第十二話 記憶喪失です。俺は何者なのか
記憶が失われている。
さっきの戦いの影響で、という訳ではない。
最初からだ。俺はこの世界に来た時点で、記憶が欠損していた。
俺がどんな名前で、どんな人生を歩んできていたのか。全く思い出せない。
そして完全な記憶喪失かと言うと、そうではない。
勿論言語的な記憶やその他諸々の日常的な常識の記憶は残っている。
そこだけではなく、ゲームの知識だけは何故か残っていた。
ここまでの生活において割と役に立つ知識ではあったので、助かってはいるが、不可解である事は事実。
何より今の今まで、俺自身が記憶を失っていることに気づけないでいたのが理解出来なかった。
このタイミングでそれに気づかされるのも意味が分からない。
全く的外れな考えかもしれないが、何か作為めいたものを感じずにはいられない。
じっとしているのが怖くなり、体に鞭を打って起き上がる。
今は何もかもを放り出して、泥の様に眠りたかった。眠っていれば、このよく分からない現実から逃避出来るからだ。
後処理であったり、報告とかもしなければならないだろうが、今日のところは最低限のもので勘弁して欲しい。
ルガルドさんも、俺がハイになっている時に権天使に運ばせていた様なので、誰かを回復させる仕事もそんなにないだろうし問題はないはずだ。
俺は杖をつきながら、街の方へ向かい始めた。
*
次の日になったが、俺に関することは何も解決していなかった。何もしていないのだから当たり前だ。
昨日、街に戻るとケルビムさん達に説明を求められた。俺が最後に放った魔法は街の方からも見えるぐらいの規模だったらしい。すごい。実感がないのでほぼ他人事だ。
その時の俺は色々な事が降りかかり過ぎていて話す気力がゼロだったので、神狼を倒した事だけを伝え、無理を言って休ませてもらった。
そして現在。こうしてケルビムさんの元を訪れ、何があったかを説明している。
流石に俺がハイになった部分であったり、《根源ノ光》についてはカットしたり、脚色したりしたが、大体の事はそのまま伝える。
「――――という事がありました」
「成程……」
ケルビムさんは一言そう言うと、安心したかのように一息ついていた。
「まずは、この街の者として感謝を。この事態を収めて下さり、ありがとうございました」
「いえ、当然の事をしたまでです」
感謝を受けるのはとても嬉しい事ではあるのだが、ケルビムさんの表情は若干困った感じのものになっていた。
「ですが、貴女の友人として、今回の様な無茶はやめて下さるとありがたい」
「申し訳ありません。今後はもう少し人を頼っていきたいと思います」
当然、上辺の言葉でしかない。
俺は他人に頼ったり、自分以外の誰かに負担を背負わせるのが苦手の様だ。
元からの性分なのか、何かしらの経験によって刻みつけられたものなのかは分からない。分かりたいのに分からない事がこんなにももどかしい事だとは。
ケルビムさんは俺の言葉がその場しのぎのものであると勘づいたのか、より一層困った顔をしていた。
俺はそれに気づいていない振りをして、笑顔で首を傾げる。何だかこの仕草に頼りすぎているのでもう少しバリエーションを増やした方がいいだろうか。
「いえ、何でもありません。それで、この後のご予定は?」
「街を出ようと思います」
「そうですか」
これすらも薄々勘づいていたのか、特に驚いた表情を浮かべはしなかった。商人は人付き合いの機会が豊富だから、そう言った部分も鍛わるのだろうか。
「行先を聞いても?」
「この国の統の本部……の様なところに行きたいのですが、どこにあるのでしょうか?」
今回、レベルが上がり、記憶に関しても気づきがあったのは、女神ファムの眷属である神狼と戦った事が契機であった様に思える。
なら、神々の信仰を取り纏めている統と関わりを持てば、自ずと俺の記憶の謎についても進めることが出来る。そんな気がする。
「私としても、貴女の要望には最大限応えたい。ですが、よろしいので?」
この街を離れて旅をする、という事についてだろうか? 質問の意図がよく分からないが、どんな艱難辛苦が待ち受けようとも、俺はそこに向かうだろう。
「問題ありません。ケルビムさん達には色々と我儘に付き合わせてしまい、すみません。そして最大級の感謝を」
「滅相もない。離れていても、貴女の旅路が光に溢れん事を祈っております」
若干目的は変わってしまったが、俺が俺自身を知る為に、そして誰が俺の記憶を弄ったのかを突き止める為に、旅を始める事にした。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。これにて序章完結となります。
最後の方はだいぶ駆け足気味になってしまいましたが、今後は余裕を持って更新していければな、と思います。
その余裕を生む為に、お話のストック貯蓄期間として最低一ヶ月程お時間をいただきたいです。ルガルド視点のお話の続き等、ちょっとしたお話はちょこちょこ更新するかもしれませんが、本格的な更新は少々お待ちください。
繰り返す様ですが、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。予想以上にブックマークをして下さったり、評価をしていただいている方が多く、とても嬉しく励みになりました。
次章の更新までお待ちいただけると幸いです。




