える。

 だが、身体強化を普段から行えているような魔力の流れをうっすらと感じられるところから、私との違いをまじまじと見せられる。


「これからあたしがお前たち一人一人に魔力を流していくから、それで感覚を掴んでいってもらう。いいな?」


 それだけ言うと、まずはお前から、と私が指名された。

 キャロライナに背を向ける形で前に立つ。

 彼女の硬く無骨な手が私の背に触れた。


「それじゃあ、魔力を流していくからその感覚をまずはつかめ」


 そういうや否や、彼女の魔力なのかは分からないが、背中から何かが体の中に流れ込んでくる感覚が広がる。

 背中から広がる感覚に集中しようとしていると、キャロライナから流れは何かを探しているように体の中を移動している。

 何を目指しているのだろうと、それが掴まれた。

 一気に感覚が体中に広がる。

 今まで使っていない場所に何かが流れ込んでいくのがはっきりと分かった。

 キャロライナが掴んだのは何か。

 私の魔力だ。

 今ならはっきりとわかる。

 体にはっきりと魔力が流れていく感覚。

 今まで抑え込まれていたものが解放された爽やかさ。

 全能感に近いものがある。


「……すごい」

「ま、こんなもんか。どうだ、分かったか?」

「ありがとう。私たちだけでは自分の魔力の在処も分からなかった」

「何のことだ? あたしは魔力を流して感覚を掴ませただけだが?」


 私がどれだけ言ってもこの人はこれ以上受け取ってもらえないと察した。

 

「うん、掴めた」

「そうか、なら、そのまま身体強化を維持していろ」


 私は言われるがまま、元居た場所に戻って維持してみることにした。

 ジーンが呼ばれて、同じようにキャロライナが魔力を流すと、すぐに効果が出てくる。


「おお、何だこれ!」

「それが身体強化を使う時の感覚だ」

「なぁ、これって魔力だよな! じゃあ、俺もムツミみたいに魔法が使えるのか?」

「いや、使えんし、使ったら身体強化も切れて死ぬからやめろ」


 ジーンの言葉にちょっとだけ期待で顔を向けてしまったが、すっぱりと切り捨てられた。


「使えはするんですかー?」

「使えはする。が、体の内側に魔力を回しながら、放出を同時に行えるのは規格外の魔力量がない無理だ。今日昨日自分の魔力がつかめたような奴がやろうとしてもどっちも半端になって終わるだけだから諦めておけ」


 ムツミがそこに入るのだろう。

 全員がそれ以上言わないでいると、キャロライナさんがため息を吐いた。


「目標にするのは勝手だが、身体強化は入り口に過ぎないからな? これが出来てようやく先に進めるんだ。それを忘れるなよ」


 ジーンが戻ってきたあとに、クリスが呼ばれて同じように魔力の掴まされているときに吐き気がこみ上げてきて、手をついてしまった。

 それと同時にさっきまで感じていた魔力の感覚が失せてしまった。


「気持ち悪い」


 手を付けば、前後も上下の感覚も分からなくなってきてしまって目が回る。

 

「それが瘴気酔いって奴だな。しばらく全員これになるから注意しろ」


 ゆっくりと息を吐いて、力を抜く。

 目を閉じて、自分の呼吸にだけ集中する。

 長い時間をかけたつもりだったが、まだクリスが魔力を掴んでいるところなので数分しか経っていなかった。

 それでも酔いは収まって、気持ち悪さを引いていた。

 嫌な汗が体を濡らしていて、不快な気持ちでいっぱいになる。


「瘴気酔いは体に瘴気を取り込もうとするから起きるらしい」

「魔力じゃない? なんで瘴気?」


 私が聞いても、知らんと一蹴された。


「外にある間は瘴気なんだが、取り込むと魔力として返還されるらしいってどこかの偉い学者が昔言ってたが、そういう理屈らしい」

「おお、すごいっ!」


 クリスもどうやら感覚が掴めたらしい。

 軽く拳を振るっているが、空気を切る音が段違いだ。


「よし、次」

「お願いしますわ」


 ミレイが身を委ねるように力を抜いていた。


「んで、自分の中にある魔力が無くなった際に、体は瘴気を慌てて一気に取り込もうとする。魔力を返還するのにも個人差がある。取り込んで変換されなかった瘴気が体中に広まって、そのせいで体調が悪くなるんだとか言ってたな」


 キャロライナがにやりと悪い笑みを浮かべる。


「ここからが大事な話だ。魔力の量は最初少なくてちょっと身体強化をしていてもすぐに切れて瘴気酔いになる。それで酔いが醒めて、もう一度身体強化をするとさっきよりも長い時間使えるようになってるんだとさ」

「つまり、使えば使うほど長く使えて強力な物になるってこと」


 私が聞けば、キャロライナはあぁ、と同意した。


「これからお前たちには寝るとき以外は身体強化を使ってもらう。全体的な魔力量を増やさないといけないし、その先に行くためには全く足りてないからな」


 ジーンが隣で私がしていたような体勢になっていた。

 どうやら瘴気酔いになったようだ。

 私の方が長い間身体強化を行えていたような気がする。


「摑めたか?」

「……はい」


 ミレイが何度も自分の手を開けたり閉じたりしていた。

 

「今日一日、何度も瘴気酔いを経験しろ」


 身体強化をする際に気が付いたのだが、キャロライナが流した魔力は薄くて、自分で流してみた感じもやはりどこか物足りなさを含んでいた。

 多く流すと満足感もあったのだが、まだ物足りなさがあった。

 魔力の通路に比べて、私の魔力の量が足りないということなのだろう。

 それならば、魔力の通路が満足いくほど流せるように魔力の量を増やさないといけない。

 目標は出来た。

 目指すべきものに向けた門がようやく開いた気がする。

 どうやらこれがスタートラインらしい。

 道のりは果てしなく厳しいように思えるのだが、私たちは折れない。

 ムツミのために私たちは進み続けて、早く彼女が遠慮しないで済むチームにしないといけない。

 私は再び体に魔力を流し始めた。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

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