表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/63

ぐちゃぐちゃな感情

 ぐちゃぐちゃな視界でエウラリアさんを見据える。

 エウラリアさんの背後にはみんなの箱がある。

 ぐったりしている姿が目に入り、怒りが増す。

 助けないと。

 地面を叩くと、ボコボコと巨大な杭が出現していく。


「行ってください」


 私の言葉に反応するように、巨大な杭がエウラリアさんに殺到する。

 山のようになってしまったところで、打ち止めになったが、私は更に地面から巨大な杭を生み出していく。


「今のはなかなか良かったですよ」


 山が吹き飛んで、無傷のエウラリアさんが現れた。

 ただぶつけるではエウラリアさんにダメージは与えられない。

 だったらと、二本の杭を上から叩きつける。

 だが、それもエウラリアさんが壁を出現させて相殺された。

 次は左右から挟むようにぶつけるのと同時に近づく。

 これも相殺だけど、問題ない。

 距離にして五メートル。

 私は拳の左右に大きな杭をつけると、そのまま歩きながら無様なフォームで振りかぶると、エウラリアさんに当たる寸前、またも壁によって阻止される。


「そんな単調な攻撃では私は倒せませんよ? 早くしないとみんな本当に死にますよ?」

「だったら! やめてください!」


 思いっきり叩きつけると、壁にひびが入るのだが私がもう一度叩きつける頃にはすっかりと直ってしまっている。

 足りない。

 速度が足りない。

 もっともっと早くしないと。

 地面に手を置くと、エウラリアさんの下から大きな棘が出現する。

 出現するのだが、当然のように防がれるのだが、エウラリアさんは棘の上に立っている形になった。

 もっと伸ばす。

 地面から離す。

 そして、エウラリアさんを四方から包囲するように棘が襲い掛かる。


「まだこの程度で私を殺そうとでも? 安い殺意ですね」


 エウラリアさんに到達する前に、棘が吹き飛んだ。

 何が起こっているのか理解が出来なかった。

 この人には私の攻撃が通らないのか、私はみんなを助けられないのか絶望で目の前が真っ暗になりそうなのを堪える。

 今はその時ではない。

 絶望するなら最後の最後にしたらいい。

 そもそもあの壁はどうやって作っているのだろうか。

 土でもない、風でもない。自然現象の物を利用したものではないと勝手に結論付ける。

 だったら、何だろうか。

 もしかして、と思ってもそれをどうやって使ったら分からない。

 いや、使っているかもしれない。

 エウラリアさんが空からゆっくりと降りてくる。

 ただ、降りてくるのは私の真上。

 そして、その拳には何かが集まっている。

 振り下ろされるのはエウラリアさんの拳。

 思わず手で顔を守るようにしてしまうと、服が弾ける。

 服が弾けるだけで体に異常はない。怪我もない。

 だから、私も真似をして拳をぶつけるのだが、壁に阻まれる。


「お願いします。もうみんなを解放してください」


 エウラリアさんは目隠ししているせいだが、口元だけ笑みを浮かべた。

 

