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お別れの挨拶

◇◆◇◆


 ────狩猟大会の件から、早二週間。

サミュエル殿下の証言により調査はあっという間に進み、解決の兆しを見せ始めた。

それと同時に第二皇子派の一斉摘発を行い、帝国の膿を出し切ることに成功。

見事、ミリウス殿下の思惑通りとなった。


 なので、そろそろ私とディラン様はお役御免になりそう。

第二皇子派を排除出来れば、ミリウス殿下が命を狙われることもないから。

少なくとも、これまでのように皇城内にまで警戒態勢を敷く必要はない筈。


 『近衛だけで事足りるだろう』と思案しつつ、私は仕事終わりに魔塔を訪れる。

────国外追放処分(・・・・・・)となった師匠を見送るために。


 やっぱり、奥さんを助けるために行った取り引きが不味かったみたい。

帝国の情報こそ流してなかったけど、かなり危険な橋を渡ったことに違いはないから。

ただ、これまでの功績や狩猟大会の助太刀を鑑みて命だけは助けてくれた模様。


 『魔塔主様も上へ掛け合ってくれたみたいだし』と考えながら、私はキョロキョロと辺りを見回す。

すると、エントランスホールの端っこに居るディラン様がパッと顔を上げた。


「グレイス嬢、こっち」


 小さく手を上げて微笑み、ディラン様は『行こう』と促してくる。

それに一つ頷き、私は彼の元へ駆け寄った。


「お疲れのところ本日は案内役を引き受けていただき、ありがとうございます」


「ううん、気にしないで。僕も最後にローハン男爵……いや、今はヴィクター殿と呼んだ方がいいのかな?まあ、とにかく彼に会いたかっただけだから。それに再建途中の魔塔は建築的な意味でまだ危ないから、一人で行かせられないよ」


 『通い慣れた僕の研究室までなら、ともかく』と述べつつ、ディラン様はスルリと私の手を取る。

と同時に、歩き出した。

そして、目的地である魔塔主の研究室に辿り着くと、ノックして中に入る。


「やあ、二人とも。よく来たね」


 そう言って、歓迎してくれるのは師匠の見送りに立ち会いする魔塔主だった。


 本来、国外追放処分を受けた人は身柄拘束の上国境まで連行されるんだけど、魔塔主様の計らいで自主的に出ていけるようになったの。

無論、『期限内であれば』の注釈付きだけど。

でも、破格の待遇であることは間違いないわ。


 『ただ、何かあった場合は魔塔主様の責任になる』ということを肝に銘じつつ、私はお辞儀する。


「夜分遅くに失礼します」


「お疲れ様です」


 ディラン様は会釈程度に頭を下げて挨拶し、私にピッタリくっつく。

と同時に、辺りを見回した。


「ところで、彼は?」


 姿の見当たらない師匠に疑問を抱き、ディラン様は怪訝そうな表情を浮かべる。

『まさか、もう帰ったなんて言いませんよね?』と述べる彼の前で、魔塔主は苦笑を漏らした。


「隣で、自分と奥さんの私物を整理しているよ」


 隣室に繋がる扉を指さし、魔塔主は『まだ帰ってないから安心して』と告げる。


「二人とも失踪扱いだったから、一応当時のものを保管しておいたんだ。まさか、こんな形で本人達に返す羽目になるとは思わなかったけど」


 『もちろん、陛下に許可は取ってあるよ』と補足しつつ、魔塔主はそっと眉尻を下げる。

半分、遺品整理のようなものなので複雑な感情を抱いているのだろう。

『まあ、返せただけ良かったと思うべきか』と思案する彼を他所に、隣室へ繋がる扉が開いた。


「待たせて、申し訳ない。今、終わったよ」


 大きめの鞄を手に持って現れた師匠は、ニッコリと笑う。

『残りのものはそちらで処分してもらって、構わない』と述べる彼を前に、魔塔主はコクリと頷いた。


「じゃあ、早速お別れの挨拶と行こうか」


「いや、そこまで畏まる必要はないと思うんだけど。別に今生の別れという訳では、ないんだから」


 国外であれば会えることを主張し、師匠は小さく肩を竦める。

大袈裟だな、とでも言うように。


「でも、このまま二度と会えずにどちらか亡くなる可能性もあるんだから、しっかりしておいた方がいいでしょ。少なくとも、私達がエタニティ皇室に仕えている間は互いの立場を考えて、会えないだろうし」


 『傍から見れば、罪人と密会しているようなものだから』と語り、魔塔主は一つ息を吐いた。

かと思えば、カチャリと眼鏡を押し上げる。


「しんみりとした空気が嫌なのは分かるけど、ちょっとくらい我慢して」


 『別れの挨拶くらい、ちゃんとさせろ』と強引に押し切り、魔塔主は懐へ手を突っ込んだ。

何か餞別でも渡すのかと思案する私達を他所に、彼は一輪の花と何かのリストを取り出す。


「とりあえず、これは奥さんに」


「あぁ、うん。ありがとう」


 反射的に品物を受け取る師匠は、小さく首を傾げた。


「えっと、花は分かるけど、この書類は何?」


「君の奥さんに嫌がらせした奴らの末路」


「はっ……!?」


 思わずといった様子で大声を上げ、師匠は食い入るように書類を見た。

かと思えば、少しばかり後ろに仰け反る。


「うわっ!?全員、左遷されるか辞職に追い込まれている!?お前、何したんだ!?」


「それは秘密。ちなみにヴィクターへ嫌がらせした奴らの末路はこっち」


 懐からもう一枚書類を取り出し、魔塔主は爽やかな笑みを浮かべた。

どことなく圧を感じる彼に対し、師匠は苦笑いする。

と同時に、書類を受け取った。


「あ、ありがとう……多少溜飲が下がった」


「なら、良かった」


 『仕返しした甲斐があったよ』と語る魔塔主に、師匠は何とも言えない表情を浮かべる。

でも、受け取ったものは大切に鞄へ仕舞っていた。

多分、自分達に嫌がらせした人の末路そのものというより、魔塔主(友人)が頑張って仕返ししてくれた記録に価値を感じたんだと思う。

いくら魔塔のトップとはいえ、これだけの人数に罰を与えるのは容易じゃなかっただろうから。


「さて、君達の番だよ」

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