第四話 冒険者です。頑張って稼ぎます
ケルビムさんに相談したら、屋敷に好きなだけ滞在してもらって構わない、みたいなことを言ってもらった。だが、俺はどこまで行っても庶民でしかない。こんなデカい屋敷に何日間も滞在するのは耐えられないだろう。多分。知らんけど。というかこの世界を旅するのが目的なのでここに留まるわけにはいかない。早々に自立すべきなのは間違いない。
「いやいや遠慮なんてしなくても」「いやいやいや流石にそれは」「いやいやいやいや」…………と終わることのない親切と遠慮の押し引きが続いたが、ケルビムさんの知人が営む宿を紹介してくれることで話がついた。
とはいえ、今からそこの宿に伺うには時間が遅かったので、お言葉に甘えて一日だけお世話になることになった。メイドさんが色々とやってくれて「この生活も悪くないのでは?」と思ったが、男に二言はないので、泣く泣く独り立ちします。もう男じゃないけどね。
アイラさんとは結構夜更けまで話し込むほど仲良くなった、というよりも懐かれた。この街の有名なお店だったり、オススメのスポットであったり、色々なことを教えてもらった。
そしてしつこいほどに屋敷に留まるよう勧められたが、俺の決意は固いので、頑張って説得した。ちなみに俺の決意は砂の城のように脆いので普通に揺るぎかけたのは秘密だ。
頑張って納得してもらえはしたが、代わりに今夜は一緒に寝てほしいと言われた。女性同士だったらこういうこともあるのかどうか分からなかったが、押しに弱い俺は断ることも出来ず、一夜を共にした。別にいかがわしいことをしたわけではなく、健全に添い寝しただけなので俺の純潔は保たれたままだ。
そんなこんなで俺の異世界での初日は終わった。
*
次の日。
朝食までごちそうしてもらい、またもやここに住みたくなってきてしまう。昨日いただいた夕食もそうだが、普通に豪勢な上にお金がかからない。これに惹かれないほうがおかしい。
だが厄介な穀潰しにはなりたくないので、最早何度目かも分からない決意の固め直しをする。
この決意が揺らがないうちにお礼と別れの挨拶を済ませ、いざ冒険者組合へ!
と意気揚々と街へと繰り出してみたものの、私兵団の団長さんであるルガルドさんに案内してもらっているのであまり恰好はつかない。
まあ彼らを助けたのはこういうことを含めた支援を期待したものだったから、予定通りといえば予定通りではあるが。
屋敷を去る際には、数日は暮らせるぐらいのお金と全身を隠せるぐらいのローブをもらった。
そしてルガルドさんから「街中ではなるべくこのローブを身に着けた上でフードも被り、顔を晒すことのないように」とのお言葉をいただいている。まるで逃亡中の指名手配犯のようだ。
理由を聞いてもはぐらかされてしまった。何でだろうか? 俺が可愛すぎるせいだろうか? なんてな! ガハハ! …………はぁ。男なのに何言ってんだろ。
冗談はさておき、若干怪しさはがあるが、いざ何か問題が起こったらこの街をとんずらすればいいだろう。あまりにも無計画でしかないが、情報が少ない上に最上の選択を出来るほど地頭がよくない。臨機応変という便利なワードに頼るしかないのだ。行き当たりばったりともいえるが。
幸いにも俺には中途半端なレベルではあるが、魔法を扱う能がある。中途半端なのはゲーム内の話なので、昨日の戦闘を思い返すと、この世界では割と通用しそうなので大丈夫なはずだ。
「ここが西区の冒険者組合になります」
特に会話もなくテクテクとルガルドさんに付いていったら、いつの間にか到着していた。
ちなみにこの街は規模がデカいので北区、南区、東区、西区、中央区の五つに区切られ、そのそれぞれに冒険者組合の建物がある。中央区にあるものは、この街全体の組合を統括する本部的な役割なため、基本的に依頼を受けたりするのはそれ以外の区にあるものになる。
「案内していただきありがとうございます」
「これも仕事ですので」
最初は大柄故に結構怖い印象があった彼だが、いざ行動を共にしていると歩くスピードを合わせてくれたり、昨日の帰還途中も体調を気遣ってくれたりと割と優しい。
