最終目標《サミュエル side》
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────第一騎士グレイスと接触してから、一ヶ月と少し。
僕は淡い希望が打ち砕かれていく感覚を覚えながら、自室で一人狼狽えた。
というのも、着実に近づいてくる破滅の足音を聞いてしまって。
「また取り引きを断られた……」
とある傭兵団から届いた返事の手紙を見下ろし、僕はクシャリと顔を歪める。
このままでは戦力が足りない、と嘆きながら。
金さえあれば何でもやる傭兵団だと聞いていたのになんだ、これは。
まさか、兄さんが裏から手を回したのか?
こちらの動きを完全に気取られている可能性を考え、僕は戦慄する。
もう本当に後がないことを悟って。
「今は狩猟大会の準備で忙しいから、泳がされているだけ……それが終われば、本格的に僕の断罪を始める筈」
グッと強く手を握り締め、僕は迫り来るタイムリミットに恐怖した。
思ったより残された時間が少ないことを感じ取り、思案する。
もう一度、あの女に接触するか?いや、味方に出来る確信がない状況で手を出すのは不味い。
みだりに何度も接触すれば、兄さん側から不信感を買う。
そうなった場合、あの女をこちらへ引き込めても切り札として使えない。効果が半減する。
『デメリットの方が大きい』と苦悩し、僕は眉間に皺を寄せた。
「上手いこと弱点を握れれば、まだ希望はあるんだけど……あの女の過去は分からずじまいなんだよね」
辺境の山奥にでも住んでいたのか、それとも特殊な生まれなのか……第一騎士グレイスの経歴や出身は、依然謎のまま。
『一体、どこで何をしていたんだか』と思いつつ、僕は来客用のソファへ腰を下ろす。
「これじゃあ、本当に打つ手なしだ……」
断罪されるのを待つことしか出来ない状況に、僕は溜め息を零した。
ぼんやりと天井を眺めながら逡巡し、唇を引き結ぶ。
そろそろ腹を括る頃だ、と自分に言い聞かせて。
「僕の最終目標は、帝国への復讐……皇帝となることじゃない。それはあくまで、手段の一つ」
『皇帝になった方が、色々出来るから目指していただけ』と思案し、僕は趣向を変えようと画策する。
今のままでは何も果たせぬまま、終わってしまうため。
まあ、やることは大して変わらないが。
ただ────全力で兄さんを殺すだけ。
これまでは先のことを考えて無茶をしないようにしていたけど、この際相打ちで構わない。
皇帝の実子が二人とも皇位を継げなくなれば、帝国は混乱に陥るだろうから。
『充分、復讐になる筈』と判断し、僕は狩猟大会に全てを賭けようと決める。
屋外の方が警備も手薄で、殺すチャンスを掴みやすいため。
「────母さんを見殺しにした代償、必ず支払ってもらうよ、エタニティ帝国」
今は亡き皇后メリッサ・ミラ・エタニティを思い浮かべ、僕は静かに復讐の炎を燃やした。




