未来の依頼たち
「それは何でしょうか」
万が一のこと、なんとなく分かっていて聞いている。
ただ、それが違えばいいと思って、在りもしない希望を抱いてレガードさんの言葉を待つ。
「アビ―と、そのついでにアビーの周りの子をこの国から連れ出してほしいんだ」
「この国の要人を誘拐しろってこと?」
クリスの言うことが正しいのだが、そうはっきり言ってしまうと心が重くなる。
犯罪まがいのことは……うん、してきたけど、人殺しはもうしてしまったからそれ以下の犯罪だけど、それでも自分から手を染めに行くとなるとやはり躊躇が生まれてしまう。
「違うよ? アトランタルまで要人を警護して欲しいのさ」
物は言いようであるし、用心を誘拐もしくは拉致して欲しいなど冒険者組合に依頼したとしても門前払いされるのがオチだろう。
言葉遊びの類とはいっても、日本でもそういうものは多々ある。
現場の人不足を少数精鋭など一見綺麗に言葉を飾っているけど、実態はそうでもない事。
「冒険者組合を通しての依頼だったら、受けるかも知れないね?」
クリスはそう言って私の方を見た。
クリスの方を見て一度頷いてから、レガードさんに向き直る。
「そうですね、冒険者組合を通された正式な依頼であれば受けようかと思います」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ただ、これも今すぐという話ではないんだ。だから、そうならないように行動はしていくつもりでも、次善の策があった方が安心するからね」
レガードさんが笑みを浮かべると、席を立って扉を開ける。
秘密のお話は終わった合図だろう。
それにしても、この二年で色々な縁を結ぶことが出来たと思う。
正直、私には出来過ぎた話でもあるから、最初に出会ったクリスとジーンに巻き込まれて、私がその後二人を巻き込んでよかったと思う。
私一人では広がらせられなかったと思うから。
それにまだこれから行きたい場所も、目的があって行ってみたい場所も出来た。
レガードさんが、戻りながら私たちに聞いてきた。
「君たちはこれからどうするんだい?」
「どうする?」
顎に手を当てて考える。
この後の予定は考えてなかった。
けど、やらないといけないことがある。
アトランタルに向かったルアンさんとダガンさんがどうなったのか、そちらも気になるから一回戻らないといけない。
けど、調査が始まっているなら多分、調査を始めたところだってことで終わりそうなのでのんびりと帰っても問題はなさそうに思える。
あとは神竜と呼ばれる者たちがどこにいるのか探して、そこを訪れてみたいと思うから、目撃談はなくとも噂話を集めるために色々な街を経由していきたいとは思っていたりする。
どれも差し迫った期限がない事ばかりで、焦ることもないのだけど。
「少しゆっくりとしてから、アトランタルに戻ろうかと思ってます」
せっかくこの街に入れたのだから、もう少し観光をしてから出て行くのも悪くない。
依頼を受けないと切迫した懐事情でもないから。
「それなら、アトランタルに戻るついでに手紙の配達の依頼を受けてくれないかな?」
「どこにでしょうか?」
「アトランタルの冒険者組合の支部長さんにね」
私はクリスの方を向いた。
クリスが頷いてくれたのを見て、それならばと答える。
「受けようと思います」
「ありがとう。出発の日時が決まったらまたその時には教えてね」
分かりましたと答えると、クリスが思い出したように声を上げる。
「そう言えばここの冒険者組合を覗いた時に思ったんですけど、依頼少なくないですか?」
「あぁ、それは騎士たちが巡回しているからだよ」
こともなげにレガードさんが言うのだが、それはつまりこの国はマニフィカの外、国境の中を軍が警邏しているではないだろうか。
お金がかかることだと思う。
そして、道中にはそんな騎士たちが在中する場所を目撃しなかったはず。
帰りの道すがらに見えたりするのだろうか。
「すっご、それって大変じゃないですか?」
「そんなすごいものじゃないよ。それに街の中にいたのでは、外から来る脅威には対抗できないからね。騎士のこの地で生きる人たちを守り平和をもたらす者たちだから、街で平和を維持したいなら衛兵に志願するのさ」
