仲間の候補
日程通りにアトランタルに到着することが出来た。
私たちは組合へ報告に向かった。
依頼官僚の割札を提出して、ミレイさんを保護したことを伝える。これからのことについて組合職員であるミランダさんに任せれば大丈夫かと思ったのだが、
「冒険者組合の方では保護の方は難しいです。それらは教会の方が主にやっていますので」
冒険者の宿であればしばらく無償で貸し出せるのだが、と断われてしまった。
教会、か。
宗教というのは非常に繊細だから、関わり合いを持ちたくないと思っていたのに、こうして接点を作らないといけないのかとちょっと気が重くなってしまう。
けど、行かないといけないなと気乗りしないながらも、ミレイさんのこともあるのだからと歩みを進めようとしたところでミレイさんに服を掴まれる。
「私のことで……少しみなさんにお話よろしいでしょうか」
みなさんと言われて、私はいいのだが、ジーンとクリスの方を向く。
家に顔を出すつもりでいたようだけど、話を聞こうということでここではなんだということで場所を移動することにした。
とはいっても、私が知っている場所と言えばここしかない。
冒険者組合の近くにある食事処兼酒場。
冒険者の多くが利用する場所だ。
私とノナさんの間にミレイさん、その対面にジーンとクリスが席に着く。
様々な食事を頼んだ後に、ミレイさんが真剣な顔で告げる。
「私、冒険者になろうと思いますわ」
「え」
あれ、私だけ反応している。
いや、でもミレイさんって商会の娘さんで、それって令嬢ってことではないのか。
そんな彼女がどうして冒険者なんてやらないといけないんだろう。
「さすがに商会には帰れないよねー」
「ええ、戻ってもきっと同じことの繰り返しですわ」
彼女は俯いて唇を強く噛んでいる。
みんなはなんとなく察している雰囲気なのに、私だけ全く想像が付かないで取り残されている。
これは良くない。
早く分かってないことを言わないと、もっと致命的なところで恥をかく可能性が高い。
「すみません、いまいちピンとこないのですが……家に帰った方がいいのではないのでしょうか?」
「ムツミはさ、あの場でたまたま運悪く盗賊に出会って襲われたと思う?」
「えーっと、違うってことでしょうか?」
「それは分からないけど、私ミレイさんに聞いたよね? 偶然とは思えないけど、心当たりある? って」
自分がどんなことを思っていたのか今更ながら思い出して、あっと声が漏れてしまった。
心当たりがあるだろうと推測は出来ていたのに、それが身内である可能性を私は考えていなかったのだ。
日本でも、そういう裏切りなんて良くある話のはず。
ただ、自分が日本にいる間に経験してなかったせいもあるのだが、この世界で知り合ったこの三人に私は頼りっぱなしだし、毎日楽しくしているせいで身内で裏切るというのが考えられなくなっていた。
恵まれた環境にいたから、分からなかった。
「身内で、ミレイさんの家族を売る、もしくは殺してほしいと依頼するような人物がいたというわけですね……」
「ええ、私の父、祖父、曾祖父が築いた商会を乗っ取るためにこのようなことを仕組んだ人物がいるということですわ」
ミレイさんの瞳の奥に炎が燃えているような力強さを感じる。
このタイミングで食事処のご主人、この人も冒険者組合の職員なのだが、飲み物を持ってきてくれた。
それぞれ、自分の前に飲み物が置かれる。
「それなら確かにすぐには家に帰れませんね……」
「はい、それにいつまでもみなさまのお世話になるわけにも行けませんから」
そこは別に大丈夫なのだが、と思っているとクリスと目が合ってニッコリと笑みを浮かべられた。
そうですね、あまり甘いことをしていてはその人のためになりませんよね。
自分を無理やり納得させる。
「それなら商会に雇ってもらうとかじゃダメなの?」
クリスの言うことを聞いて、確かにと思った。
冒険者をやるよりも危険は少ないし、何よりもこれまでのスキルを活かせるのではないか。
