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盗賊

 ノナさんが見つけてくれた天然の洞穴。

 昼間遠くから見つめた時には人がいなかったのだが、夜に再び来ると焚火に二人の男が座り込んでいるところを見つけた。

 一応、見張りということなのだろうか。

 それにしても見張りとしては雑なのではと思ってしまう。

 二人で何か話しているのか、それともカードでもしているのか頭がこちらの方を向くことがない。

 

「自分たちが狙われると思ってない」


 ノナさんが簡潔に述べた。

 

「それじゃあ、どうする?」


 私たちは今、近くの岩の影に四人で座り込んでいる。

 

「一気に近づいてやっちゃう?」

「……私がやります」

「いいの?」

「はい、私が弓で仕留める方が安全ですし……」


 ジッとクリスが私の顔を見てきたのだが、大きく息を吐いた。


「それなら、任せた」

「はい」


 ジーンに言われて、しっかりと頷いた。

 大丈夫。

 この仕事を受けたところで覚悟を決めていたはずだ。

 いつかはこうやって人を殺さないといけない、と。

 それにやらないとみんなが危ない目に遭う。

 だから、私一人の気持ちの問題でやらない行けないわけがない。

 それに、私を引っ張っているのはきっと日本の感性で常識だ。

 ここでの命の価値と日本での命の価値は違う。

 それは頭では理解していたつもりなのに、心がまだついていけてないみたい。

 今は無視しないといけない。

 そう、後でいっぱい吐き出そう。


「行きます」


 弓を番えて、岩の影から体を出す。

 いっぱい練習はした。

 だから、大丈夫なはず。

 絶対当たる。

 だけど、二人同時に当てるのは難しい。

 どうしたものかと思っているが、思いつかない。

 こう外側からぐるっと回って当たるようにならないかなって思って、大きく外れた位置に弓を射ってみる。

 弓の軌跡を見ながら、次の矢を番える。

 するとどうだろうか、しっかりとカーブを描いて、相手を向かって行っている。

 急いで次の矢を放つ。

 お願い同時に当たって、と祈りながら見ていると二人同時に弓が首に突き刺さる。

 やった、と心の中で喜んでしまった。

 人を殺しているのに。

 そんなことを思ってしまう自分が嫌になった。

 私が見ている間に、ジーンとノナさんが走って、二人に確実に止めを刺す。

 私は何か失敗しただろうかと、急いで駆け寄る。


「すみません、何か失敗してましたか?」

「止めは大事」

「ムツミの腕は疑ってねーけど、止めの確認は当然だろ」

「あれはムツミの弓の腕とは関係ない」

「え」


 さっきの弓、私の弓腕がすごかったわけではないんだと、やった私が一番驚いていた。

 

「あ、そうなの?」

「全部魔法」

「便利なんだな、魔法って奴は」

「あれはそういう次元じゃない」


 ノナさん、割と魔法に詳しいのだろうか。

 しかし、私の魔法ってどう違うのだろう。

 人の魔法って見たことがないから、どう違うのか全く分からない。


「へぇ、そうなんだ」

「そう。それにそれよりやることがある」

「そうだな」


 二人の興味の対象はすぐに残りの盗賊たちに移ったみたいだ。

 そうしていると、クリスが近寄ってくる。

 

「クリスも一緒に前に出るのですか?」

「え? もちろん、そうだけど?」

 

