第十話 ヒトの奉仕者。我が身を賭して、皆を救い助ける。
いつもに比べるとだいぶ短くなってしまったので二話同時更新です。
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私の頭の中に何かが流れ込んできた。
それだけは分かったが、何が流れ込んできて、私にどの様な変化をもたらしたのかは判然としない。
だが、その様な些事は大した問題ではない。
今注力すべきは眼前の敵。
私という全てを以て、ヒトに仇為す彼の存在を討たなければならない。
『他を守り、救いたいのならば、自らを犠牲にしなさい。自己から乖離したものを贄にしてはならない』
我が神の教えでも、そう言い伝えていた。
目の前の狼は成る程、一筋縄ではいかない様に見える。手負いではあるが、その瞳の輝きに翳りは見えない。
だが、憂いは微塵もない。
他を救う為の戦いにおいて、女神の信徒たる私が負けるはずはないのだから。
「《信仰の祈》」
我が祈りを捧げているだけなのに、得も言われぬ多幸感に包まれる。
興奮のあまり嬌声を上げそうになるが、その様なはしたない真似は出来ない。
「《契約召喚:能天使》」
我が神の力の一端たる、天使を召喚する。
痩せぎすなその体は過酷な修煉を思わせ、頼もしさすら感じる。
これ程の神性を前にしても、目の前の手負いの狼は立ち向かってくる様だった。
「お願いします」
能天使に指示を出し、攻撃を行わせる。
能天使は光で紡がれた鳥を生成すると、狼に襲わせる。
勿論ただ攻撃を受け付ける訳もなく、その顎で圧し潰そうとするが、それは間違った対処だ。
潰された鳥は爆発し、予想外の攻撃に情けない声を上げていた。
私もただ観戦するだけでは申し訳ないので追撃を入れようとしますが、無駄な抵抗をし始めます。
木々や大地を操り、守りを固め、私達に攻撃をし始めます。
「神よ、お許しください」
自然とは女神が産んだ愛し子。傷つけるものではなく、慈しむべきものだが、明確に攻撃性を現してくるであれば、話は違う。
《代理執行》によって木々を斬り落とし、能天使の攻撃によって大地を粉々にする。
悲しい。とても悲しい。私に自然を攻撃させるなんて!
絶対に許すことなど出来ない。女神に代わり、粛清しなければならない。
「殺しなさい」
能天使に命じて、尚も抵抗を続ける敵に攻撃を続けさせる。
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない
――――――――絶対に許さない!
ヒトを傷つけるだけでは飽き足らず、自然にまで手を出すとは!
ただ殺すだけでは生温い。その存在の痕跡を残さない程の処置が必要だ。
皆を、あの人を救う為には致し方ない。
「《根源接続》」
辺り一帯の環境を支配する。
狼に操られていた木々や大地は、既に彼の手を離れた。
これで私が自然を害す必要もなくなった。
だが、罪なきヒトを襲った彼らに、何の罰もないのも可笑しいことだ。
だから――――諸共に消し飛びなさい。
「消え失せろ――《根源ノ光》」
狼を中心と広範囲に光の慈悲を与える。
何もかもを光の下へ帰す、祝福の一撃。
光が止み、後に残ったのは始まりに近き砂の粒だけだった。
これにて神の敵は討たれた。
何と素晴らしい事だろうか!
ヒトは救われた! この輝かしい功績は、必ずやあの者をも救う為の一歩だ!
「うふふふふふふふふうふふふふふふふふふふふふうふふふ! あはっ! あははははははは! ――――――――は?」
わたしのからだはくずおれた。




