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結界と秘策《ミリウス side》

「お遊びはここまでしようか」


 そう言うが早いか、サミュエルは部下に目配せする。

と同時に、結界の周囲を固めていた者達は一歩後ろへ下がった。

そして、懐から缶のようなものを取り出す。ついでにマッチ棒も。


 なんだろう?爆発物か、何かかな?

缶の先端から、ヒモのようなものが伸びているし。


 『魔術じゃ敵わないから、化学兵器で対抗するつもりか』と考え、私は表情を強ばらせる。

さすがにディランの結界を吹き飛ばせるほどの威力はないと思うが……確実にヒビは入ると思うから。

『なにせ、この数だからな』と身構えていると、彼らは缶のようなものを一斉にこちらへ投げる。


「そんなの風で押し返して……」


 ディランは魔術で強風を吹かせ、缶のようなものを跳ね返した。

と同時に、サミュエル側の魔術師が結界を張る。私達の周りを囲う形で。

無論、味方は結界の外だ。


 なるほど。そういうことか。これはしてやられたね。


 あちらが張った結界の内側(・・)にある缶を見やり、私は苦笑する。

何がなんでもこちらにダメージを与えるつもりだ、と悟って。

『ディランの結界があるから、怪我はしないと思うけど』と考える中、缶が大きな音を立てて爆発した。

どうやら、こちらの予想通り爆弾だったらしい。

空気を通して伝わってくる衝撃や煙に耐えつつ、私は口元を押さえる。


 なんか……息がしづらい。煙のせいかな?


 コホコホと咳き込みながら体勢を低くして、煙から遠ざかった。


「ねぇ、ディラン。煙を……」


 ────どうにか出来ない?


 と、続ける筈だった言葉は吐血によって遮られる。

瞬く間に地面を赤く染めるソレの前で、私は目を白黒させた。


 えっ?血?どうして?別に何か攻撃された訳では、ないのに……まさか、爆発の煙で?

いや、呼吸困難だけなら分かるけど、さすがに吐血は……。


 どう考えても煙の仕業とは思えない症状に、戸惑いを覚える。

────と、ここでディランが風属性の魔術を展開した。

それにより、煙は私達の周りから消える。

が、あちらの張った結界に阻まれ、霧散させることが出来なかった。


「空気の出入りも制限するタイプか……」


 ディランは独り言のようにそう呟き、内側へ結界を追加。

おかげで、煙との直接接触はなくなった。


 呼吸が多少楽になった……ということは、多分────


「────あの煙は毒ガスか、何かなんだね?」


 確信を持った声色で尋ねると、ディランは小さく首を縦に振る。


「ええ、恐らく。一先ず、こちらも空気の出入りを制限する結界を張り、難を逃れましたが……長くは持たないでしょう」


 このままでは窒息する可能性を示し、ディランは一つ息を吐いた。

八方塞がりの状況に、辟易しているのだろう。


「とりあえず、治療を行いましょう。毒の種類が分からない以上、気休めにしかなりませんが」


 『自己治癒能力と免疫力を上げるくらいしか出来ない』と語り、ディランは新たに魔術式を構築。

即座に発動し、私の体を癒した。

そのおかげか、体調はかなり回復する。

でも、解毒は済んでいないので少しずつ体を蝕まれていくような感覚が確かにあった。


 こうなると、長期戦は無理だね。

早く片をつけて、医者に診てもわらないと命が危ない。

きっと、かなりの猛毒を使っているだろうから。


 『サミュエルに限って、生易しい毒を使うとは思えない』と考え、危機感を覚える。

と同時に、ディランは自分の回復も終えた。

吐血こそしていないものの、毒を摂取したことに変わりはないから。


「それで、ここからどうするかですが……」


 おもむろに顔を上げ、ディランはこちらを向いた。


「正直、方法は一つしかないと思っています。それは────あちらの張った結界を破壊し、(毒ガス)を散らすこと。そうすれば、空気の出入りを制限する結界を解いても問題ないので、普通に呼吸出来ます」