それに顔はイケメンだが、どこか男臭さもあり、キザったらしくない。男が憧れるような男だ。
そんな彼は去ることもなく俺の顔を見つめ続けていた。
今となってはその目力の強い視線に恐怖は感じないが、ただ単純に疑問だ。
聖女らしく、首をこてっと可愛らしく傾げ、疑問の意を表す。
「いえ、単純に貴女を一人にするのが心配でして。貴女の力は強大です。それが他人の知るところになってしまえば望まぬ騒ぎを引き起こしてしまうかもしれません。くれぐれもお気を付けください」
「ご忠告痛み入ります。なるべく目立たないように頑張りますね」
こんな出会ったばかりの人間を心配してくれるなんて……女だったら惚れているかもしれない。いや、それは流石にチョロすぎるか。
「それでは失礼します」
「はい、またどこかで」
初めての場所なので一人だとだいぶ心細いが、彼は私兵団の団長だ。ここまで送ってくれるだけでもありがたいことである。
めちゃくちゃ緊張しながら、扉を押し開け建物の中に入る。
中は結構広々とした空間で、入ってすぐの所にある受付のカウンターの様なものから少し進めば酒場が併設されており、お昼時でも結構賑わっていた。
くつろぐスペースが入り口から離れた酒場のためか、よくある「女子供が冒険者ギルドに入ったらジロジロ見られたり絡まれる」みたいなイベントは発生しそうになかった。別にテンプレイベントを体験したいわけではない、というかしたくないので助かる設計だ。
受付には綺麗どころのお姉さんが並べられており、男の受付は一人もいない。普通の冒険者あるいは女性であれば嬉しいことなのかもしれないが、俺的には男性のほうが気負うことなく喋れるので、美人の受付はあんまり嬉しくない。
若干緊張するが端っこの空いてる受付へと向かう。
「ご利用ありがとうございます。本日はどういったご用件でしょうか?」
にっこりと笑う美少女の笑顔は童貞の俺には眩しすぎる……! 例えそれが営業スマイルだったとしても破壊力は抜群だ。
ルガルドさんの「顔はあんまり晒さないほうがいい」という助言を言い訳にしてカウンターに視線を落として顔はあまり見ないようにしよう。
「冒険者の登録を行いたいのですが……」
「…………」
あれ? 反応がない。こっちは緊張して話しているので何か変な言動をしてしまったのかと心配になる。
「何か問題がありましたでしょうか……?」
「い、いえ。何も問題ありません。冒険者登録ですね、かしこまりました」
本当に大丈夫なんだろうか。何度も言うが小心者なので相手のリアクションがいやに気になってしまう。
「女性が冒険者になるのは珍しいんでしょうか?」
「すみません! 不安にさせてしまいましたよね。本当に問題はないので大丈夫ですよ。少しボーっとしてしまっただけです。あと女性の方が冒険者になるのは珍しくありません。神の祝福によって魔法能力の発現や身体能力の向上があるので、男性と変わらない戦闘力が見込めますからね」
「それなら良かったです」
胃腸に悪いので紛らわしいことはしないで欲しい。毎週月曜の朝は憂鬱すぎていつも腹を壊すぐらいにはヨワヨワなんだぞ! まあ何も問題がないならよかった。
「それでは登録作業に移りますね。まずは確認なのですが、以前に冒険者登録をされたことはありますでしょうか? 基本的に組合への多重登録は認められておりません。そのため魔力確認時に以前の登録が確認されますと申請が却下されてしまいます」
「大丈夫です。これが初めての登録ですので」
「了解しました。それではこちらの用紙の規約を読んだ後、ご自身の名前と職業をご記入ください」
用紙には氏名欄と職業欄、それと冒険者組合の規約が書いてある。規約と言っても特筆することはなく、常識的なことしか書いていない。犯罪歴があると登録出来ないとか組合が発行する組合証を紛失すると再発行に金がかかるとかそんなところ。
ざっと読んだが現時点、加えてこれからの旅に不都合なものはないので大丈夫だろう。なんか問題が起こったら質問しよう。
