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サミュエルとの攻防戦《ミリウス side》

◇◆◇◆


 ────時は少し遡り、グレイス卿と別れた直後のこと。

私は救援隊と見せかけた暗殺集団を見据え、大人しく待機していた。

下手に動いてディランの負担を増やすようなことになったら、困るため。


 魔物が居なくなった分かなり戦闘は楽になったけど、それでも油断は出来ない……もう後がないサミュエル達にとっては、これが最後のチャンスだから。


 ある意味手負いの虎より恐ろしい彼らを前に、私は気を引き締める。

と同時に、サミュエルが少しばかり眉を顰めた。


「せっかく、苦労して用意した魔物が……」


 グレイス卿の走り去った方向を見やり、サミュエルは大きく息を吐く。


「まあ、分断出来ただけ良しとするか」


 『第一級魔術師と第一騎士を同時に相手するのは厳しい』と零し、サミュエルは剣の柄に手を掛けた。

かと思えば、抜刀する。


「さて、兄さん。一応、聞こうか」


 そう前置きしてから、サミュエルは真っ直ぐこちらを見据えた。


「大人しく、命を差し出す気はある?」


 答えの分かりきった質問を投げ掛け、サミュエルは剣先をこちらに向ける。

他の者達も剣を抜き、いつでも戦える体勢に入った。


「申し訳ないけど、その気はないよ。私は次期皇帝として、まだ死ぬ訳にはいかないからね」


 『帝国の未来を守り、紡ぐ義務がある』と語り、私は交渉決裂を言い渡す。

が、サミュエルに動じた様子はなかった。


「まあ、そうだよね。兄さんなら、そう言うと思った」


 小さく笑って肩を竦め、サミュエルは部下達に目で合図する。

と同時に、私達を包囲した。


 ディランの結界があるから一斉攻撃を仕掛けられても、ある程度持ち堪えられると思うけど……それにも、限界はある。

おまけにこの距離感……魔術師であるディランにとって、分が悪い。


 どちらかと言えば剣士の間合いである戦況を前に、私は頭を悩ませる。

────と、ここでサミュエル達が剣を振り上げた。

迷わず結界へ斬撃を繰り出す彼らに対し、私は『考える時間を与えないつもりか』と辟易する。


「ディラン」


「分かっています」


 グリモワールのページを捲るディランは、竜巻のような強風を吹かせた。

恐らく、結界の周りに居るサミュエル達を跳ね飛ばして距離を取るつもりなのだろう。

中距離や遠距離に持ち込めれれば、魔術で一方的に叩きのめせるから。

無論、相手に魔術を扱える者が居るかもしれないので楽勝は難しいだろうが。

でも、第一級魔術師であるディランなら負けることはない筈。


 隙を見て、逃げる手もあるし……距離さえ取れたら、どうとでも出来る。


 と確信する中、サミュエルを含めた何人かが吹き飛ぶ。

すると、ディランがすかさず元々生成しておいた水の矢を放った。


「っ……」


 見事左腕に水の矢を受けてしまったサミュエルは、苦痛に顔を歪める。

地面に伏せたまま動かない彼の前で、ディランは少しばかり眉を顰めた。


「狙いが少しズレた」


 吹き飛ばされたサミュエルが、着地を失敗したからか予想と違う結果になってしまったらしい。

『本当なら、心臓を一突きしていた筈なのに』と嘆き、ディランは新しい矢を生成した。


「今度こそ、仕留める」


「それは別に構わないけど、先にそっちじゃない?」


 サミュエルは結界の周囲に残った部下達を指さし、小さく笑う。

まあ、痛みのせいで余裕がないのか大分ぎこちないが。


 でも、サミュエルの言い分には一理ある。なんせ、もう────結界が持たないから。


 立て続けに行われた斬撃によりヒビが入り、今にも壊れそうな結界を見つめ、私は表情を硬くする。

『いざという時は自分の手でどうにかしなければ』と思い立ち、剣に手を掛けた。

と同時に、結界が音を立てて崩れ去る。


「結界なんて、いくらでも張り直せる。だから、こっちは後だ」


 戦闘の最中に魔術式を組み立てていたのか、ディランは素早く結界を張った。

おかげで、敵の攻撃や侵入を防ぐことに成功。

一先ずは状況をリセット出来たと見て、いいだろう。

『距離感は良くも悪くも変わらず、だけど』と思案する中、サミュエルはゆっくりと身を起こす。


「いくらでも張り直せる、ね」


 含みのある言い方でディランの言葉を復唱し、サミュエルはよろよろと立ち上がった。


「確かに君の魔力量なら、何枚結界を張っても問題ないだろう。でも────結界を張り直す隙を与えずに、速攻で攻撃を仕掛けたら?」


 『スピード勝負なら、こちらにも分はある』と話すサミュエルに、ディランは


「なら、二枚でも三枚でも予め結界を張っておけばいい」


 と、主張した。

かと思えば、急いで内側に結界を追加する。

これで、守りはより強固なものとなった。

鉄壁と言ってもいい。

ただ、その分攻撃に回せる力は減ってしまった。


 どんなに魔力が多くても、一度に扱える魔術の数には限りがあるからね。

効力を調整したり維持したりするのに、思考力や集中力が必要となるため。

あまり数を増やし過ぎると、諸々の処理が追いつかなくなって不安定になる。

最悪、魔術の発動中止なんてことも……。


 『現状、それは不味い』と危機感を覚える中、吹き飛ばされたうちの一人が手のひらから魔力を出す。

どうやら、魔術式を作成するつもりのようだ。


「させる訳ないでしょ」


 ディランはグリモワールで新たに水の矢を生成し、発射。

構築中の魔術式を見事破壊した。

が、相手は懲りずにまた魔力を出して操る。


「往生際の悪い人だね。そこでやめておけば、いいものを……こうなったら、手首を切り落とすしかないじゃないか」


 魔力を出す際は大抵手のひらを経由するため、ソレを失えば魔術式を構築出来ない。

ディランのようにグリモワールを使えたら話は別だが、見たところそれほど技量のある魔術師ではなさそうだ。

『使えるなら、最初から使っているだろうし』と思案する中、ディランは風の刃を生成する。

と同時に、相手の魔術師目掛けて放った。


「結界から離れている者は全員、彼の援護を」


 サミュエルは痛む左腕を押さえたまま駆け出し、どうにか風の矢を止める。

他の者達も同様にディランの攻撃を防ぎ、魔術式完成までの時間稼ぎをした。


「いつになく、必死だね」


 冷めた声色で指摘するディランに対し、サミュエルは小さく肩を竦める。


「そりゃあ、もう後がないからね」


「……本当にそれだけ?」


 訝しむように眉を顰め、ディランはじっと相手を見つめた。

『それだけじゃないような気がする』と悩む彼を前に、サミュエルはそっと目を伏せる。


「さあ、どうだろうね」


 適当にはぐらかして小さく笑い、サミュエルはゆっくりと目を開けた。

かと思えば、ルビーの瞳に憂いを滲ませる。

でも、それはほんの一瞬のことで……直ぐにいつもの調子へと戻った。


「お遊びはここまでしようか」

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