「嫌です」


 怒りが解けて行くのを感じる。

 分かっている、自分がそんな人間だって言うことを。

 満足に人に怒ることも出来ない。

 どうしようもない人間。

 だから、私の近くに誰もいなかった。

 つまらない人だから、みんな離れていってしまう。

 大事な人はいなくなる。

 失ってしまう。

 この数年一緒に過ごして、これからもずっとみんなと過ごしていたいと思っていたのに。

 なんで私は死ねないんだろう。

 なんで私だけこんな体になってしまったんだろう。

 この体じゃなければ、みんなと一緒に行けたかもしれないのに。

 みんなの体は箱の中で、水に漂うに浮いている。

 きっとそのうちに十分な水を含んだら沈んでいく。

 目の前が真っ暗になる。

 こんな別れ方、嫌だ。

 認めたくない。

 体を丸くして、子供のように泣く。

 私の情けない泣き声だけが響いていた。

 私の魔法によって荒れた台地に私の泣き声以外にも、ゴロゴロと雷雲が立ち込めてきているみたいだ。

 どこからなんて関係ない。

 ポツポツと雨が降ってきた。

 それも次第に雨脚が強くなっていく。

 台風のような本降りになると、轟音が鳴り響く。

 どこかに雷が落ちたのかもしれない。

 力が足りないって言った。

 だったら、見せてやる。

 大自然の力だ。

 立ち上がって、杖を高く掲げる。

 そんなことで雷が落ちるはずもないのだが、今の私には分かる。

 ここに落ちてきてくれると。

 確信に満ちた気持ちは当たり、雷が轟音と共に私のところに落ちてきた。

 服が熱で焼かれて破ける。

 けど、体は何ともない。

 あぁ、そうかと納得する。

 これが私の体の使い方なのかと。

 雷に打たれても平気なのは、もう人間ではない。

 二発目の雷が落ちてくる。

 地面に逃げていく雷を体に留める。

 服が焼けていく。

 とどめた雷のエネルギーを杖の先端に集めると、バチバチとスパークする音が響く。


「みんな解放してください。これならあなたを殺せます」

「どうぞ?」


 自分の甘さが嫌になる。

 みんなの命がかかっているのに、暢気に相手に聞いている自分が嫌だ。

 殺したくない。

 けど、殺さないと解放されない。

 殺意はあった。

 あったのに、本当に殺す時になると鈍ってしまう。


「私は、私はちゃんと言いましたから!」


 人のせいにしないとやれない自分が嫌。

 嫌なことばかり見つめさせられて、死にたい。

 いなくなってしまいたい。

 杖を掲げて走る。

 エウラリアさんは逃げないで私を待ち構えている。

 壁を張るはず。

 だから、私のところに落ちてきた三度目の雷を、体に受けながらエウラリアさんに手を伸ばす。

 しかし、それも壁によって阻まれるが関係ない。

 壁に手をついていると、四度目の雷が私を通って壁を焼き、崩れていく。

 掲げた杖から手を離して、先端に近い部分で掴みなおして、余裕の笑みを浮かべているエウラリアさんの体につきたてると、世界が爆ぜるようにして、一瞬にしてエウラリアさんの体が黒焦げになる。

 衣服は弾けて、杖を突き立てた体の中心から広がるように黒から赤に変わっていっている、嫌なグラデーションである。

 雨によってぐちゃぐちゃになっている地面に尻餅を着いた。

 殺してしまった。

 明確な殺意を持って殺してしまった。

 一気に吐き気がこみ上げてくる。


「あ……あぁ」


 よく分からない声を上げていると、吐き気が上がってきた。

 私はその場で蹲って、吐き出した。

 頭の中も、自分の感情もまとまらない。

 何がしたかったのか、どうしたかったのか。

 自分で自分が分からない。

 普段の私だったらどうしていたのだろうか。

 日本いた頃の私だったらどうしていたのか。

 全部嫌だ。

 吐き出して、吐き出して、全部吐き出してしまいたい。

 吐くものが無くなれば、そのまま倒れ込んで、丸くなった。

 助けてほしい。

 日本でいい年まで生きたはずなのに、こんな醜態を曝すなんて情けない気持ちはあるのだが、それ以上にもうそんなことどうだっていい。

 大事な物も護れないで、日本にいた頃から何一つ成長しないで、大事な物をその指の間から零すのだけは上手な自分が嫌だ。


「雷ってすごい痛いですね。ムツミさん、大丈夫ですか?」


 私が顔を上げると、そこには先ほど黒焦げになっていたエウラリアさんがいた。

 目を疑う。

 さっきまで黒焦げだったのに、その肌は白くなっていて傷一つない。

 服は杖を突き立てた前面から吹き飛んでなくなっていたり、焼け焦げていたりするのだが、目隠しだけは傷一つなかった。


「な……んで?」


 掠れた声が出た。

 死者を蘇生させる魔法でも存在するのだろうかと一瞬考えてしまう。


「これをした目的ですか? 簡単です、あなたの持っている力がどの程度なのか知りたかっただけですよ」


 エウラリアさんがそう言いながら、指を鳴らせば、箱が解除される。

 解除されたとて、みんな無事では――――


「え、何これ?! すごい雨降ってきてるんだけど!」


 クリスの元気な声が雨の合間から聞こえた。


「え……」

「こうでもしないとあなたは力を使ってくれなさそうでしたからね」


 いたずらっ子みたいな言い方をしているのだが、最悪の趣味だ。

 私がエウラリアさんを睨みつけていると、みんなが駆け寄ってくるのだが、私の姿を見たところで足を止める。


「ジーン! 見るな! ってムツミ、なんて格好してんの!」


 クリスがジーンを後ろに向かせると、ノナさんが着ていた外套を私にかけてくれた。


「何で裸で泥だらけ?」

「えーっと、エウラリア様もこれどうぞ……」


 ミレイさんがエウラリアさんに外套を渡していた。

 私は自分の恰好を改めてみると、服はほとんど焼かれていて、大事にしていたラウンドベアのマントまでダメになってしまっていた。

 ということは私はほぼ裸でエウラリアさんに立ち向かっていったことになる。

 その状況が頭に浮かんで、全身が熱くなる。


「深い事情があるんです……」


 ノナさんとミレイさんがお互いを見て首を傾げているのを知らずに、私は体を隠すように外套の端を掴んで合わせた。

 どうしてみんなが無事だったか分からないけど、安堵してこっそりとちょっとだけ泣いた。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