レガード邸
レガードさんの家というか屋敷は、豪邸と言っても差し支えないほどの大きさだった。
大きな庭の奥に見える二階建ての横に大きな家屋。
ファンタジー作品でしか見たことがないような、噴水のある庭。
その周りの木々もしっかりと手入れをしてあり、綺麗に剪定されている。
さて、どうやってと入るのかなと思っていると、カーティスさんが門番の人に声をかけていた。
「レガードの客人だ」
それだけ告げるだけで門番の人は門を開けてくれる。
みんなで門に移動して入っていく。
カーティスさんも入っていくのかと思っていると、そこにとどまっている姿が見えたので歩みを止めて体を向ける。
「私の仕事はここまでだ」
「すみません、カーティスさん。ありがとうございました」
しっかりと頭を下げておいた。
きっと使節団を終えて、こちらの国の中でやる仕事もあったはずなのに私たちの案内なんて言う仕事をやらされていたのだ。
カーティスさんもきっと真面目そうだから、命じられたら受けてしまうのかな。
「君たちが気にしないでいい。あとで自分で文句を言うから」
文句が言い合える関係ならいいかと思って、再度頭を下げて屋敷に向かって歩き出す。
「いつかこれぐらいデカい拠点もちてぇな」
「えーちょっと大き過ぎない?」
「大きいし、門がちょっと低い」
「十分な大きさですわよ?」
五人でいると賑やかで楽しい。
一歩後ろを歩いてついているのだが、楽しくて心が満たされて行くのを感じる。
みんながどんな会話をしているのかとかはあまり関係ない。
チームの仲間と一緒にいられるのなら、それだけで今は私には十分だ。
そんなことを私が考えていると、ジーンが足を止めて、こちらを振り向いた。
「ムツミはどう思うよ」
「やっぱ、もうちょい小さい方がいいよね?」
みんなが足を止めて私の方を向いていた。
「え、っとそうですね……ここのお家の半分ぐらいとかでどうでしょうか?」
あまり広い家というのも不安がある。
住んだこともないし、訪れたこともないから。
小さい方が何というか安心するというのは、自分が住んでいた賃貸マンションと似たサイズを連想しやすいからかもしれない。
「ムツミは欲がない」
それにミレイさんがくすくすと笑う。
「そうですわね。それがいいところでもありますわ」
おかしいことを言ったのだろうか、と思っているとみんなの肩越しに家の扉が開いたのが見えた。
そこから出てきたのは、レガードさんだった。
「いつまで待っても来ないから……そこで何をしているんだい?」
「あ、すみません」
ちょっとだけ大きな声でやり取りをして、レガードさんの元に向かって行く。
玄関は立派な石の作りでちょっとやそっとの力ではびくともしない堅牢なもの。
扉も大きく、何人の人が同時に入れるのかちょっと試してみたくなる。
レガードさんは私の姿を見て、うんうんと何か頷いていた。
「えっと、どうしたんですか?」
「いや? ムツミさん、フードを被ってもらっていていいかい?」
「いいですけど……」
私の種族、エルフがこの国では忌避されるってのはちょっと考え難い。
だけど、言われてフードを被ると、レガードさんは満足そうな顔をする。
「うん、それじゃあ、ようこそ、僕の屋敷へ」
レガードさんが屋敷の扉を開け、私たちが扉の中へ入っていく。
屋敷のエントランスの部分には青色の絨毯が敷き詰められていて、装飾の細かい壺や綺麗な花。どれこれも私には価値が分からないほど高級そうなものがたくさんある。
豪邸も凄いのだが、その内部もそれに劣らないほどの装飾品がたくさんあった。
壺や絵画と興味があったのなら、それがどんな見事な物か見て回れるのだが、美術展とかも言ったことがない人間だから、感想がとても貧相な物しか出てこない。
「今日は君たちに紹介したい人がいるんだ」
レガードさんがそう言うと、エントランス正面にある階段の上から一人の女性が降りてくる。
その人はレガードさんとは同年代と思われるのだが、肌の艶やハリがあって、もっと若く見える。長く腰まである髪はしっかりと手入れされているようで、さらさらと自然な流れをしている。鮮やかなオレンジブラウンの髪色がそれをよく強調していると思う。