私なら戦わないで済むなら戦いたくないので、守ってもらう立場をすぐさま選んでしまうと思う。
「騎士たちも仕事での防備であるし、そこで野宿を知ろとか野営をしろとは言ってないよ? ちゃんと泊まれるような施設は作ってあるし、そこなら魔物や凶暴な野生生物がいても壊されることのない丈夫に作ってあるから」
思った以上にちゃんとした造りだ。それならちょっとした砦みたいな感じでいいのかな。
けど、これから納得いく。
実力は魔物を普通に倒してしまうほどの実力あるから、魔物も迂闊に近寄ってこない。
近くをどんな風に警邏をしているか分からない以上、盗賊の類がこの国に入り込んだとしてもその直後に殺されたものであらば、意味がない。
そんな仕事がしにくい場所で仕事をするよりも、もっとやりやすいところを拠点にして仕事をした方がずっとマシということで、別のところで略奪行為をするわけだ。
「だから、この国では冒険者の仕事は少ないだろう? そのせいもあってこの国は冒険者の仕事は人気がないんだ」
その言葉を合図に軽食が運ばれてきた。
☆
マニフィカで過ごした数日。
街の人たちは明るく、人が良くて、ちょっと道が分からなくて尋ねたところで気前良く教えてくれたりと親切だった。
住むのであれば、とても住みやすい街かも知れない。
栄えているので人と人の関係というのは希薄なのではと思っていたが、そうでもないらしい。
食べ歩きをしながら、街中でどんな話をしているのかと耳を傾けてみれば、どこそこの娘は協会で偉くなったと言えば、そこの家の人たちは協会でもエリートなんだぞ、みたいな話を聞こえるので噂話のネットワークは結構広そうだと判断した。
何かあれば一気に街の中に広まりそうだ。
現代社会ではネットやSNSがあるから広まっているが、もしなかった場合は現代社会で広がるのだろうか。
田舎だと広まりそうだけど、都会だとどうなのだろうか。
私は隣に住んでいた人の顔も思い出せない。
話したこともない。
街中に出ても、あぁこの人は結構顔を合わせるかも知れないと思う人はいるのだけど話したことのある人になるとほぼない。
それぐらい希薄な現代の都会。
ネットがないのであれば、もしかしたらこれぐらい活発に隣人とかと話したりするのだろうか。
夢を向けてみたが、私自身そんな隣に住んでいる人と会話したりする気もない事に気が付いた。
単純に興味がない、それに尽きる事。
自分が女性で隣人が男性であった場合、それだけで事件に発展しかけたりする。
昔からあり得る可能性で、そういう意味では関わりが薄いことに利点もあるだろう。
「ムツミは何してる?」
ぼんやりと街の様子を眺めていると、いつの間にか隣にいたノナさんが話しかけてきた。
「街の様子を眺めていました」
彼女は何も言わないで私の隣で同じように街の様子を見つめる。
その瞳にはどんな風に街が映っているのか知らない。
綺麗に見えていたらいいかなと希望を持つ。
「私がいたところよりも平和」
「ノナさんはどちらの出身なのでしょうか?」
ノナさんが首を傾げる。
どうして首を傾げるのか分からなかった。
変なことを聞いたはずではないはず。
「生まれは知らない。気が付いたらそこに住んでたから」
それはどういう意味か、聞けなかった。
気軽に触れていいのかどうかわからなかったからだ。
私が何も言わないで、いえ、言えないでいるとノナさんが自分から話してくれた。
「王国に私はいた。王国の南東にあるレプテン領にある都市ノーチス、ずっと私はそこにいた」
そして、ノナさんの瞳にしっかりと力が入る。
前方を、ここではないどこかを睨みつけていた。
「いつか、必ず決着をつけに行かないといけないと思っている」
そこには私でもはっきりとわかるほど、ノナさんのことだから、私にもわかりやすく殺意を込めて決意を述べた。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます
これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