 危なくないのかと、言いそうになるけど危ないことなんて百も承知で冒険者になっているのだから、それは余計な言葉だろう。

 だから別の言葉をかけることにした。


「気を付けてください」

「ありがと、ムツミ」

「それじゃあ、行くぞ」


 ジーンが先陣切って入っていく。

 その後にクリスが続いて、私も後に続く。ノナさんが私の後で守ってくれる。

 入ってすぐのところには誰もいなかったが、天然の洞穴にさらに穴を掘ったのか道が分かれている。

 奥に進む道か、脇に逸れる道。

 どっちに進むか迷っていると、ジーンは迷わず脇に逸れる道を選んで進んでいく。

 どうしてそっちを選んだのか疑問に思っていると、クリスとジーンが一瞬見つめ合ったように見えた。

 二人は素早く入っていくと、それにノナさんが付いて行く。


「な、なんだよっ!」


 私たち以外の声が響く。

 それに対して、ジーンが首を狙って、一撃で切り裂いてしまう。

 大丈夫かとか、いろいろ声を掛けたいが今はその時ではない。

 私が飛び込んだときには、ノナさんやクリスが、寝ている相手に対してナイフを突き刺しているところだった。

 私がその光景を見ていると、後ろから肩に手を置かれた。


「お、なんで、こんなところに」


 不味い。

 不味い。どうしよう。

 そうだ。

 スタンガン。

 あんな感じで痺れさせてしまえば、大丈夫。

 テンパっている思考はまともではなかった。

 指の先から軽く放電現象が起きて、上手く出来たと思った私は相手に触れると、


「あががががががががががががが」


 大きな声を上げて、黒焦げになってしまった。

 やってしまった。

 私の思考がそこでフリーズしていると、ジーンの声が響いた。


「ムツミ、こっちに来い!」


 私は顔を上げて、ジーンの方に駆けよった。

 そうしていつの間にか、隊列が整えていて私が一番後ろになっていた。


「来る」


 ノナさんの小さな声が聞こえたと思うと、狭い通路に男たちが殺到する。

 手にはそれぞれの獲物の持っているところから戦闘は避けられない。

 ただ、ここで戦闘を行うということは一度に相手をする人数を制限できるという利点がある。人数差というのはバカにならない。

 それをちゃんと考えて戦う場所を選んでいる当たり、ジーンやノナさんは私よりもよほど戦う事になれていて、頭が回る。

 ジーンが何も言わないで戦闘の男に切りかかると、次に来た人に向かってはクリスが殴りかかる。

 腹を殴られて、くの時に曲がった体をそのまま下からかち上げて、ジーンに向かって切りかかる男への盾に使う。

 そして、そのまま背中を切りつけたと思って躊躇うものにはノナさんがナイフを投擲し、命を奪う。

 順調に数は減らしているようだけど、どうしても前衛を担当しているジーンやクリスにも傷は増えてしまう。

 私だけ安全な場所にいるというのは気が引ける。だけど、私の魔法もさっきのように大雑把なものが多くて、この洞穴を崩しかねない。

 弓も射線が通っていないのだけど、さっきの打ち方をしたら大丈夫かもしれないけど、常に変化をする戦場に対応することが出来ない。対応力が足りないのはさっきのでよく思い知ったから、それこそ味方に当てかねない。

 ほとんどの相手を倒し終えたところで、奥から首魁らしい男がやってきた。


「おい、てめぇら、ここで何して」


 そうして剣を無造作に振るうのだが、ジーンが防ぐ。

 ずっと攻めていたジーンやクリスが足を止めて、しっかりと構えを取ることから強い相手なのかもしれない。

 私がそういう暴力に慣れていないのもあって、相手の力量が分からないので、みんなの動きからそれを察することしか出来ない。

 ジーンの斬撃は鋭いのだが、それも全て防がれているし、反撃を受けて怯まされるところにクリスがカバーして、何とか戦力を拮抗しているように見える。


「二人でやってその程度かよ」


 相手の挑発染みた言葉をジーンは聞かない。

 そして、二人で突撃した。

 ジーンの攻撃を防いだ男に対して、その隙間にクリスが殴りかかる。

 その背後に回り込んだノナさんが首を狙う。


「三人だ」

「甘めぇんだよ!」


 ノナさんも防がれるのだが、私は走る。

 ノナさんのように隠れてなんて難しいので、真っ直ぐに、最短で。

 

「いいえ、四人です!」


 今度こそ、私は敵の間合いに届く。

 手を伸ばすのだが、先に剣が私の首を飛ばそうと迫ってくる。

 避けれない。

 だからと、手を伸ばす。

 首に衝撃を覚えるのだが、そのまま放電する。

 さっきよりも弱い電撃。

 だから、その男が一度大きく震えると、剣が落ちる。

 首に衝撃があったのだが、痛みはない。

 大丈夫なのかと首に手を当てるとけがはない。

 良かったと思いつつ、自分の異常さが際立つ。

 剣で切られても平気な体。

 絶対に普通じゃない私。

 相手は倒した。

 けど、剣で切られても平気だった私は人として見られるのだろうか。

 それだけが心配でみんなの顔が見れない。


「助かったよ、ムツミ」

「大丈夫だった?!」


 ジーンにはお礼を、クリスからは心配されてる。

 良かったと思って顔を上げて、二人の方を見た。


「はい」


 私はしっかりと返事をした。

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