みんなと初めての依頼
初めてみんなでの遠征依頼。
ミレイさんがすごい頑張って、真面目に仕事をやってきたので、それが報われたというのはとても喜ばしい事。
それを祝おうとしたのだが、ミレイさんに断われてしまった。
それもみんなのランクが上がる時にはしたのかと言われたら、してなかったと答えたからだ。
私だけが特別扱いされるのはおかしい、と。
そうなのだろうか、と思いながらもだったらこっそりとプレゼントが渡してしまおうと思って、付き纏うとあからさまだったから、買い物に行くのに付き合ってもらったりして何が欲しいのかこっそりと様子を見ていたりした。
そこでミレイさんが見ていたのは武器防具屋にある一本の槍だった。
値段はそこそこする。
ミレイさんの稼ぎだとちょっと厳しいぐらいの値段。
多分、そこそこいい代物なのかもしれない。
私には全くそう言うのを見る目がないのだが、ミレイさんやクリスは商会の娘だからそういう審美眼があるのだろう。
そこで、私は別れた後にこっそりとそれを後で購入して、翌日に渡したのだが、心底驚かれた。
最初は断れたが、何度も何度ももらってくださいとそんなのもらえないというやり取りをしていたのだが、最後はミレイさんが折れてくれた。クリスの説得もあったのだが。
その槍を背負って、皮の防具を身に着けているミレイさんは立派な冒険者スタイル。
今回の遠征の依頼は商隊の護衛の依頼。
今回は私たちのチームだけではない他にも二つのチームが護衛として雇われている。
商隊も馬車が五台もある規模は大きそうに見える。
私の基準がよく分からないのはきっと現代ではトラック三台の護衛という感じなのかな。
まぁ、トラックだったら護衛もいらないと思うけど。
出発はアトランタル。
目的地は公国と聖国リベリアの境にある貿易の要になる街。
またあの開拓村の方をぐるっと回っていく。
今回はあの盗賊もいないのだから、安全そうだし、ちょっと楽かもしれない。
「こんな大きな仕事、よく受けれたね」
「ミランダさんが勧めてくれたんです」
冒険者組合の受付。
三つあるのだが、ミランダさんが受付をやっているところは比較的に空いている。
他の二つの受付がフレンドリーなこともあって、ミランダさんが淡々と処理しているのもあって浮いてしまっているのかもしれない。
私はいつもミランダさんが受付をしているのなら、ミランダさんにお願いしてしまっている。
かれこれ付き合いとしては二年になりそう。
付き合いの仕方もずっと変わらないのだが、その日はすっと私の方に一枚の依頼書を差し出してきた。
「あの……これは?」
「依頼書です」
いつもの見慣れた依頼書だから、私でも見間違えるはずもない。
書いてあるのは護衛。
私たちに対する依頼なのだろうか、と頭を巡らす。
「護衛の依頼です」
「私たちへの指名ということでしょうか?」
ミランダさんが首を横に振る。
「いえ、違います。他にも二つのチームが参加していますが、もう一チームの参加が要請されていますが、現状アトランタルでチームで活動している中で参加可能なチーム、実績と評価が基準に参加に値するのがムツミさんのところぐらいだったのでお勧めしました」
ミランダさんに否定されたときはちょっとがっかりとしてしまったのだが、それでも話の内容からは悪くない模様。
本当はみんなに相談してから決めなければいけないのに、私が行ってみたいという気持ちを優先してしまった。
後から相談して時には、ノナさんは大丈夫という反応。ジーンは楽しみだ、とクリスはさっきの通りだった。
大体二十日ほどで到着の予定らしい。
これも直接その街に向かった場合の日程である。
その間に小さな村や町に寄って、食料や水の補給もしなければいけない。そこでも軽く商売をしたり、仕入れたりもあったりで滞在の期間もあるだろうから一月ほどを考えておかないけないかもしれない。
一月もアトランタルから離れるというと、今まで考えたことがないほどの期間だ。
楽しみであるのだが、不安もある。
そう考えていると、見たことがないけど格好から同じ冒険者と思わせる人が二人近付いてきた。
私の前に止まった男性二人。
一人は身長が自分と同じぐらいの男性で、顔に傷がある。髪も短く切り上げていて、腕も太くて、見た目からして強そう。武器はジーンが使っているよりも、もっと鉄の塊のような大剣だった。
もう一人の男性は私よりも身長は頭一つ小さいのだが、冒険者とは思えないような優しい顔をしていた。ちょっと狐のような目をしているのだが、にっこりと笑っていて、柔らかな雰囲気をしている。武器は腰に下げた剣と背中に背負っている盾かな。
「やぁ」
優しそうな男性が手を上げて、声をかけてきた。
私は頭を下げることで対応する。
なんだか同じように挨拶するのは気が引けたから。
「今回同じ依頼を受けたチーム『銀翼の宝』ルアン。Aランクの冒険者だ。よろしく」
そう言って右手を差し出してきたのだ。
こっちにも握手の文化ってあったんだなと思っていた。
あとチームに名前って付けるのか。
ジーンもクリスも言ってなかったけど、そういうのあった方がいいのかな。
後で相談してみよう。
「私はムツミと言います。Cランクです。足を引っ張らないように頑張りますのでよろしくお願いします」
差し出された手を握るのだが、ルアンと名乗った方が一瞬だけ顔をこわばらせるのだが、すぐに雰囲気が元に戻る。
「……俺は『鉄壁』のチームリーダーをやっているダガンだ」
「ムツミです。よろしくお願いします」
私が手を出したのだが、ダガンと名乗った男性は一回躊躇してから私の手を握り返してくれた。
どうして一回躊躇ったのだろう。何か私がしてしまったのだろうか。
二人はそれだけ言うとさっさと去っていってしまった。
あれ、何で私に挨拶されているのだろう。
みんなの元に帰ってきたところで聞いてみた。
「あの私が他のチームの方と挨拶をしたのですが……」
「いいんじゃないの?」
クリスはなんとなしに答えるのだが、私にとっては大事なことだ。
「いえ、どうも他の方はチームのリーダーだったみたいで、私もチームリーダーみたいに接せられたのですが」
「あれ、そうじゃねぇのか?」
「え」
いつの間にそうなっていたのか。
私は全然そんな事聞いたことも、話し合った覚えもない。
「そう思っていた」
「私もみなさんがそういう雰囲気であったので、そうではないかなと思っていましたわ」
「クリスは?」
「私はずっとそう思ってるよ?」
みんなにそう思われていて驚いた。
いや、嫌な気分ではないのだが、なんだか急に重たくなった。
それはきっと責任とかそういうもので。
「私でいいのでしょうか」
「みんなそう思ってるんだからいいんじゃね?」
ジーンがあっさりというものだから、それで流されてしまいそうになる。
「それにムツミは色々と交渉とかいろいろしてくれるから、良いんじゃないかな」
「……交渉というか、挨拶なのですが」
「ジーンに任せてみる?」
向いてないような気がする。
かといって次はノナさんと言われたら、ノナさんもそう言うの向いていないような気がする。
適材適所、役割分担。
色々と思いついたのだが、結局私がやるのが適任だということだろう。
「……そうですね、私がやりましょう」
「さすがムツミ! 頼りになるね」
「クリスは調子がいいんですから」
私がそう言うと、へへへと笑みを浮かべて私の方にもたれかかってきた。
そんなことを話していると、馬車が動き出す。
私たちにとっては初めての長期の依頼が始まった。
謝辞
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