私だったらそうしていると思う。
「商会は横の繋がりがどこにあるのか分かりませんわ。それに誰が敵で味方であるのか分からない、ずっと気を張っていないといけない生活はごめんですから」
「だよねー」
クリスの反応から、知っていて聞いたのか。
もしかしたら、私に聞かせるためにわざと質問をしたのかな。
情けないとネガティブなモードに入りそうな心を踏み止まらせる。
今はそれよりもやることがあるのだから。
「それで冒険者ですか……」
「反対ですか?」
「あ、いえ、反対ではないです。応援しますよ、ミレイさんが立派な冒険者になることを」
ミレイさんが苦笑いを浮かべる。
変なことを言ったのだろうか。
「復讐のため?」
「……そうですわ。そうなりますわ」
「それだけのために生きるのは辞めた方がいい」
ノナさんは切り捨てるようにそれだけ告げる。
ミレイさんの向こう側にいるから彼女がどんな表情をしているのか分からないが、まるで知っているかの言いように彼女がどんな人生を送ってきたのか気になる。
「そういう奴は狂って碌な死に方をしない」
それだけ告げると、言うことはないと言うように黙ってしまう。
「冒険者になるのは分かりましたが……」
「そうですわね。良ければ、私もチームに入れてくれませんか?」
私はいいと思うから、口を開こうとした時に先にジーンが口を開いていた。
「ランクが足りないだろ」
私はCランクだし、みんなもDランク。
街の中の依頼は受けないでも十分他の依頼の稼ぎで過ごせることが出来る。
だから、街の外の依頼が受けれるようになった冒険者は出来るだけ外のを受けるようになる。
ただ、まだ街の中の依頼しか受けれない冒険者に対する配慮もあると言えばあるのだが。
「はい、それは分かっています。私が外での依頼が受けれるようになった時、チームに入れてもらえませんか?」
それなら問題ないと思う。
私はそう思って、みんな法をぐるりと見回すと、みんな頷いてくれた。
「武器は?」
「……これから覚えていこうと思います」
街の外はどこで何に襲われるか分からない。
魔物なのか、同じ人間なのか、はたまた野生動物か。
どれに対処するにしても、暴力というのは必要で、それを補う武器の習得は必須である。
私自身、弓はちゃんと使えていると思ったら魔法で当てていると言われて、魔法はなんというか他の人と比べたことがないから分からないけどノナさん曰く圧倒的な魔力があるらしいのでそれでやれてしまっているために、強くは言えない。
私もちゃんと覚えた方がいいかもしれないと、こっそりと心のメモ帳に記しておいた。
「その時は、ミレイさん、よろしくお願いします」
「ええ、とはいってもしばらくはみなさんと別になりそうですわね」
ちょっと寂しいのだが、ミレイさんが元気になってくれてよかったのと、こうして目標がどうであれ生きる目標があるというのはとても喜ばしい事。
それにランクが高い冒険者が低い冒険者を手伝ってはいけませんというルールは組合の方になかったはず。
その依頼がたとえ街の中でしか依頼受けれないランクの者であっても。
「ムツミ、あんまり手伝っちゃダメだからね?」
「……大丈夫です。分かってますから」
クリスに見抜かれていたのは驚いた。
顔に出していなかったはずなのにどうして分かったんだろうか。
そっと視線を戻すと、クリスはニコニコと笑みを浮かべていた。
「……ほら、もう食事が届きますから、ミレイさんの新たな旅立ちと初めての遠征成功を祝してちょっと豪勢に行きましょうか」
財布に使っている革袋の中にまだ金貨は入っている。
今日ぐらい散在してもいいだろう。
私にできるのはこうして新たな旅立ちに祝福して、そっと背中を押してあげることだけだから。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます
これからもどうか、本作「かくして、私は旅に出る」をよろしくお願いします




