真剣な戦い
「あなたが私に勝てばすぐに終わりますよ」
「……分かりました。今すぐにやめさせてもらいます」
番えた矢を射出する。
それは私の思惑通りに進んでいくのだが、それだけでは足りないと思って、この前の時と同じように矢じりを作り出して、連続で射出していく。
当たると思ったのだが、矢はエウラリアさんの前に出現した壁によって阻まれる。
しかし、その後に無数の矢じりが壁に突き刺さるようにぶつかるのだが、それで壁がひび割れているのを見逃さない。
だったらもっと、多くしたらいい。
さっきのが二十だったので、倍の四十を用意して、射出する。
しかし、射出したのはいいのだが、全部小さな壁が出現して、相殺じゃなくて、私の矢じりが一方的に潰される形で邪魔される。
「魔法のコントロールが甘いですね。これではいつまでたっても私に届きませんよ」
「魔法が届かなくてもやり方はあります」
弓から杖に持ち替える。
そして、杖を振りかぶる。
自分の杖の前に風を集中させる。
それを思いっきり叩きつけるように振りかぶり、エウラリアさんに風をぶつけると同時に走って、正面に立てば、そのまま横凪に杖を振るった。
「魔法使いらしからぬ戦い方ですね。けど」
杖が下から突き上げられて、目標から逸れた。
「魔法使いが近接戦闘に弱い。それが私にも当てはまると思ったら大違いですよ?」
そんなことは思ってなかった。
ただ、遠距離で戦うものにとって近接攻撃というのは苦手であってほしい、という願望でしかない。
力いっぱいに振るっていたせいですぐに戻せない。
無防備なお腹に水流が思いっきり叩きつけられる。
「……頑丈さは報告の通りですか」
体中水浸しであったが、怪我らしい怪我はない。
ただ、水流の勢いが強くて、体が勝手に後退していた。
「それはどういうことですか?」
「あなたには関係ありません」
エウラリアさんは空中に私の倍以上のそこら中に落ちている石の礫を浮遊させた。
「逃げれない後ろの人たちにも当てます。上手くいなして見せなさい」
それと同時に石の礫が飛来してきた。
さっきのあれを丸パクリするしかない。
ただ、私にはあんなにも正確に迎撃できるほどの腕がないので、手あたり次第だ。
ただ、どうやってやっているのか分からないから、地面に杖を突き立てて、地面から小さなプレートを浮かべるようにイメージする。
背後に浮かんできている感じがしたので、後は目視でどんどん飛来する礫にぶつけていく。
自分に飛んできたのは無視する。
多少痛くても構わないと思っているから。
しかし、そんな覚悟していた痛みは全く訪れずに、全部撃ち落とせたようだ。
大きく息を吐いた。
「このままやったとしても、ずっと同じ状態が続くだけです。今すぐにみんなを解放してください」
「嫌ですね。あなたの本気を知るまでは」
「そんなことを……!」
「いいのですか? 私ばかり見て、仲間がどんな状態になっているのか確認しないで」
エウラリアさんに言われて、ハッとなって背後を向けば、もうみんなの顔辺りまで水位が上がってきていた。
不味い、このままでは窒息してしまう。
「今すぐ解放してください」
「いいえ、しません。解放してほしければ、本気を出してかかってきなさい」
本気を出してってどういう意味だ。
私はこれでも本気を出して相手をしているつもりだ。
それなのに、こちらは突破することが出来ない。
「それじゃあ、これから動けないそちらのお仲間を直接攻撃しますので」
エウラリアさんがそういうや否や、杖を私が持っていたように打撃武器のように持ち替える。
そして、足元をどうやったのか分からないが、射出するようにして突っ込んできた。
後ろに行かせるわけにはいかないとエウラリアさんとみんなの間に入るのだが、足元から生やした壁によって私の頭上を越えていく。
「なっ!」
私が見送っていると、エウラリアさんは軽々と着地したところでノナさんが入っている箱を思いっきり顔の辺りを杖で殴った。
周囲に響く轟音が消えた後では、箱の中のノナさんがぐったりとして、水に浸かっている。
「ノナさん!!」
嫌だ。
なんでこんなことになってるんだ。
私がみんなを守れないからこうなったの。
本気でやっていたのに、守れないなんて不甲斐なさ過ぎる。
「次はそっちの銀髪の子にしますね」
優雅な足取りでクリスの方に向かって行く。
「待ってください」
「待ちません。そう言って待つ相手は三流ですよ」
私が止めるために走ると、壁にぶち当たる。
