境界の街
聖国リベリアとホルス公国の境界の街メディウス。
アトランタルに負けず劣らずの大きな街。
石造りのしっかりとした建物、道は整備されていて舗装もしっかりしている。舗装された道をどんどん馬車が通っている。
露店も多く出ているために、様々ないい匂いがして思わず足を向けてしまいそうになる。
その時、クリスに捕まって、後でねと言われて年甲斐もなく子供みたいに釣られて行ってしまったことを恥ずかしくなって顔を俯かせてしまった。
その後、私たちは冒険者組合に顔を出して今回の依頼完遂の割札をもらった。
ルアンさんとダガンさんは割札をもらったら、私たちに挨拶をした後に、すぐにアトランタルに引き返していった。
さて、それじゃあ、私たちはどうしようかと思っていたが、とりあえず宿を取るとこにした。
お金はあまり使ってないのもあって、そこそこいい宿に泊まることにした。
私たちの服装は少し汚れていたけど、それでも泊めてもらえてよかったと一安心。
私とノナさん、ミレイさんで一部屋。クリスとジーンが一緒でいいのかと聞いたら、昔から一緒なのだし今更何も問題と言われたので、同じ部屋にした。
部屋に付いて荷物を下ろすと、ジーンとノナさんが武器屋とか見に行ってくると出ていってしまう。
私たちはどうしようかと悩んでいると、
「出かけない?」
クリスに誘われると、頷いてからミレイさんを見る。
ミレイさんも笑みを浮かべて一緒に行くことになった。
ただ私の顔とかは目立つからとクリスに言われて、ラウンドベアの外套を頭まで被って、顔も半分隠れるように緩くマフラーのような布を巻いて隠すことにした。
ちょっと蒸れて熱い。
確かに私の耳は人の中では目立つのだから隠しておいた方がいいかもしれない。
私がそう納得していると、クリスが半目で見てきていた。
「ムツミはもうちょっと自分の顔面の強さを自覚した方がいいよ?」
「そうですわね。ここまでくる間、どれだけの男性があなたの顔を見ていたのか……」
「え、あれってミレイさんを見ていたのかと……」
本当にそう思っていて、ミレイさん綺麗だからみんな見ているんだなとのんびり観察していた。
けど、私の顔、確かに整っているのは知っているのだけど、自分が男性に注目を集めるほどなのかと首を捻ってしまう。
私が二人の言葉を信じていないというのが伝わってしまったのだろう。
クリスが腰に手を当てて、ため息を吐いた。
「ムツミはちょっと無頓着過ぎ。多分、ムツミよりも綺麗な人なんて両手で数えるほどしかいないと思うよ」
「変な男性に絡まれても、どうにかなる力はありますが、そもそも絡まれないでいることが望ましいですわね」
納得が出来ない部分はある。
自分の顔がそこまで褒められるに値するものなのかということ。
綺麗だとは確かに思ったけど、さすがにクリスは盛っている気がする。
ただ、仲間にこれだけ言われて無下にするというのは私の性格上無理で、だからこそ仲間の言う通りの恰好はするし、人よりもちょっと美人なのかと認識を上方修正することにした。
日本で見たら不審者丸出しの恰好なのだが、クリスとミレイさんに手を引かれて、私は宿を出た。
宿を出て、大通りを歩けば、それだけで様々な賞店が並んでいるのが見える。
商人たちの客寄せの声や、住民たちの話し声、冒険者たちも店前に立ち止まり相談している姿が見受けられる。
「アトランタルよりも商人たちの活気があるねー」
「そうですね、熱気と言ったらいいのでしょうか、それが違う感じがします」
「聖国リベリアの聖都マニフィカに行く商人、ホルス公国の首都へと向かう商人たちが必ず立ち寄る場所でもありますからね。商人がいれば護衛がいる。その方々に対しての商いでここの経済は回っておりますので熱は一層込められますわ」
ミレイさんはすれ違う商人や商店の物を横目で見て私たちのペースに合わせて歩いている。
「私ここまで来たことなかったから、ミレイさんがいて助かったよー」
私はクリスの言葉にうんうんと頷いた。
「そんな事ないと思いますが」