氏名欄のとこに普通に「フェイ」と記入する。ちらっと受付嬢さんの顔を覗き見るが、特に変な反応はない。
俺は当然この世界の言語なぞ分かるわけがないのでカタカナで書いたわけだが、問題はないらしい。恐らく俺が聞いた言葉・喋った言葉が勝手に翻訳されるように、俺が読んだ文字・書いた文字は第三者が見ると勝手に読めるように変換されているのだろう。
次に職業欄。こちらは盾士、斥候、戦士、弓士、魔法士から選択して記入するみたいだ。
ゲーム内であれば攻撃魔法職と回復魔法職は明確に分けられていたが、ここではそうではないらしい。他の職も結構ざっくりした分類なのでしょうがないのかもしれない。
魔法士と記入して提出する。
「ありがとうございます。それでは登録料の金貨一枚を頂戴します」
がさごそと金貨が入った袋から一枚取り出し料金を支払う。
銅貨、銀貨、金貨の三種類が市井に流通している。それぞれ十枚で上の貨幣一枚分の価値になる。日本円に換算すると…………いや、わかんないです。
まだ道具屋とかにも行ったことないから物価が分からん。アイラさんの話によれば中流の家庭であれば金貨三枚あれば一月は満足に暮らせるらしい。それぐらいしか知らない。
そう考えると登録料で金貨一枚はだいぶ高額な気もするが、一定期間経つと九割程度は返ってくるらしい。最初の足切りという意味では重要なんだと思う。
色々考えると経済関係の本も読ませてもらえばよかったかな、と思ったが正直数ページで飽きると思うので結果は変わらない気もする。
「それではこちらの魔法陣に手を置いてください」
巻物がカウンターに開かれ、そこには魔法陣が書いてある。なんか色々と文字が書いてあるが、これは翻訳されないらしく読み取ることは出来なかった。
指示通り手を置いてしばらくすると魔法陣が青く光り、青い光粒が舞う。ただの冒険者登録なのに何か幻想的だ。
「問題なく魔力登録が完了しました。こちらが組合証になります」
手渡された組合証――――白色円状の装飾が付いたネックレスの様なものを渡される。
ランクが上がっていくと装飾が線状、三角、四角、五角、六角、七角となっていくらしい。そして七角からさらにランクアップすると色が変わってまた円に戻って続いていく。
ランク分けが細かすぎる気もするが、こういった施策のおかげなのか低ランクの冒険者の死亡率は年々減少傾向にあるらしいので無駄ではないのかもしれない。まあ減っているってだけで、普通に暮らしているよりかはめちゃくちゃ死亡率高いらしいけどね。
「これで登録は完了です。これからの活躍に期待してますね、フェイさん」
「無理せず頑張りたいと思います。ありがとうございました!」
その後組合の施設の説明を受け、カウンターを離れた。
一先ずここでやりたいことは終わったのでもう外に出てもいいんだが、せっかくなのでクエストボードを覗いてみる。
ボードは結構大きいにも関わらず、所狭しと様々な依頼が張られており、流石は都会と言った感じだろうか。
とは言え最低ランクである今の自分が受けられるものはほとんどない。商会の荷運びであったり、街の外にある薬草の採取。いわゆるお使いクエスト的なものが大半だ。
モンスターと戦うにはある程度の装備が必要だから、お使いを熟して金を貯めろってことなのだろうか。ものによっては複数人募集しているものもあるので、そういった依頼で人脈を広げたりする意味合いもあるのかもしれない。
冒険者として稼いでいくには俺もこういった依頼を受ける必要があるが、今日のところは受けるつもりはない。
次の目的地へ向かうために馬車ならぬゴーレム車――――ゴーレムラインと呼ばれているらしい――――に乗り西区から東区へと向かう。
そして東門から街の外に出る。あの狼に襲われた西側に比べるとだいぶ開けており、これぞ街道といったちゃんと舗装された道が敷かれていた。その街道から外れる様にある程度歩くと森がある。
ここは低級のモンスターしか生息していないらしく、同じく低級の冒険者にとってはいい感じの狩場兼修練場というわけだ。
