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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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セシリアVSヨーコ

『二分された!』

 時を少し遡って。ヨーコは瞬時に状況を把握する。エライザの魔法によって、二対一の構図に持ち込まれたこと。そして、ユリアもまた裏切り者の一人であると特定されていること。状況は決して良いとは言い難い。それでも、ヨーコには一筋の希望が見えていた。


「副団長が出なくていいの?」

 ヨーコの前には、セシリアが一人剣を構えているだけ。エライザは後方で腕まで組んで見守っている。

「セシリア相手なら、私に負ける要素はない。朔も使えない未熟者にはね」


 ヨーコは敢えて自分が勝ちを確信していることを口にした。それはセシリアに少しでもプレッシャーを与え、隙あらばこの場から逃亡するためである。セシリアが戦いに集中すればする程、ヨーコの戦闘放棄の選択肢は望外のものに変化していく。もっとも、それを防ぐためにエライザが待機しているのは彼女も理解していたが、やらないよりはマシの精神で実行した。しかし、ヨーコの予想に反してセシリアは揺れていなかった。エリックと戦ったときはガチガチに力が入って緊張していた体が、今は平時と同じく落ち着いている。


『どうやら、前と同じなんて思わない方がよさそうね』

 エライザとの訓練で自信をつけたのだろう。ヨーコは目の前にいる少女を、全力を出して戦うに値する敵と見定めた。セシリアを倒しても、その後ろにはエライザが控えている。長引けばウツロが出てくる可能性もある。結局のところ、最初からフルスロットルが最適解だった。


 ヨーコは周囲に魔力を込め始める。それを見て、セシリアは即座に火球を打ち出す。

『速い!』

 ヨーコは剣で何とか防御するが、完全に受けきれず後退させられてしまう。


『私たちのような魔法使いは、戦うために距離が必要。でも、体術が得意でない私たちが即座に相手から離れるのは難しい』

『ならば、相手を動かせばいい』

 エライザの教えを、セシリアは忠実に守った。立ち上がりでやるべきは距離を取ることではなく、先手を取ること。適切な一撃をお見舞いすれば、相手の方から自然に離れていく。攻防一体の初手としてこれ以上のものはない。


 セシリアの狙い通り、出鼻を挫かれたヨーコは大きく距離を取る。

『セシリアの攻撃、威力も速さも段違いね。流石は魔女に教わっただけはある』

 ヨーコはセシリアの攻撃を何とかかわしながら、自身の攻めの一手について模索し始める。


『この距離で戦うのは不利。魔法の打ち合いに持ち込まれたら、次戦への魔力が持たない。ここは、一気に距離を詰めて接近戦に!』

 今まで回避に徹してきたヨーコが、今度は突然踵を返して前進してくる。しかし、セシリアに向かって三歩近づいた瞬間、ヨーコの全身に炎が燃え上がって襲ってくる。


『当然、相手が手をこまねいているのならワナを仕掛ける余裕も生まれる』

 己が優位を捨てない策を、セシリアは着々と進行していた。

 自分の魔力で炎を中和したヨーコだったが、その表情は苦悶を浮かべていた。


『セシリアとの距離は約四十メートル。この調子で罠が仕掛けてあるのなら、消火しながら進んでも無事では済まない』

 それとは別に、絶え間なく打ち込まれる火球たち。防御魔法も展開しつつ剣で対応しているが、時間が経つにつれてどんどん精度が上がってきていた。このままでは、防御魔法を展開しているだけで完全にガス欠。一矢報いることなく戦いに敗北してしまう。


『やむを得ないわね。朔"昆戴森森(こんたいしんしん)"』

 ヨーコの周囲に突如出現した木々。何もない荒野の中では決して育つことのない樹木たち。それらが日の光の力も借りず成長していく様は、何とも不思議な光景だった。しかし、それが魔法なのである。何もない場所に奇跡を起こす、不可能を可能にする力。今、その力がぶつかろうとしていた。


 セシリアは臆することなく火球を打ち込んだ。本来であれば炎にさらされたら樹木が根を上げるのが自然の摂理。しかし、魔法によってつくられた木々たちは平気の平左である。その姿は、中心にいるヨーコを守る盾のようであった。


『魔力を温存したかったから、出来れば朔は使いたくなかったんだけどね』

 ヨーコが生み出す植物は、高い魔法耐性を備えている一方で、創り出すのに膨大な魔力を必要とする。そのため、彼女は今まで局所的・最低限でしか発動させてこなかった。しかし、セシリアの手数の多い攻撃に対応するために、惜しみなく能力を解放することとなった。


『とうとうヨーコが魔力の制限を解いた。ここからが、正真正銘の全力』

 エライザの表情は何も変わらない。ただセシリアの背中をじっと見つめるのみ。

『あの朔のせいで、私の攻撃が届かなくなった。木なのに炎で燃やせないのも、かなり厄介ですね』


 こうなれば、無闇に手を出しても意味がない。セシリアは一度火球を止めた。防御面についてヨーコの朔は非常に高い性能を発揮した。では、攻撃面ではどうだろうか。こちらについては、木の根を伸ばして地中から奇襲のように戦うやり方が、現状では効果的と判断し、静かに地面の中を侵攻していた。


『タイミングを間違えれば、二度目はない攻撃法。ここで確実に仕留める!』

 木々に囲まれた中で、ヨーコは覚悟を決めていた。立派な心掛けだが、それは戦場でやるべきことではなく、戦場に立つ前に済ませておくもの。思えば、ヨーコの選択は中途半端なものだった。次戦を見据えて余力を残すためとはいえ、初めから力をセーブしたまま。時間に余裕がないと分かっていたのに、本気を出したのは打つ手がなくなってピンチになった時。そんな甘さを、セシリアはもう見逃さない。ヨーコが地中へ意識を向けている間、彼女は剣先に魔力を集中させていた。


『セシリアの聖剣イフリートの権能は、沙漏。魔力の吸収と放出を可能にするもの。当然権能を使えば、何もしなくても剣本体に魔力が蓄積されていく』

 その状態は、杖代にとってベストだった。剣を魔法に適した杖に代える。その効力が一番高まる状態を、イフリートは勝手に作り出してくれる。後はそれを最大限活かすのみ。聖剣イフリートの権能、杖代の技術、そしてセシリアの膨大な魔力。それら全てが一つになった時、彼女の体の中で何かが弾ける。全ての力を剣先に込めて、それを放つ。威力は先程の火球などと比べものにならない。


『朔"星火燎原(せいかりょうげん)"』


 心の中で、セシリアは気づかずうちに名付けを完了していた。それはあまりに自然なことで、まるで長年ずっと自分の魔法はそう呼ばれていたかの感覚だった。


 轟音とともに放たれたセシリアの朔。その一撃は、ヨーコの完全防御を見事に貫通し、彼女に致命傷を与えていた。一瞬の出来事に、ヨーコは呆気に取られる。しかし、己の体につけられた風穴に気付くと、その瞬間に自らの敗北を悟った。


『人を呪わば穴二つ。攻撃ばかりに意識が向くのは御法度だったか』

 自分の敗因を分析しながら、ヨーコは膝を折る。まだ消えていない樹木に体を預けて、静かに呼吸を始める。その一幕は深夜の荒野ではなく、木漏れ日の草原に相応しいものだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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