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帰路とそれぞれ

 マニフィカから出て数日、その間も野営を行っていたが何も起きない。

 これで安全だからと言えるわけではないが、魔物一匹出てこないとなれば、レガードさんが言っていたように聖国内では安全が保たれているのだろう。

 安心と分かっても、それでも野営をする以上夜の番は辞めることないのだが。

 平和で何もない歩きやすい道、そうなってくると暇になってくる。

 私としては周りを見ながら歩いているので、そんなこともないのだけど。

 日本では見ることが出来ない景色だから。

 後方には霊峰、進む先にも山。

 地平の先には小さく村や町みたいなものが現れたり消えたりして、それが楽しくて見ていて飽きない。

 コンクリートジャングルと言われた日本の景色も嫌いではない。

 都会から田舎へ、田舎から都会へ。

 どちらも景色のギャップがあって、気持ちへの切り替えが行われる。


「馬車とかあったら楽かもねー」


 クリスがそんなことを呟くのだが、ジーンはそうかと疑問に満ちた声で答える。


「馬車だと、馬が最初に狙われね? 俺だったらそうするけど」

「あぁまあね。けど便利じゃない?」

「そうだが、馬が潰されたら、また買い直してってかなり金がかかるぞ」

「それは……まぁ、そうだけどさー」


 馬、がこの世界ではどれぐらいの値段で取引されているのか分からない。

 馬がいるというのはとても裕福で、高価な物の印象だけど、それで合ってるのだろうか。


「馬ってそんな高価な物なんですね」

「高価も高価だよ。それだけで一財産だからね」

「ええ、商会としても商隊を組めるほど買い揃えるのはとても大変なことですのよ?」


 さすが商会の娘二人。

 いや、この場合は私がものを知らな過ぎるというのもある。

 馴染めてきたと思っても、こうしてまだまだ覚えることが多い。

 もっと、みんなと話して世界を見ていく必要があるのだな。


「あぁ、でもあれならいいんじゃね? 地竜」

「はぁ? あんなのどこで手に入れるのよ」

「西にいるんだろ? そこまで言って捕まればいいだろ」

「竜は捕まえただけでは言うことを聞かないと言いますわ」

「そうなのか?」


 ジーンと一緒にそうなのと聞き返してしまうところだった。


「竜は気高い生き物。捕まえても、自分より弱い者には決して従わない」


 黙っていたノナさんがやれやれと言うように説明する。

 聞いていられなかったかもしれないのだが、私もそれを知らなかったのでありがたく聞いておいた。


「なら、倒して捕まえようぜ」

「捕まえても置いておく場所がないでしょー」


 クリスの言う通りだ。

 私たちは拠点を持たない。

 拠点を持てるようなランクでもない。


「拠点を持てるようになったらだよ」

「いつの話をしてるのやら」

「あら、目標があっていい話では?」

「Bが見えないのに、Aなんてずっと先」


 みんなが楽しそうに話しているのを後ろから付いて行きながら聞いているのは楽しい。

 話の中に加わるのもいいけど、こうして楽しく話しているのを見ているのはなんだか胸の中が温かい気持ちになる。

 不思議だ。

 日本であると、同じフロアで働いている人の会話に混じらないと、コミュ障とか様々なネガティブな属性をつけられるのに、ここではそんなこともない。


「ねぇ、ムツミもそんな先の話をしてもしょうがないって思うよねー?」


 クリスに話を振られて我に返る。


「そうですね……地竜もいいですが、飛竜というのも興味があります」

「だよな!」

「えぇー……ムツミがジーンみたいになってるんだけどー……」


 竜というものがどれぐらい種類がいるのか分からないのだけど、見てみたいという気持ちは大きい。

 竜という存在はファンタジー作品ではド定番であり、大きさ、強さ、とどれをとっても他の追従を許さないほどだ。

 ある意味で一番憧れの存在である。


「ムツミさんがそういうのは意外ですわね」

「そうですか?」

「ムツミはもっと景色とかが好きだと思ってた」


 女性陣にはどうやら分かってもらえないらしい。

 竜の背に乗るとか、憧れのシチュエーションだと思うのだけど、違うのだろうか。


「空の旅とかもしてみたいですね」


 みんなで空の旅なんて、修学旅行での沖縄に行った時ぐらいかもしれない。

 盛り上がるジーンと私を、白けた目で見てきていた三人に最後まで気が付かなかった。


 ☆


 ギルドの調査依頼を受けて、ゴブリンとの遭遇地点にまで来てみたのだが草花というのは力強いものでもう雑草は生え始めていた。


「何もいないな」

「さすがにここには何もないですね」

 

