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12話 別れ

 出立当日。

 俺達は今、弧川の扇地の広場に集まってる。



「魔法を遠慮なくぶち込ませてくれた礼だ」


 最初に俺を森に連れ込んだおじさん。最初はなにかされるのかと思い込んでたけど、ちゃんといい人だった。

 何より、誰よりも躊躇いなく俺に魔法を撃ってくれたんだ。感謝しかしない。

 

 「しねぇ!」「ぶっ殺す!!」「ぶちのめしてやる」「ここかぁ!ここがいいんだろぉ!」「後ろがら空きだぜ!」

 とにかく口は悪いけど優しいのを俺は知ってる。

 この服だって気に入ってる。



 差し出されたおじさんの手には一本の短剣が握られていた。


 黒色の持ち手と鞘には謎の紋様が掘られていて、鞘を引き抜くと白銀の刃が姿を見せる。


 これが初めての刃物。包丁も握ったことが無い俺が短剣を。

 骨のナイフよりも重くてギラギラしてる。

(ごくり…)

 刃先を撫でたら簡単にポロッといきそうな。そんな鋭さがこの短剣にはある。

 短剣を持つ手が震える。


「田舎の魔法使いはナイフぐらいしか装備しねぇんだ。それは俺が街に行った時に買ったやつなんだがよ」

「そんな物を」

「いんや、俺にはナイフでちょうどいい。

 俺が短剣なんて持ってても部屋を彩るアンティークにしかならなかったんだ。

 ホコリ被って飾られるより使ってもらった方がそいつも喜ぶだろ」

「ありがとうございます」

「気にすんな。

 実の所、以外にも幅をとるから困ってたんだわ。ちゃんと使える奴が持ってくれた方が世のため人のためってな」


 いろいろ言ってはいるけど見ればわかる。

 ホコリを被ってない鞘と柄、磨かれた磨かれた刀身。


 使ってないのは本当だろうけど、大切にしていたのが十分に伝わってくる。


 だってほら、おじさんの目が潤ってるから。


「大切にします」

「おう。大事に使ってくれや」



「ドトナ。魔法の道は始まったばかりだよ。

 先を目指すならたくさんの困難がお前に降りかかるだろうさ。

 でもね、時には諦めたっていい。視野を広く持ってれば他のアプローチの方法を見つけられる。

 道は一つじゃない。常識的な価値観に縛られちゃいけないよ。

 お前はお前の魔法の道を歩きな」

「はい」


「キュロウ。あんたはまぁ、なるようになるさ。

 この数日見てたけどあんたはどこでも生きていける」

「はい」


「そんなキュロウがそばにいるんだ。だからドトナの心配はしてない」

 そんな風に思われてたなんて。


「ほんとに短い間だったけど、ここに来てくれてありがとね。

 元気な旅を祈ってるよ」


(ハグっ)

 ベイクおばさんは俺とドトナさんを同時に抱きしめた。




 ベイクおばさん達が架けてくれた橋を渡って対岸の地を踏む。


 俺達は振り返らない。同じ気持ちなのかドトナさんも振り返らない。

(クイクイっ)

 眼鏡のレンズから反射したなにかが頬を伝うのが横目に見えた。


 俺達は前に進む。それが成長の証だから。


 なんでこんな改まってるんだろう。初めての旅だから?柄にも無く真面目に考えちゃったよ。

 どうせならこのテンションで行こう。その方が今の雰囲気にあってる。



 弧川の扇地、旅立ち。

 出会いがあれば別れもある。それはまた逆も然り。

 別れがあれば新たな出会いがある。




「あれ、結局ドトナさんとの旅は続くの?」

「そうなりますね。キュロウさんが嫌でなければ、この先もお願いします」

 改まって向き合い、ドトナさんは丁寧な所作で頭を下げた。

 

「全然!行先なんて決まってないですから、ぶらりと行きましょうか」

「キュロウさん、その服装似合ってますね」

「そうですか?ありがとうございます。

 なんかドトナさんの顔つき変わった気がします」

「本当ですか?ベイクおばさんにもからかわれたんですが」


「すばり、心境の変化でもありました?」

 得意げに、腰に手を置いて反対の手は顔の前に持ってきて人差し指を立てる。


「ご名答っ」

 同じように人差し指を立てて答えた。

 ここまで大きいリアクションを見たのは初めてだ。


「はははっ」「ふふっ」

 俺の笑い声にかき消されて笑い声は聞こえなかったが、肩が少し上下してるのはわかった。


 我に帰ると恥ずかしくなったのか、俯いて眼鏡をクイクイする。頬が赤らんでるのは夕日のせいではありませんよ。




 山道を登っていく。傾斜があって道も荒く、ドトナさんは足元を見て歩いている。


「荷物持ちますよ」

「た、助かります」

 相変わらず巨大なバッグを背負っていて、俺は食料の入った袋を肩にかけてる。

 見るからに大変そうで、でも前持つの断られたから言いづらかったんだけど良かった。


「よっ」

 地面に降ろされたバッグを背負う。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに尋ねてくる。

「問題ないです。それに重心が変わるのでトレーニングにもなりますから」

 歩く度にゆっさゆっさと左右に振られるバッグ。

「…どこかで必ず荷物を減らします」

 申し訳なさそうに、か細い声ながらもどこか重みのある言葉。



 日差しが地面に届くことは無く、き以外の植物はほとんど淘汰されてしまっている。

 今、地面から生えている植物すなわち、陽の光を浴びなくても成長する植物だ。


 地面から十分な栄養を貰っているのか、空気が澄んでいるかれか、木の根元には白い花を咲かせた植物が多い。

 それ以外は雑草がほとんどだ。


 真新しいものが目に入らず、同じ景色が続くと体を動かしたくなる禁断症状が出てきてうずうずする。


 跳びたい、駆けたい、羽ばたきたい。

 自由を感じたい。


 心の中でそんな考えが沸騰した水のように飛び出してくる。

 ここは大人になれ、キュロウ。

 夜、ドトナさんが眠りについてからにしよう。



 怪しい男のにやけ顔は幸いにも彼女には見られていなかった。

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