とても姿勢が良く、薄い唇に眉、目が細長いが顔全体は丸みを帯びているから優しい人なのではないかと印象で受け取る。
「レガードの妻、ヒルダ・ウィザースプーンといいます」
綺麗なカーテシー姿なのだが、私たちは身分としては冒険者。
貴族の方々と比べては天と地ほど違う身分である。
そのような相手に良いのかとつい戸惑ってしまうのだが、地球の文化と違うのかもしれない。
あまりにも似ている部分もあるせいで、つい戸惑ってしまう。
この世界は日本または地球文化とこの世界独自の文化がキメラ的な融合を果たした独自の物があるのだと改めて脳裏に刻んでおく。
私が挨拶を返そうとすると、レガードさんに遮られてしまう。
「もう一人君たちに会わせたい人がいるんだ」
これ以上に合わせたい人がいるのだろうかと訝しんだ目でレガードさんを見てしまう。
レガードさんがどうぞ、と言えば一階の右手にある扉が開いて、一人の少女がこちらに向かって歩いてきた。
修道服なのだろうか、白を基調に金糸で紋章のような複雑な模様が縫ってある。十字の模様も黒で縫ってあるのが見える。パッと見で、教会の関係者だと分かる。
修道服のベールから髪が見えているのだが、普通修道女の方々がつける頭巾というのは髪を覆っているはず。これも文化の違いか、これをデザインした人の趣味、もしくは私のように地球から来た人の趣味が入ったものか判断が出来ない。
頭巾の中に髪が入っているのでどれぐらいの長さか分からないのだが、真っ白の髪。色素が抜けてしまった、まるでアルビノのようなその白さ。ただ、彼女の肌は健康的な肌色をしているし、笑みを浮かべている薄い唇に、柔らかな目元にグレーな瞳の色。
この世界の髪色のバリエーションには驚かせられる。
レガードさんと奥さんがさほど変わらないほどの身長なのだが、少女の身長はそれよりも小さい。
クリスと同じかちょっと高い程度かもしれない。
「アビゲイル・ブラッドベリ―と言います」
彼女もまた綺麗なカーテシーで、私は私の作法で挨拶を返そうとしているとレガードさんが私たちのことを簡単に紹介していく。
そして、そのまま食堂の方まで案内される。
大きなテーブルに、多すぎる椅子。
レガードさんと奥さん、そしてアビゲイルさんが右側に座り、私達一行は左側に陣取った。
料理を運ばれてくるの待ちながら、そろそろ気になっていたことを聞いてみた。
「あの、もう脱いでもいいでしょうか?」
「そうだね、もういいよ」
一体何がしたかったのか分からないのだが、それでもフードを取る。
「え」
どこからか驚いた声が聞こえたような気がした。
フードを取った瞬間の解放感を味わっていたが、アビゲイルさんは目を大きく見開いていて、声の発生源はアビゲイルさんだったのかとのんきなことを思っていた。
そのせいで彼女の発言で、私が驚く羽目になる。
「イベリア様……?」
「え」
誰と見間違えたのだろうか。
聞いたことはない、と思う。
真ん中に座っているので、左右に顔を振ったがミレイさん以外は首を傾げていた。
「レガード様?! これはどういうことでしょうか! いつイベリア様がこの世界に顕現されたのでしょうか!」
アビゲイルさんが椅子から立ち上がって、レガードさんの方に詰め寄った。
そんなレガードさんだが、肩を震わせている。
「はははは! アビ―よく見なさい。この人はイベリア様にそっくりだけど、別人だよ?」
「ど、どこがですか! 聖書の姿そのままじゃないですか!」
「あのおっさん、分かってやってんな」
「たち悪い」
ジーンは行儀悪く頬杖をついてアビゲイルさんとレガードさんのやり取りを見て、ノナさんはただ半目でそれを見ていた。
状況に付いて行けない人が多い。私も含めて。
「あの、これは一体……どういうことでしょうか?」
「そうだね、それも食事をしながら、話しを進めていこうか」
レガードさんがそういうのを待ってましたと言わんばかりに、目の前に豪勢な食事が次々と並べられていった。
謝辞
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