聖国
メディウスから出発して約一ヵ月。
遠くから見えるほど大きな山で、それが徐々に近づいて行くから期待はどんどん高まっていた。
そうして近づいた聖国リベリア。
思わず、声を出してしまった。
「すごいですね……」
「そう言ってもらえると光栄だよ」
私の隣にレガードさんが立っていた。
聖国リベリアの聖都マニフィカは見事なところだと思う。
霊峰イニオン・ルイン、すごく大きい山だ。
想像していたよりも立派な山で、山頂は雪を被っている。
高さはどれぐらいだろうか。
富士山よりも大きい、もしかしたらエベレストよりも高いように思える。
この世界だと実際の標高が分からないから何とも言えないのだけど、富士山モエレベストも実際に麓から見たことがないので、そう思えてしまう。
この山の向こうには王国の領地が広がっていて、これが境目になっているらしい。
崩れてきたりとかはしないのだろうかと心配になるのだが、聖女の祈りと神竜の加護のおかげでどうやらそういう事態は起きていないらしい。
そして、聖都マニフィカは霊峰イニオン・ルインに負けていない。
立派な城壁が築かれているし、城壁の向こう側には大きな神殿やお城と日本では見られない光景が目の前に広がっている。
ここから見えるということは城壁よりも一段か二段高いところに築かれているのだろうか。
アトランタルの風景も中世の街並みという雰囲気でいいのだけど、マニフィカはまた違う。
異国という感じがはっきりとする。
城壁も立派なのだが、街を囲む防衛壁もまた立派で、ところどころには監視のための塔みたいなのも立てられているし、遠目からでも壁の上を哨戒している兵士たちの姿を見ることが出来る。
こんな光景を見ることが出来るなんて、日本にいた時は見ることがないと思っていた。
だから、多分今の私は凄い感動している。
「さて、今日中に街に入りたいから移動を再開しようか」
「そ、そうですね。すみません、見惚れてしまっていて……」
「それならぜひ壁の中も見てほしいね。きっと驚くから」
そう言って、再び歩き出してから約半日かかって、防衛壁の前までたどり着く。
門の前には様々な人たちが列をなして、待っている。
あれはクリスとミレイさんに教えてもらったのだが、検閲をしているらしい。
荷物や身分、そういうのを確認してから国に入れているとか。
確かに、言われてみればそうだ。
日本というか、地球でもパスポートがなければ他国に渡れないし、空港で荷物とかの検査とかも行っている。
それが人力であるというだけの話だ。
私たちは一団はその列を横目に見ながら、先へ先へ進んでいく。
列を守らないでいいのかというのは日本人特有の考え方かもしれない。
私があまりにも心配そうに眺めていたのかクリスが横で声をかけてくれた。
「一応、国の代表として他国を歩いてきたんだよ? 優先してはいるのなんて当たり前じゃない?」
私がそういう立場のことをよく知らなかったのもある。
ただ、確かにレガードさんが気さくに話してくれるから忘れていたのだが、あの人は使節団の代表で発言権も大きい人だ。地位はしっかりとしていて、国の中でもそれなりの立場にある人なのだろう。
人望もそれなりにあるみたいだから。
そうでしたね、と答える間に馬車は門の前まで進んでいて、門の前の兵士たちから大きな声で挨拶されるや、特に検査を受けることもなく門の中に通されて行く。
左右には大勢の兵士たちが馬車の道となるように並んで、敬礼したまま立っていた。
「すごい光景ですね……」
「使節団の代表だよ? 外交担当で他国を渡り歩いている人なんだから当然じゃない?」
クリスに言われて、それは確かに思っていたこと。
ただ、口には出さなかった。
「そうですね……そうでした」
今気が付いたように訂正した。
そうして、私たちは使節団の一団と一緒に街の中に入っていく。
馬車の窓からはその街並みが見えてくると、窓にかぶりつくようにして外の光景に見惚れる。
街の中はとても綺麗で整備されていた。
建物の壁は基本は白を基調にしているところが多く、形としては屋根がない四角の箱型の形状のものが多い。
屋根がないということは雨が降った時とか、雪が降った場合はどうするのだろうかと考えてしまう。
雪が降った場合のことを考えるのだが、もしかしたらここは雪が少ない地域かも知れない。
そうなってくると備えは必要なさそうだし、考えてないのも分かる。
そのようなことを考えていると、建物の脇に屋上から垂れている筒があることに気が付いた。
そして、それが地面にある溝のとこまで伸びている。
地下とかに繋がっている、のかな。
誰がそんな知識をもたらしたのか、いや、もしかしてこの世界の人がそこまで発展させたのか。
判断材料が少なくて、断定が出来ないのだが、ここはかなり発展してきているのではないかと思ってしまった。
そんな風に見惚れていると、どんどん馬車は進んでいく。
結局私たちは城壁の前まで馬車で連れられて行ったのだが、そこで下ろされた。
「ありがとう、これで依頼の方は完了だよ」
「いえ、何もしていませんでしたから……」
本当に何もしていない。
レガードさんの話し相手をしていただけの旅だった。
「それで今日泊まるところは、これからだよね?」
「ええ……そうですけど」
「僕の家に泊っていかないかい? 僕の家内も喜ぶだろうからね」
いいのかなと思ってしまう。
これまでお世話になりっぱなしだったのだから、これ以上お世話になるのは気が引ける。
私がそんなことを話していると、ミレイさん近づいてくる。
「いいのではないですか? 顔を繋ぐという意味でも」
私が振り向けばみんな頷いてくれているので、合意の上ということだろう。
「それではお世話になろうと思います」
私がそう告げると、レガードさんは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「君たちはこれから冒険者組合かな?」
「はい、挨拶と報告に」
「では、陽が沈むころに冒険者組合に使いを送るから、その人に案内してもらって」
そういうと、レガードさんが依頼の完了の割札を渡してくれた。
「分かりました。その時間までに冒険者組合の方にいます」
レガードさんはそれには手を振ってこたえて、馬車の方に歩いていく。
そうして、ゆっくりと進みだした馬車は開かれた城門に吸い込まれてその姿が見えなくなってしまう。
ゆっくりと閉められる城門。
完全に締められた門を見て、私たちは背を向ける。
冒険者組合で挨拶と、依頼を確認をしたのだが、ここにはあまり依頼がなかった。
どうしてなのかと思っていたが、やることがないなら街中を散策することしかやることはない。
私たちは日が落ちるまで、みんなでマニフィカの街並みを堪能することにした。
マニフィカの街はとても活気があり、大通りを歩く人たちにも笑顔が溢れて、子どもたちだけで走る姿も見られた。
歩いていればそこら中に衛兵の姿が見れるから、安心して国民が過ごせられるし、外を歩けるのかもしれない。
そんな風に見て回ってるだけですぐに時間は過ぎてしまい、気がついたら日が傾き始めていた。
だから、冒険者組合に戻って待っていたら、カーティスさんだった。
カーティスさん、結構偉い立場にいるのにそんな人を使いによこすというのはどうなのだろうか。
それだけ歓待の気持ちが強いと受け取った方が良いのかとも考えてしまうが、別に国に歓待されているわけでもないのに団長という立場だった人を使いにするのはないのではと思ってしまう。
申し訳ないと思いながらもそれでも案内してもらったレガードさんの家。
「すげえな……あの人」
「大きい」
ノナさんとジーンがそんな感想を漏らし、私はあまりの大きさの豪邸に言葉を失っていた。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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