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狩猟大会

◇◆◇◆


 ────時は流れ、狩猟大会当日。

私はミリウス殿下の護衛として会場となる森へ足を運び、彼について回っていた。

無論、ディラン様も一緒である。


「わざわざ、動物を森へ放すんですか?」


 従者の手から下ろされた兎や狐を一瞥し、私はディラン様へ視線を向けた。

すると、あちらもちょうど私のことを見ていたようでバッチリ目が合う。


「うん、そうだよ。本物の野生の動物を捕まえるのは、骨が折れるからね。人馴れした動物を一定数、用意しておくのが通例」


 『貴族も参加する以上、ある程度の接待は必要なんだ』と語り、ディラン様は小さく肩を竦めた。

到底狩りとは言えない形式に、呆れているのだろう。


「ミリウス殿下も、狩りには参加するんですか?」


「多分。主催者なのに、参加しないのは問題あるから」


 『一匹くらい、何か捕まえないと』と述べるディラン様に、私は一つ頷く。


「そうなると、必然的に護衛の私達も森へ入ることになりますね」


「うん。凄く憂鬱」


 『僕、あんまり狩りって好きじゃないんだよね』と嘆息し、ディラン様は肩を落とした。

と同時に、空を見上げる。

ジリジリと照りつけてくる太陽の光に目を細め、手のひらから魔力を出した。


「しかも、凄く暑いし……」


「もう夏本番ですからね」


「春に戻ってほしい……」


 『溶ける……』とボヤきながら、ディラン様は魔術式を描いた。

かと思えば、直ぐさま発動する。


「あれ?ちょっと涼しくなりました?」


「いや、気温は変わってないよ。ただ、日の光を反射しただけ」


 『それで少し涼しく感じるんだよ』と説明するディラン様に、私は相槌を打つ。

木陰に居るようなものか、と納得しながら。


「やっぱり、魔術って凄いですね。そんなことも出来るなんて」


 僅かに目を輝かせて褒めちぎると、ディラン様は頬を赤くする。

『周りからは魔力の無駄遣いって、言われるけどね』と照れ隠しのように言い、小さく肩を竦めた。

────と、ここで先頭を歩いていたミリウス殿下が足を止める。


「全く……この忙しいときに何の真似だい?────サミュエル」


 目の前に立つ白銀髪の男性を見つめ、ミリウス殿下は一つ息を吐く。

と同時に、少しばかり表情を硬くした。


「こっちは最終確認で忙しいんだ、道を開けておくれ」


「邪魔者扱いなんて酷いな、兄さん。僕はただ、挨拶しに来ただけなのに」


 『傷つくな〜』とおどけるように言い、サミュエル殿下は小さく笑う。

なんだかとても愉快そうな彼を前に、ミリウス殿下はスッと目を細めた。


「悪いけど、後にしてくれる?」


「今じゃなきゃ、ダメなんだよ。こうやって、ゆっくり話せる機会はもうないだろうからね。最後の挨拶くらい、しっかりしたい」


 最後……?


 どこか含みのある言い方が引っ掛かり、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

傍に居るミリウス殿下やディラン様も同じ疑問を抱いたのか、少し難しい表情を浮かべていた。


「……断罪までのタイムリミットが、もうほとんど無いことを悟っているのかな」


 小さい声でボソリと独り言を零し、ディラン様は小首を傾げる。

『大人しく咎を受ける覚悟でも決めたのか』と分析する彼の前で、ミリウス殿下は姿勢を正した。


「それなら、尚更後にしてくれ。話す機会くらいは全てを終えた後でも、ちゃんと作るつもりだから」


 『今、話す必要はない』と言い切り、ミリウス殿下は再度道を開けるよう要請する。

その途端、サミュエル殿下は呆れたような……でも、どこか哀れむような視線をこちらへ向けた。


「そっか」


 相槌だけ打って身を引き、サミュエル殿下は道を譲る。

『どうぞ』と促してくる彼を前に、ミリウス殿下は再び歩き出した。

私達もそれに続き、サミュエル殿下の前を通り過ぎる。

────その際、見えたルビーの瞳はどこか淀んでいるように感じた。


 サミュエル殿下の言う『最後』って、本当に断罪のことだったのかしら?


 『なんだか、違和感があるわね』と思いつつ、私は歩を進める。

そして、ミリウス殿下に連れられるまま会場を一周すると、特設ステージへ足を運んだ。

すると、直ぐに開会式が始まる。

『いよいよ、本番か』と誰もが気を引き締める中、式は滞りなく終了した。

と同時に、各家の令息や騎士が森へ足を踏み入れる。

どうやら、早速狩りを始めるようだ。


「皆さん、気合いが入っていますね」


「皇室主催の狩猟大会は、色々と豪華だからね。活躍すれば、皇室や大貴族から認知してもらえるし」


 すっかり人の居なくなったステージ前を眺め、ディラン様は小さく肩を竦めた。

────と、ここでミリウス殿下がステージから降りてくる。


「私達もそろそろ行こうか」


 腰に差した剣へ手を置き、ミリウス殿下は森へ足を向けた。


「徒歩で行かれるんですか?」


「ああ、そこまで奥に入るつもりはないからね」


 『近場の獲物を狩って、直ぐに戻ってくるつもり』と語り、ミリウス殿下はさっさと歩き始める。

迷わず森の中へ足を踏み入れる彼の前で、私とディラン様は周辺の警戒に当たった。

他の参加者も同時に狩りを行っている以上、いきなり矢や魔術が飛んでくる可能性があるため。

俗に言う、流れ弾だ。

なので、油断は出来ない。でも……


「……なんというか、静かですね」


 気を抜くつもりはないものの、人の声も動物の息遣いも聞こえないとなると、なんだか拍子抜けしてしまう。

『スタート地点近くに居る動物は粗方狩られちゃったのかな?』と考えつつ、私は奥の方へ目を向ける。


「場所を変えた方が、いいかもしれません。このままでは狩りをするどころか、獲物を見つけられない可能性もあります」


 連日の激務で疲れているミリウス殿下に早く休んでほしくて、私はそう進言した。

すると、彼はこちらを振り返り小さく頷く。


「そうだね。もう少し奥へ行こうか」


 正面に視線を戻し、ミリウス殿下はゆっくりと前へ進んだ。

私達も、それに続く。

────かれこれ、二十分は歩いただろうか……どれだけ獲物を探しても、一向に見つからなかった。


「狩りをした痕跡はあれど、姿は見えずか。もしかして、狩り尽くされちゃったのかな?」


 困ったように笑って溜め息を零し、ミリウス殿下は『どうしたものか』と思い悩む。

まあ、更に奥へ進む以外の選択肢はないと思うが。

『立場上、手ぶらで帰る訳にはいかないものね』と思案する中、ふと足音を耳にした。

それも、人間のものじゃない……もっと小さくて、軽い生物のものだ。


「ミリウス殿下、あちらに何か居ます。恐らく、小型の動物かと」


 前方の草むらを指さし、私は『少し近づいてみますか?』と問い掛ける。

と同時に、カサッと草花の揺れる音が響いた。


「あっ、兎」


 例の草むらから現れた音の主を前に、ディラン様は少しばかり目を剥く。

『この辺には、生息していない種類の兎だね』と述べる彼の前で、ミリウス殿下は剣を抜いた。

その瞬間、兎は物凄い速さでこの場を立ち去る。


「追い掛けよう」

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