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11話 魔法の道

 対象が動いている場合、その動きの先を予測する。

 私の魔法生成速度、魔法射出速度、魔法精度を重ね合わせて撃ち放つ!

(ブゥン)

 飛沫の後ろをかすることなく通り過ぎていった。


 まあ、一朝一夕でできるようになるものじゃないから。でもやることは決まった。

 答えが分かれば私の土俵。ひたすらできるまで反復あるのみ。

 小さい頃からそういう繰り返しの作業が嫌いじゃなかった。けど、今回はただ繰り返すだけじゃ意味が無い。

 飛沫の跳ね具合を見て予測する。一回一回、丁寧に考えて魔法を撃ち出す。


 見えます。見えます。私の魔法に撃ち抜かれる未来が見えてます。

(ブゥン)


 かれこれ八時間くらい、川と向き合ってる。

 成果はまぁまぁ。


 波の大きさ、つまり時間帯によって風の強さで大きく変わってくるから動く的としてはすごく優秀。

 気になる点を一つ上げるとしたら、的が小さい。

 それから満足感が足りないのと単純にうるさい。

 あ、三つもあった。


 飛沫が的だからとにかく小さい。そして飛沫に当たった時の音が、ポチュンっだから、もっとなんていうかこうあれが。

 とにかく物足りなかった。


 木で作った的だと中心に当たったとか、少し威力が足りなかったとかがわかりやすいから目に見えて達成感がある。

 まあ、そんなものは些細な問題なんですけどね。

(クイっ)


 それで一番気になるポイントがうるさいということ。集中したいのに上手く入り込めない。

 慣れてたはずの川の轟音だったのに、今はノイズになって頭から離れない。

 これはまさに私の力不足が原因。

 魔力は自然、自然は魔力。ましてや水の精霊の血を引いてるのに情けない。


 修行の道のりは長い。


(クイクイっ)


 タオルで汗を拭きとって家に帰る。



(あ、キュロウさんだ)


 ちょうど家が見えたタイミングで、玄関前にキュロウさんがいた。


 今日も魔法受けてたのかな。あれ、ほんとに痛くないの?でも痩せ我慢で耐えられるとかのレベルの話じゃないと思う。

 どんな体してるんだろう。


 って、昨日の記憶が蘇ってきちゃったよ。うぅ…。

(ブンブン)


 頭を振って昨日の恥ずかしい記憶を抹消!



 あれ、ちゃんとした服着てる。

 半袖の黒のインナー一枚にベージュのパンツ。

 改めて見ると筋肉がすごい。一つ一つがインナーを押し上げてる。


 それに比べて私の体はのペーっとしてる。一切の凹凸が無い。くっ、お母さんはあるからまだまだこれから。まだ成長止まってないから。

 身長はお父さん譲りで村でも周りと比べたら高かった。


 まあ、気にしてないんですけどね。



 キュロウさんは私に気づかずそのまま家に入っていった。

 その後、直ぐに私も玄関のドアを開けた。



 キュロウさんがお風呂に入っているようで、私はリビングでクッキーを食べる。


「どうだった?何回か後ろから見てたけどいい感じだったじゃん」

「考え方は合ってました。

 昨日までと全く違うことをしてるので、昨日までの私と今の私の認識のすり合わせが今は必要です」

「うん。いい顔つきになってる」

「変わってます?」

 ぺたぺたと自分の顔を触って表情を確認する。


「前よりも芯のある顔になった」

「そういうのってわかるものなんですか?」

「自分で確認してみな」

 ベイクおばさんが手鏡を持ってきてくれた。


 鏡に写る私はいつもと何も変わらない。

 違うところといえば、前髪が数本、汗でおでこに張り付いてるところくらい。

 びしっと前髪を七三に整える。ふん。


「疲れて少しやつれただけじゃないですか?」

「あ、そうかもしんない。ヤハハッ!」

(クイクイっ)

 普段いじられる事が無いからこういう時の反応に困る。きっとキュロウさんとかなら軽い感じで変顔とかしてそう。

 心を落ち着かせるために眼鏡のブリッジを押し上げる。


「っふはぁ。でも見違えたのは本当だよ。

 楽しそうに魔法を撃ってたから」

「楽しそう……」

「気づかないくらいのめり込んでたんだろうね」

 魔法は使えて当たり前。私の頭の中にあるその言葉は、小さいながらに私を悩ませた。

 周りと比べて明らかに劣ってる自分をどうにかしたくて。それだけを考えて魔法の特訓をしてた。


 生まれてから魔法が楽しいものなんて思った事ない。

 だって魔法はそこに当たり前にあるものだから。


 昨日を境に変わったのは魔法だけじゃない。心も長年苛まれた劣等感から解放されてたんだ。

 魔法の上達が面白いって思うくらい、心にも余裕が生まれた。

 ここからさらにベイクおばさんみたいに魔法を自由に動かせるようになれたら。


 『魔法万年、杖一年』


 魔法の教科書の最初に書かれてる言葉で魔法の極意。

 杖は手に馴染むまで一年。魔法の研鑽は一生。


 魔法の真髄を掴もうとする者はその一生をかける必要がある。

 終わりの無い道を歩まなくてはならない。


 もしかしたら私は、その道を歩き始めたのかもしれない。




 お風呂から上がるとご飯がテーブルの上に揃えられていた。


「「「いただきます!」」」

 ベイクおばさんは私の隣に座り、キュロウさんは斜め前、ベイクおばさんの対面に座ってる。

 四人が食事できるサイズのテーブル。



「そういえばキュロウさん、新しい服ですね」

「はい。ドトナさんが作ってくれた服が結構汚れちゃってて、それを見たおじさんが洗濯させろって剥ぎ取って行きました。

 その時に使ってない服を何着かもらいました」

「確かにあれ、もうボロボロですよね」

「いやいや、まだ着れますよ。せっかくの貰い物ですから」

「私に気を使いすぎじゃないですか?

 ただ布の端を縫い合わせただけのやつですよ」

「ドトナさんと出会った時に色々あって作られた大切な思い出の物ですよ」

「そりゃ重すぎやしないか?」

「思い出は あればあるだけ いいんです」

「五七五ぉ!」

 キュロウさんの澄ましたキメ顔、テーブルに乗り上げて突っ込むベイクおばさん。


「まあ、物を大切にすることは良い事ですよね」

 そんな事を言った私のバッグには使われていない杖がたんまりと転がってる。


 この後、久しぶりに杖を磨こう。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 おじさん達の魔法を受けてわかったのは、その持続性。


 だって、ぶつかったら消えると思ってたんだ。

 火の玉を腹で受け止めたら、まさかの腹に留まるんだ。

 うおーって驚いてたら左右から一つずつ火の玉が飛んできて横腹に命中。


 ドトナさんの魔法しか知らなかったからこれには驚いた。

 パンツ一丁でやってて良かった。


 まとわりつく火の玉を両手で叩き潰してなんとかなったけど。何か他の対処法を考えないと普段は服きてるからその度に燃えるのはどうにかしたい。


 さらに物理法則を無視して奇天烈な動きで飛んできた。

 素手でやるには相手が悪い。なにか長物が欲しいんだよな。


 どこか大きな街に行けたらその時探そう。



 始まる前に「サンドバックになっても知らねえぞ」なんて言われたけどほんとにサンドバックになった。


 皮膚が厚いおかげで怪我はなかった。




 それから三日後、魔法漬けの日々を送った俺達はこの地を離れることになった。

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