親友とのティータイム《ディラン side》
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────晴れてグレイス嬢と恋人同士になってから、早一週間。
僕達の間に進展らしい進展は、特になかった。
というか、まず顔も合わせられない状況……お互い、魔塔の再建やら事件の後処理やらで忙しいため。
「はぁ……せっかく交際まで漕ぎ着けたのに、何でこんなお預けを食らわなきゃいけないの……」
皇城の一室で不満を漏らし、僕はテーブルに突っ伏した。
すると、向かい側の席に腰掛ける金髪の美青年が顔を上げる。
「なら、しばらく私の護衛でもやるかい?グレイス卿とディランの二人で」
『皇太子命令だから、周りは口出し出来ないよ』と述べるミリウス殿下に、僕は少しばかり眉を顰める。
「殿下はいらないんですけど……」
グレイス嬢と二人で過ごしたいことを主張すると、ミリウス殿下は困ったように笑った。
「でも、こうでもしないと会えないと思うよ?魔術師と騎士って、ただでさえ交流が少ないんだから。プライベートで会えないなら、仕事の方をどうにかするしかないだろう?」
「それは……まあ、確かに」
渋々ながらも理解を示す僕に対し、ミリウス殿下は小さく肩を竦める。
と同時に、真っ直ぐこちらを見据えた。
「それに私自身、第一級魔術師や第一騎士が護衛についてくれると凄く安心なんだけど」
どこか含みのある言い方でそう述べ、ミリウス殿下はスッと目を細める。
その際、サファイアの瞳から僅かな不安が垣間見えた……ような気がした。
「もしかして、またちょっかいを出されているんですか?」
のそのそと身を起こして居住まいを正すと、僕は小さく息を吐いた。
意味もなくティーカップの縁を指でなぞる僕の前で、ミリウス殿下は苦笑を漏らす。
「うん、そうみたい。私が皇太子の座に就いた以上、諦めると思ったんだけどね……そうはいかなかったようだ」
「しつこい連中ですね……往生際が悪すぎる」
嫌な予感が的中していたことに辟易しつつ、僕は小さく頭を振った。
やれやれと呆れ返る僕を前に、ミリウス殿下はじっとティーカップの中を眺める。
「このまま私が皇位を継げば消されると思って、怯えているんだよ。まあ、全くもってその通りなんだけど────腐ったものは早く捨てる、に限るからね」
『わざわざ手元に置いておく道理はない』と言い、ミリウス殿下は不敵な笑みを浮かべた。
サファイアの瞳に強い意志と決意を宿す彼の前で、僕はティーカップを持ち上げる。
「とりあえず、護衛の件は分かりました。引き受けます。グレイス嬢の件を抜きにしても、親友として放っておけませんから」
これまでミリウス殿下には色々とお世話になったこともあり、僕は迷わず了承の意を示した。
すると、ミリウス殿下は笑顔で
「ありがとう」
と、お礼を言う。
どことなくホッとした素振りを見せる彼を前に、僕は小さく肩を竦めた。
「どういたしまして。でも、グレイス嬢に護衛を打診するのはちょっと待ってください。先に本人の意思を確認したいので」
「それはもちろん。ディランが引き受けてくれただけでも、私としては満足だから好きにして」
「分かりました。では────早速グレイス嬢の意見を聞いてきます」
そう言うが早いか、僕は席を立った。
グレイス嬢の元へ、足を運ぶために。
これはあくまで業務連絡だから、会いに行っても問題はない筈。
文句を言うやつなんて、居ないだろう。
『居ても、黙らせるけど』と考えつつ、僕は扉へ向かう。
グレイス嬢に会うのは久々なので喜びを隠せずにいると、後ろから
「うん、行っておいで」
と、声を掛けられた。
反射的に振り返れば、ニコニコしながら手を振るミリウス殿下を視界に捉える。
「報告は多少遅くなっても、構わないよ。今日はずっと、執務室に籠る予定だから」
言外に『思う存分、イチャイチャしてくるといい』と述べ、ミリウス殿下は笑顔で送り出す。
……一瞬でもグレイス嬢の顔を見れればと思っていたけど、思いの外ゆっくり出来そうだな。
早く彼女の元へ向かおう。
緩む頬をそのままに部屋を出ていき、僕はグレイス嬢の居る騎士団本部を目指した。




