4話 魔法
筋骨隆々の青年。キュロウ。
茶髪七三前髪で水色のヘアピンを付けてる。
眼鏡。
フリフリが少し付いた白シャツをズボンの内に入れてサスペンダーを付けてる。
押し潰しそうな程の巨大なバッグ。
ドトナさんが布団を畳んでる時に、ふっと目が覚めた。
各々顔を洗ったりと動いて、荷物も纏まり支度が終わる。
「あの、昨日のお肉と泊めてもらったお礼に私に何か出来ることはありますか?」
「いいんですか?」
荷物を全部バッグに詰め込んだドトナさんはそういった。
お礼って言われても一人で大抵のことはできるし今の環境に満足してるからな。
「私に出来ることなら」
ドトナさんに出来るのこと…。
あ…。ドトナさんにしか出来ないことを思いついた。
この機を逃したら当分、気になって夜も眠れなくなる。
「魔法を俺に撃って欲しいんですけど」
「ま、魔法を撃つ…ですか。さすがに危ないですよ。
キュロウさんは特に、魔力が無いんですから防御出来ないじゃないですか。
それに、人に向けて撃つなって母から言われてるので」
そりゃそうだよな。急にそんなこと言われてもやりづらいよな。
「俺を魔物だと思ってやってみてください。
どうしても魔法を見ておきたいんです」
魔法っていうのがどれくらいのものなのか知っておきたい。
いつ俺が誰かから魔法をぶつけられるかもわからないからな。
知っておいて損は無いでしょ。
「それなら木に撃つだけでもいいじゃないですか」
「いやいや、せっかくなんで受けておきたいんです。魔法を知るために、これから絶対必要になってくるので」
体で受けたいんだ。魔法の威力を。
「んー。軽くなら頑張ってやってみます」
「そうですね。徐々にいきましょう」
よし!あとは俺の体が耐えられるかどうかだな。
破れると困るから葉服に着替える。慣れたもんだ。ひょひょいと作って被る。
「い、行きます!」
ドトナさんが杖を構える。
あー、魔法を使うための杖だったのか。
杖の先が淡く光りだす。光の粒子が杖の先に集まっていく。
(おー!)
次第に杖先の光は水色に変わる。
「ふんっ!」
ドトナさんの力の籠った声で水色のビー玉サイズの物体が発射される。
(プシュンっ!)
んー、この軌道じゃ俺に当たらないで木に当たっちゃうな。
さすがに一発目は躊躇して当てられないか。
それなら。
(ふっ!)
横に飛んで謎の物体の正面に入る。
(ドゥプン!)
腹に衝撃が伝わる。
「んー。水風船が当たった感じかな」
物足りない。もっと強いのが欲しい。
「もう少し強めでお願いしまーす!」
「え…」
困ったような顔をするドトナさん。
それでもちゃんとやってくれる。
「い、行きます!」
お、正面に来た。吹っ切れたかな。
(ドプン!)
右脚。
「もう少し!」
(ドパン!)
左胸。
「まだまだ!」
(ドッパン!)
右胸。
「もういっちょ!」
(ダドポン!)
鳩尾。
「まだまだぁ!」
「こ、これ以上はもうできません」
「すみません。一人でテンション上がっちゃって」
「お、おかしいです。
木を削るくらいの威力は出してるはずなんですけど」
「ただ頑丈なんです。それだけが取り柄なんで。
それにしてもちゃんと魔法当てられるじゃないですか。そんな感じで魔物も倒せるんじゃないですか?」
昨日言ってたような狩りで使えない程弱い威力でもないかな。
これなら猪の動きを止めるくらいなら出来そうだけど。いい所に当たれば倒せそうだし。
「いえ、止まってる的なら当てられるんです。
でも動くと全然ダメなんです」
「そうなんですか。大変ですね」
「大変です」
魔法ってよくわかんない。
「武者修行の旅なんですよね。気長に行きましょう」
「そうですよね」
すっごいファンタジーな出来事を目の当たりにした。いや、体験した。
うーん。魔力……全くわからん。
心躍るけどそういう魔力とかさっぱりわからん。
そんなわけでお礼も済んだことで別れの時間が来た。
一日も一緒にいなかったけど、濃密な時間で結構な時間一緒にいた感じがする。
相変わらず巨大なバッグを背負うドトナさん。
「食料とか大丈夫なんですか?」
「あと一週間くらいなら持ちます。それまでにどこか近くの村に寄れれば補充できるので」
「そこまで着いて行きましょうか?俺なら魔物狩れるので」
「いいんですか?」
断れるかなって思って提案したけど意外とそうでも無いのか?
「俺、魔物の食べ方わかんないんで教えて貰えたらなって」
「そうですね。キュロウさんさえ良ければ、もうしばらくの間よろしくお願いします」
意外とあっさり一緒に行動することが決まった。
「もっと魔法見たいですしね」
「そういう事ですか。つまりwin-winな関係ってことですね」
「そういうことです。それに、魔法の練習にもなるんじゃないですか?」
「かもしれません」
旅は道連れって言葉もあるし、きっとこれがいい方向に動くと思う。
そんな予感がする。
とりあえず近くの村を目指すことになった。
それから出発の前に杖を渡された。
「念の為持っておいてください。杖を持たない者を見たことがないので、きっと変に目立ってしまいますから」
そうなんだよな。心配事が一つある。
俺以外に魔力を持たない人がいないってこと。
それのせいでドトナさんとも最初は怪しい空気になったからな。
「たくさんありますね」
「実は杖を集めるのにハマってまして」
俺に杖を渡す前、布の上に十本位の杖を並べてた。
杖マニアってやつかな。
「杖っていうのはこの世界の全ての者が持つ物なんです。
なので杖職人という方がたくさんいるんですよ。
そして杖は作るひとによってすごく思考されて作られてるんです。この世界には何ひとつとして同じ杖はありません。
職人の思いや使い手を思う気持ち、自然への調和、杖にはそれぞれテーマがあって作られてます。
鳥の羽の様な軽さを売りにしたり、木の根っこをそのまま使った自然の芸術性を重んじたり、遠くの物を動かずに取れるように先端にフックがついていたり、腰が悪い者でも使いやすい支えの役割を持っていたりと。
しなり、歪み、比率、フォルム、色合い、素材、装飾、温かさ、手触り、匂い、ファッション、便利さ、手軽さ、かっこよさ、杖による表現は無限大なんですよ。
私は特に、自然の凹凸を残したものが好きです。なので根っこタイプのこのぐにゃぐにゃしたやつですね。
まあ、実際は選べないくらい、どれもいいんですが、特に好きなのはって聞かれたらこれですね。
私は持って無いですが、いつか大杖を持ってみたいですね。
村なんかには小杖しか来ないんですよ。
運搬には向かない物なので。
って、すみません。喋りすぎました」
うん、凄い早口で杖の良さを語られた。
半分くらい聞き取れなかったけど杖が好きなのは伝わった。
「いえいえ。俺そういう話、結構好きなんですよ」
「そ、そうなんですか。
それではこれなんでどうでしょう……」
この後、森を進みながら二時間くらい杖の話が続いた。