わざわざここまで来たのは現状使える魔法の効果を確認するためである。
西側でも俺にとっては強いモンスターはいなさそうだったが、念のため安全マージンをとって初心者用の狩場へ来た。
森へと踏み込み散策しているとゲル状のあいつ――――ファンタジーものにとっては定番であるスライムがぽよぽよと跳ねていた。
こちらには気づいていないようで、呑気に草を消化していた。
「《エレメンタルバースト》」
昨日放った《代理執行》よりも威力が小さい単体攻撃魔法。あえて弱い魔法を撃つことによって俺の力がどれほどかを測るつもりだった。
が、俺の魔法を受けたスライム君は跡形もなく吹き飛んでしまった。可哀想。
これではこの世界における自分の強さが測れそうにもなかったが、本来の目的は今の自分に何が出来るか、それを知ることである。
気を取り直して歩き始めるとまたスライムが跳ねていた。
気になることがあったので物は試しと歩きながら魔法を撃ってみる。
「《エレメンタルバースト》」
そうすると問題なく…………いや若干の違和感はあったが魔法は発動し、スライム君は再び千切れ飛んだ。
ゲームの時は魔法は立ち止まって詠唱する必要があり、詠唱中に歩いたりすると詠唱が途切れて魔法を発動することができなかった。
しかしこの世界では歩きながらでも魔法を発動することが出来た。ある程度集中する必要はあるが、これは戦闘面でもかなり立ち回りを変えることが出来るような発見だ。
他にも何か気づくことがないだろうかと考え、色々と試すために歩きながらスライム君を見つけ次第爆破していった。
そして気付いたことは二つ。
一つ目は先に感じた違和感の正体。歩きながら魔法を撃つと少しだけ発動が遅れるらしい。それが生死を分ける可能性はあるが、ほんの一秒に届くか否か程度の差だ。今のところ動きながら魔法を撃つことができるメリットのほうが大きい様に思える。
二つ目は詠唱の必要性。今までは魔法名を口に出すことをトリガーにして魔法を発動していたが、直前に発動していた魔法に限っては心の中で念じるだけで発動することが出来た。簡単に言えば無詠唱みたいな芸当が可能になった、ということだ。
例を挙げれば、《エレメンタルバースト》を撃った直後は同種の魔法が無詠唱可能。その後に《代理執行》を撃った場合は《エレメンタルバースト》は無詠唱で撃てなくなるが、代わりに《代理執行》を無詠唱でバンバン発動出来る。
予想外の収穫ではあったが、結構使える技能を知ることが出来た。
あと一つ試したいことがあるので手頃な獲物がいないか探していると声が聞こえてきた。
ここは初級者の狩場と言えど、スライム君で実験するために歩いていたので結構な奥地まで来てしまっている。浅いところでは如何にも駆け出しの冒険者って感じの人たちがいたが、ここまで入り込んでくる人間はほとんどいなかった。
何か問題でも起こったのだろうか。そう思って声の方へ近づくと声の主が見えてきた。
どれだけ近づいても意味が理解できない言葉を喋っていたのは、緑色の肌をした人型。いわゆるゴブリンという奴だった。
ゴブリンは三体おり、一人の小柄な少年を武器で殴ったり斬りつけて、嬲ることを楽しんでいた。
彼のことは知らないが、人間がモンスターに襲われている光景は見ていて気持ちのいいものではない。
それと同時にここに来るまでスライムを爆殺してきた自分にゴブリンたちを責める資格などあるのだろうか、という疑問も浮かぶ。
しかし、結局俺は人間だ。人間に肩入れするのは道理である。
殺してきたスライムたちに申し訳なさを覚えつつ、これから実験や討伐を行うときはモンスターと言えど命に感謝しながら行おう。
そう胸の中で誓いながら、まずは少年の治癒を行う。結構血塗れではあるが、ゴブリンたちが遊んでいるのならまだ死んではいないだろう。
「《プレアー》」
問題なく魔法は発動し、傷が塞がっているようだった。
突然の事態にゴブリンたちは驚き、辺りをキョロキョロと見回すと俺を発見した。
ギャアギャアと叫びながら俺に威嚇の様な行動をしていたが、彼らがどんな手を使ってくるか分からないので時間をかけるつもりはなかった。