 チラリと一番外側にある結界を見やり、ディランは少しばかり表情を硬くする。


「ただ────現状、僕は攻撃魔法を複数発動することが出来ません。結界に力を割いているので」


 空気の出入りを制限するものに加え、物理特化のものを三枚ほど張っているため、ディランはあまり余力がない。

先程も言った通り、魔力だけでは魔術を扱えないから。


「つまり、私達が窒息する前にあちらの張った結界を破壊出来るか分からない、ということだね?」


 ディランの言い分を踏まえて問い掛けると、彼は小さく頷く。


「はい。なので、少しでも成功率を上げるために────|空気の出入りを制限する《一番最後に張った》結界以外、全て解除して攻撃に回します」


 『そうすれば、攻撃魔法を複数同時に発動出来る』と主張し、ディランは手のひらを前へ翳す。

と同時に、物理特化の結界は全て綺麗に消えた。


「ここから先は、時間との勝負です」


 そう言うが早いか、ディランはグリモワールを活用して次々と攻撃魔法を放った。

が、一向に結界を破壊出来ない。


 さすがにあちらもこうなることを見越して、強度を上げて作ったんだろう。

第一級魔術師なら、大抵の結界は一撃で壊せるから。


 『多分、この結界にほぼ全ての力を込めたんだろうね』と肩を竦め、私はサミュエルの方を見る。

魔物襲撃作戦(第一プラン)が失敗した時の保険もちゃんと用意していたのか、と少し感心して。

今までのサミュエルでは、考えられないほどの手回しの良さだ。

『きっと、他にも色々保険を用意している筈』と警戒する中、私は不意に目眩を覚える。


 何故……?まだちゃんと呼吸は出来ている筈なのに。

もしや、毒の効果?それとも────空気中に存在する、体を動かすための栄養素……それが枯渇した?


 『もし、後者だとしたら……』と悩みつつ、私は胸元を強く握り締めた。

だんだん息苦しくなっていく感覚を覚えて。

『はぁはぁ』と肩で息をするようになった私を置いて、ディランはひたすら攻撃魔法を繰り出す。

一秒でも早く、この事態から脱するため。


「あと……もうちょっと」


 真っ青な顔で前を見据え、ディランは片膝をついた。

かと思えば、半分呻くようにグリモワールの文章を読み上げる。

その瞬間、人間の頭ほどある氷塊が現れ、外側の結界を────打ち砕いた。

すると、ディランはすかさず風魔術を展開。一瞬にして、毒ガスを散らした。


「結界、解除……」


 『最後の仕上げだ』と言わんばかりに、ディランは前へ突き出した手を下ろす。

それを合図に、半透明の壁は姿を消した。


 い、息が……しやすくなった。それに目眩も収まっている。

毒の効果か体は少し怠いけど、倒れるほどではないね。


 『これなら、動ける』と思いつつ、私は顔を上げる。

と同時に、表情を強ばらせた。

何故なら、結界の周りに居たサミュエルの部下達が一斉に剣を振り下ろしてきたから。

狙いは言うまでもなく、私だ。


 不味い……!この距離では、避け切れない!


 結界の消失と共に直接攻撃へ切り替えることは予想していたものの、体調不良に気を取られて反応が遅れてしまった。

『こうなったら、回避は諦めて急所を守るしかないね』と思案する中、十数本もの剣が迫ってくる。


「っ……!」


 自分のものじゃない悲鳴が聞こえ、私はハッと息を呑んだ。

というのも────ディランが私を庇うように覆い被さり、相手の攻撃を受けたため。


 直前に風魔術で何人か吹き飛ばしていたからか、全て命中こそしていないものの……かなりの重傷だ。

今すぐ治療しないと、最悪死ぬ。


「ディラン……!」


 反射的に親友の名を呼び、私は彼の体を強く抱き締めた。

『どうにかして、逃げなければ!』と焦る私を前に、サミュエルは小さく笑う。


「これで終わりだ、兄さん」

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