「私たちはまだアトランタル近郊でしか活動していなかったので、とても助かる情報ですよ」
「そそ、ジーンやノナは戦闘面では頼りになるんだけど、そういうの面倒らしくて全然なんだよねー」
ということは、武器屋を見に行くという口実で逃げたのだろうか。
確かに今回は買い物を控えめにしようかと思っている。
保存のきく食糧であってもやはり何日滞在するのか決めていないので、種発してすぐにダメになっても困るから、直前までやらないつもりでいる。
「とりあえず、色々と見て回りましょうか」
大通りを抜けて広場に出れば、そこには露店も多く並んでいて食べ物を焼くいい音と匂いがお腹を擽る。
どれにしようか悩んでいると、クリスが
「好きなもの買ってきていいよ。けど、ムツミ、ボーっとしてたらいけないからね?」
許可と同時に注意されてしまった。
スリに気をつけろということだろう。
アトランタルでもスリをする人間はいる。
そういう人たちは捕まえて、衛兵に突き出すということを何度かやったことがある。
どうやら私は他人から見ると、ボーっとしていることが多いそうだ。
それで狙いやすいから、よくスリをされるということらしい。
犯罪に巻き込まれるのは理不尽だし、当事者にも出来たらなりたくない。
ただ、私で良かったと思うところでもある。
スリをした相手に気が付かれた場合、殴られるだけならまだマシで、手を切り落とされたり、殺されたりするのだから。
この世界の命はとても軽い。
スリをするのも、何をするにしてもこの世界では命をベットしないといけない。
肉を何か野菜に巻いて焼いているお店の前に並ぶ。
この体、ちょっとぐらい脂っこいものを食べても胃もたれもしないから好きな物を食べられることが何よりもいい。
日本にいた最後の方は油の少ないさっぱりしたものを好んで食べていたから。
私も焼肉でお腹いっぱい食べたいと思ったこともあるから一人で肉を焼いて食べたのだが、スーパーで買った牛肉と豚肉のパック。
豪勢に行こうと思ったのだが、半分も食べないうちに油でどんどん気持ち悪くなってしまう始末だった。
しばらくお肉のパックが終わるまではお肉祭りで辛かったなといつの頃の思い出か分からないけど、思い出した。
男性だったら、それだけしか食べれなかったのかと情けなくなるし、女性なら一人で食べ過ぎではないかとちょっと心配になる塩梅なせいで自分がどっちだったか分からない。
一本だけ頼もうかと思ったが、二人も食べたいかもしれないと気が付いて三本頼むことにした。
大きな肉の櫛を三本持って、二人の下に行くと驚いていた。
「一人で食べるの?」
「いえ、お二人の分もですよ?」
「なかなかの量ですわね……」
二人にも串を渡すと、クリスは美味しそうに食らいついて、ミレイさんはどこから口をつけたらと迷っている様子。
私も口をつける。
甘辛いようなタレが塗ってあるのだが、これがまた味が濃い。
男性が好みそうな味付け。
肉の下には芋があって、こちらもしっかりと蒸かしてある。それに肉のタレが染み込んでいて美味しい。
「次の予定はどうしましょうか」
「そうだねー……ゴブリンの件は気になるけど、今はすることないんでしょ?」
「することはないことはないと思うのですが、そうですね、組合からの依頼となると他の冒険者の方と取り合いにはなりそうですね」
「じゃあ、しばらくはここで稼いでいく?」
ここでもいい気がするし、聖国もいい。
公国の首都はミレイさんのことがあるから難しいところだ。
選択肢はたくさんある。
どれを選んでも正解なような気がする。
「……ここでゆっくりしながら、考えましょうか」
いい考えが浮かばない。
話し合っても結局同じような話になりそうだったから、これは逃避だ。
ただノルマがあるわけでもなく、自分たちがやりたいだけの仕事を選べられる。
緊張感のあった護衛依頼の後だ。
少しだけ気を抜く時間も必要だ。
それが今という話。
次に飛び立つために今はちょっとだけ羽を休めることにした。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