「ごめんね、《エレメンタルバースト》」
出来るだけ少年に攻撃の余波が飛ばない様に最低限の威力で二体のゴブリンの頭を吹き飛ばした。
そして残りの一体に試しておきたかった実験をする。
「《契約召喚:天使》」
魔法が発動すると俺の周りに幾つかの光玉が漂い、そしてその全てが小さな天使へと変化した。
神が使役する天使の中でも位階の低い天使を複数体召喚・使役し、敵を攻撃させる魔法。一体一体の攻撃能力は低く、召喚した全部の天使の力を合算しても一撃の威力は微々たるものだが、その代わりに実体を持たないが故に敵の攻撃を食らわない…………という設定がある。
何か凄そうな設定ではあるが、実際の効果としては毒の様なスリップダメージのようなもので大層なものではない。
今回試したかったのはこの召喚の持続性だ。
ゲームの時は数十秒経つと勝手に帰還し、再度召喚し直す必要があった。しかし、この世界ではどうだろうか。
色々とゲーム的にバランスを取るためにあった要素が、リアルに落としこむ過程でリファインされ結構魔法の仕様が変わっている。
物は試しと天使に魔力を送り込むイメージをすると、存在が補強されていく感覚がある。
天使がゴブリンをチクチク攻撃し、ゴブリンがギャアギャアと当たりもしない攻撃を天使にしているのをを眺めていると、効果時間が過ぎてもなお天使は存在し続け攻撃を続けていた。
この効果は魔力が続く限り永続なのかどうか等々調べておきたいが、少年のことを考えると、ここら辺で離脱するべきだろうか。
「《エレメンタルバースト》」
最後のゴブリンの頭を一撃で吹き飛ばした。
*
少年は緩やかな呼吸を繰り返しており、命に別状はなさそうだった。念のためもう一回回復魔法をかけておいたのでこれから容体が急変することはないだろう。
少年を抱きかかえて街道の方へ引き返す。
ローブで顔を隠しているせいなのか、さっきのゴブリンは俺を見つけても逃げることはなかった。狼が逃げてゴブリンが逃げない理由なんてローブ以外にないので多分間違ってはないと思う。
確実に屠れる相手ではあるが、いちいち絡まれると面倒なので足早に森の浅い所を目指す。見慣れたスライムが跳ねる姿を横目に見ながら駆け抜ける。
幸いにもあれからゴブリンに絡まれることなく森を脱することが出来た。
一段落することが出来たが、これからどうしたものだろうか。昨日の今日でまた人助けをすることになるとは思わなかったが、昨日と同様に彼を放っておくのも心配だ。ここら辺にはスライムぐらいしか出てこなさそうではあるが、万が一ということもある。今日やりたいことは大体終わったので彼が目覚めるまで傍に居ることにした。
彼を楽な体勢で寝かせてあげたいが、持ち物が武器である杖、お金が入った袋……ぐらいなもので枕代わりになるようなものがない。致し方無いので自分の膝枕で勘弁して欲しい。というか俺も膝枕されたいので贅沢は言わんで欲しい。
近くの木の幹に背を預け、彼の頭を自分の膝に乗せる。いざ自分がやってみると中々に気恥ずかしいが、所詮がきんちょだ。彼の純情を弄ぶぐらいの気概でいれば、なんてことはない。
こうして落ち着いてみると何で彼が単身森の奥地にいたのだろうか、ということが気になる。
比較的弱いモンスターばかりとは言え、ゴブリンは初心者の登竜門的存在らしいのだ。危なげなくゴブリンを狩ることが出来れば冒険者としてスタートラインに立つことが出来ると言われている。
そのため、彼の様な安物の防具や武器しか持たずに単身で挑んでいい相手ではないのだ。
それに外見年齢的にも十三かそこらであり、体格のほうはお世辞にも恵まれているとは言えない感じ。悪し様に言ってしまえば、貧弱。線は細く、頼りない印象を受ける。割といい感じの装備を調えても良くて五分五分。尚更挑むべきではないだろう。
まあそこら辺の理由の話は彼が起きて聞いてみればいいだろう。
俺の様な美少女が膝枕していたらどんな反応をするだろうか、ということを楽しみにしながら彼の目覚めを待つ。