 俺は周囲を見回しているが、静かで何かが周りに潜んでいる気配もない。

 チームメイト女性魔法使い、彼女とはチーム結成時からの仲でもあるためにこちらの考えも組んでくれるために無駄なことを言わなくて済んで楽でいい。


「少し戻って、ムツミたちが討伐した盗賊団の根城の方に向かってみるか」

「そうですね、あれだけの規模、どこかに巣を作っているのは確定的ですから」


 ゴブリンの巣がある可能性も考えてチームはフルメンバーで向かっている。

 ゴブリンというのは一対一であるのなら、大人なら負けはしない。

 暴力事になれた冒険者であるなら、まず間違いなく殺せる。

 ただ、奴らの頭に正々堂々なんてものは存在しない。

 卑怯であれ勝ちは勝ち。

 騙し討ちも命乞いも死にそうで有効そうなら迷わず実行する卑怯な奴らだ。

 その癖にこちらに向けた殺意だけは立派で、遠征出来る冒険者にとってはある種の試練になる。

 奴らの悪知恵だけは人一倍強く、どこでどうやって知識を強要しているのか知らないけど、人の弱点というものをよくよく理解している。

 例えば、夜闇では見通せない事。

 油断や視線の誘導のさせ方。

 数の暴力の使い方。

 どれもこれもどこで知って、教え合っているのか知らないが、これからはどのゴブリンも知っていて有効活用して来る。

 これだけだと冒険者側が不利であるのだが、ゴブリンたちは共通して調子に乗りやすい。

 ちょっと焦った声を上げるだけで、一斉に飛び込んで来ようとするのだ。

 こいつらは自分たちよりものろまでバカで弱いから、警戒する必要もない、と。

 ニタニタといやらしい笑みを顔全面に張り付けて、向かってくる。

 そんなゴブリンばかりで群れているのであればずいぶん楽な話であるのだが、あの時の襲撃を考えれば首を横に振る。


「斥候が帰ってきたみたいね」

「あぁ、移動するか」


 斥候からの報告でこの先は時にモンスターの痕跡や気配はない、と受けてムツミが討伐した盗賊団の根城に向かうことにした。


 しばらく歩き続けていて、日が完全に昇りきって、傾き始めようとしていることろでようやく到着した。

 根城の近くまで歩くと、不自然なことに気が付く。

 草花が一部無くなっている。

 あとは何度何度もその場所を行き来したかのように、踏み固められているような箇所まであった。

 

「あたりだな」

「そうみたいですね」


 彼女はチームメンバー呼び込んで説明した。

 それぞれが武器を構えて、いつでも相手をやれるようにする。

 するのだが静かだ。

 昼間ということで静かというのはちょっと違うような気する。

 ゴブリンは夜間に活発に動いていて昼間の間寝ているという報告はどこかから受け取っている。

 それにしたって静かで不気味だった。

 ここで観察しているだけでは日が暮れてしまう。

 活発になったあの小鬼たちの相手は面倒であるために、先に進む。

 入口の近くには何かを飼っていた跡や燃やした跡があったが今はそれがない。

 

「入るぞ」


 洞穴の中は食べかすと思わしき骨が大量に落ちていて、並の量ではないと気が引き締まる。

 ただ入ったはいいが物音がしない。

 嫌な予感がした。

 二人一組で洞穴内を探索させることにすると、狭い洞穴だったようですぐに全員から異常もなければ魔物の影もなし、と。

 一番奥を目指して歩く。

 そこには金属の柵が歪み切った牢があるのだが、その奥だ。

 そして、その場所で見たものを後悔する。


「マジか……」


 牢の奥に開けられた穴。

 それはとても深く深く山脈の向こう側、亜人たちの住む方まで伸びているのではと思わせるぐらいには深かった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします

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