森の中
「今回も失敗だったみたいだな」
「そうですねぇ……何が悪かったのでしょうかねぇ……」
「ただの人間をこっちに持ってきただけだから、そうなるのも当然だろ」
「けどぉ、強い魂とか呼んじゃうと一気に減っちゃいますよぉ」
「発想を変えようぜ。今回はオレに任せてもらえねぇか?」
「いいですけどぉ……あなたそう言って前にー……」
「わーってるよ。任せておけってな」
「あーもうぉ……すぐそうやって全部のリソースを使おうとぉ……ってええぇ、そんなに使っちゃったら私たちしばらく干渉できないことになっちゃうんですけどぉ……それにその姿ぁ……」
「いいじゃねーか、姿だって、もう知ってんのは昔から生きてる奴らだけだろ?」
「まぁ、そうかもですけどぉ……けどぉ、そんなことしちゃうと強い魂は呼び込めませんよぉ?」
「大丈夫、大丈夫。悪い奴じゃなきゃなんとかなるって」
「もぉー……あなたはそうやってぇ、前の時もそうでしたよねぇ?」
「あーあー聞こえねーなー」
「それでぇ、どうするんですかぁ? 私たち次の魂は導けませんよぉ?」
「何とかなんだろ、こうしていい感じの体があるんだからよ」
「まぁ、そうですけどぉ……」
「さて、次の奴を呼び込んでくれ、そしたらしばらくはオレたちの役目は終わりだ」
「はぁ……仕方ないですねぇ……」
「あぁ、またな」
「はいはぁい、それじゃあ、頑張ってください、誰かさん」
私が目を覚ました。
私が目を覚ましたところは自室ではなかった。
私、■■■■■■は確かに自室の布団の中にいたはずだ。
安い賃貸マンションに一人暮らし。
仕事も必要なことだけで、四十になってようやく管理職になったぐらいでやる気は、どうだっただろうか。
よく注意はされていたが、私なりにはやる気はあった、はずだった。
趣味もなく、休みの日に適当な映画を見ながら晩酌をすることがちょっとした楽しみぐらいだった。
それでいいと思っていた。
両親もこの世を去って久しく、その過程で実家の方は潰して売ってしまった。
今更田舎に帰って何が出来よう、今の生活があるのだからそこに戻っても仕事がないのだからと、自分に言い訳をしながらやっていたのを思い出す。
実家が無くなれば、地元の仲の良かった顔見知りと会う機会もめっきり減る。
職場や今のご近所の方々は友人でもないし、わざわざ休みの日にあって出掛けたりなんてことはしない。
だから、友達なんてものはいない。
どこかで思っていた。
このままいくと寂しい老後を過ごすことになって、孤独死を迎えるのではないか、と。
私のことで悲しんでくれる知り合いは一人もいないまま、寂しい死に方をするのではないかと頭の片隅でぼんやりとは思っていたのだ。
だけど、今更性格も、行動も変えるには遅すぎる。
敷かれていたレールをぼんやりと何も考えずに、ただ毎日を消費して行ったツケをいつか払うことになるんだろうと思っていたところだった。
それがどうした。
目を開けてみると、そこは自室ではなかった。
知らない鳥の鳴き声がうるさく響く森の中。
こんなところで寝ていたら、体が痛くて、すぐに起き上がれないぞと気合を入れようとするのだが、思っていたような痛みはない。
あれと思いながら、立ち上がる。
私の知っている視点よりも高い位置。
自分の体を見ると、白いワンピースのようなものを着ていた。
パジャマは確か、もっと違うものを着ていたはずなのに。
それに胸のふくらみは以前の私よりもある。
そこでふと気が付く、私が思い出せない。
これまでどんな生活をしていたのか、生い立ちは分かるのだが、自分の名前や容姿、自分のパーソナルの部分が抜け落ちてしまっている。
友達だったと私が思っている子を思い出すと、男の方が多い、のだが、二人。
女の子だと一人。
男性、だったのかな。
周りを見て、近くに人がいた気配はない。
どうしよう、とりあえず人のいるところに行った方がいい。
良いのだけど、全くどこに行ったらいいのか予想がつかない。
知らない場所で、自分が他人になっている状況。
何をどう説明したらいいのか分からないし、そもそもどこに向かって進めばいいのかも分からない。
もしかしなくても、これって遭難しているのでは、と脳裏に不穏なワードが掠めると、それだけで胸中不安でいっぱいになる。
どうしようと落ち着けというのが繰り返し、頭の中で響いて、何度も無意味に深呼吸を繰り返してしまう。
とんでもない田舎にでも来てしまったのか、それとももっと違う場所。
頭を抱えて座り込んだところで、がさりと茂みを揺らす存在がいた。
警戒するようにそちらを向いていると、現れたのはシカのような動物。
野生の動物というのは久しぶりに見た。
いや、野良猫とかは居たけど、野生動物なんてニュースで見たイノシシとかでしかない。
じっくりと見つめているとさっと元の茂みに入ってしまった。
一息つく。
どうやら思わず、息を止めていたみたい。
それにしても、これからどうしたら良いのか。
改めて森の中を歩いていく。
ここはどこだろうか。
日本……ではさすがにないか。
こんな田舎があるのならそうかもしれないが私はこんな場所を知らない。
海外もちょっと考えにくい。
さっき見たのは、どう見ても鹿に似ていた。
海外にも住んでるかもしれないが、私は知らないから除外しておこう。
だったら、もっとファンタジックな世界とかどうだろうか、それこそ指輪物語の世界だったりナルニア国物語の世界だったり、ハリーポッターの世界だったり。
どれこれも物騒な動物とか出現する世界だが、出来たら最初以外の世界がいいかなって思う。
だって、あの世界ちょっと怖いし。
指輪がなければいいかもしれないが、存在してるときに来ちゃってたりしたら、小鬼たちに殺されてしまいそうだから絶対に嫌だけど。
どれにしても魔法のある世界だったらいいのに。
目を閉じて、手を掲げる。
イメージするのは指先に灯る炎。
小さな炎を灯すイメージを目を閉じて思い浮かべる。
火、火、燃えろ。炎よ、灯れ。
そう願いながら、ゆっくりと目を開けると、指先に小さな炎が灯っていた。
熱くは……ない。
すごい、すごい、多分、中年になっているはずの私だったのに、心弾んでしまう。
そうして色々と、水だったり、風だったり、雷だったりと試していく。
どれも上手くいく。
そうして私はようやくここが現代の地球のどこかではなく、どこかのファンタジックな世界なのだということに気が付いた。
一通り、自分が出来ることを試してみて、困ったことがある。
さて、私はこれからどう生活をしていけばいいのかということに。