だから、私がその壁に向かって杖を振り下ろす。
一度で足りなかったので、二度三度としているうちに罅が入って、次の一撃で粉々に砕け散った。
けど、その間にエウラリアさんはクリスのところに辿り着いていて、またしても杖を振り下ろす。
「クリス!!」
クリスも同様に箱の中でぐったりしていて、顔が水に浸かってしまう。
「嘘、嘘ですよね……こんな」
膝から力が無くなってしまったように倒れ込みそうになるのを必死に我慢する。
まだ、助かるはず。
助けなきゃいけない。
エウラリアさんはミレイさんの方に歩いて行っている。
だったら、と思ってエウラリアさんがしたように地面から石を浮かせて、それをエウラリアさんに向けて射出した。
目隠しをしているはずなのに、的確に私の攻撃を防いでいく姿を見て歯噛みしてしまう。
歩みを止めさせられない。
もう少しで杖が届いてしまう。
足りない、もっと多く打ち出さないとこちらに注目が集まらない。
絶えず打ち出しているのにそれでも止まってくれない。
目だけしかこちらを向いてくれない。
そのせいでエウラリアさんはミレイさんの元に辿り着いてしまった。
攻撃をやめさせなければいけない。
その一心で礫を打ち出すのだが、杖が構えられて振り下ろされる。
「み、ミレイさん……」
私が弱いせいでみんなを守れなかった。
一人ずつやっていくのはこうして私の心を折っていくことが目的なのか。
陰湿だ。
陰湿過ぎる。
「どうして、私に攻撃が通らないのか分かりませんか?」
「……私が弱いせいでしょうか?」
「違います。あなたの魔力で操るには礫は軽すぎるからです」
意味が分からない。
同じだけの威力はあるはずなのだから、エウラリアさんが魔力で圧倒しているだけではないのだろうかと思ってしまう。
悩んでいる隙も無い。
もうエウラリアさんは次に向けて歩き始めている。
「それに貴方、仲間がやられているのに随分冷静ですね。大事ではないのですか?」
「大事です」
「大事なのであればもっと必死になるでしょう? 貴方にはそれも感じませんが?」
必死だと言い返すつもりだったのに、本当にそうかと思ってしまう。
最後に必死になったことがいつだったか覚えていない。
そんな人間が必死に物事に向き合えるのかと、囁く声が脳内に響いてしまう。
違うと頭を振って否定する。
「さて、これで最後ですね」
気が付いたらエウラリアさんはジーンの箱の前に辿り着いていた。
「お願いします。エウラリアさん、やめてください」
「まだそんな甘い考えでいるんですか? 貴方のその甘さが仲間を殺すんです」
そう言ってジーンの箱が叩かれると、ぐったりとした状態になり、箱一杯に水位が上がる。
「じ、ジーン……? 嘘ですよね? そんな事ないですよね……?」
みんなこんな簡単に死んでしまう。
覚悟はしていたことじゃないか。
冒険に出たら、死と隣り合わせなんて。
このような不幸で全滅するなどよくあること。
「みんな……声を聞かせてください……お願いします、こんな、こんなのって」
力が抜けて、地面に腰をついてしまう。
そのまま項垂れるように地面に顔をつける。
辛い、悲しい、辛い。
「嫌です、こんなの、こんなの、もっとみんなで冒険するって言ったじゃないですか……」
地面を握る。
胸が抉られたように苦しい。
あぁ、悲しいってこういうことなのか。
両親が亡くなった時も悲しかったのは覚えがあるのだが、これほどでもなかった。
ただただ虚しかなっただけだったからかもしれない。
「あぁ、あああああぁ、あああああああああぁ!」
自分でも意味が分からない声が漏れてしまう。
どうにかしてこの苦しみを、悲しみを吐き出してしまわないとおかしくなってしまう。
だけど、それはどんどん溢れてきて私の心を押しつぶしに来る。
私から大事な物奪った人。
目の前にいる。
悲しくて、辛くておかしくなりそうになりながらもその相手を睨みつけた。
Sランクであろうと関係ない。
なりふりも構ってられない。
自分でも驚くほどの激情。
「私は」
世界を支配するような全能感。
今まで感じられなかった世界と繋がる感覚。
「私はあなたを許さない!!」
そして、明確な殺意。
私は人生で初めて人を殺したいと思っていた。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます
これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




