復讐、発覚、絶体絶命
新連載開始しました!
今日は、合計3話アップ予定です(2/3)
一応キリの良いところまでいくつもりです。
窓から飛び降り、地面に着地したウツロがまず行ったのは、人払いの汎用魔法である。これで基本的に人が寄りつかない戦没者墓地はさらに人が来なくなる。少なくとも迷い込んでとか、偶然散歩をしていてなどという人物は現れない。
そして、速やかに戦没者墓地に向かう。特に障害もなくウツロは戦没者墓地に辿り着く。今から顔も名前も縁もゆかりもない人間の墓を弄ぶ形となるため、多少の申し訳なさはある。眠っている彼らだって、まさか敵国のスパイに死んでまで利用されるとはと思うはずないだろうが、そこは死人に口無し。ウツロは容赦なくその尊厳も踏み荒らす。これも己が任務のためである。
ウツロが墓に足を踏み入れようとしたとき、ふとどこからか視線を感じる。念入りに人の目は避けたはずなのに、どういうことだ? その疑問は振り返ってすぐに氷解する。白銀の毛並みをした大狼が、ゆっくりとこちらに向かって静かに歩いてきていたのだ。ウツロはその美しい毛並みに見覚えがあった。リトガルトで自分が最後に獲ったあの狼にそっくりである。しかし、体の大きさは目の前の狼の方が明らかに大きい。ウツロの目測では体長は七メートルといったところである。
「なるほど、あの狼の親ってわけか」
ウツロは目の前の獲物について考える。リトガルトからサンセベリアの帝都まで、どうやって自分を追って来たのか。同胞、いや子の匂いを辿れば不可能な芸当ではない。それにしても、その執念が凄まじい。単なる山越えではなく、国境も超えているのだ。その間人間に見つからずひっそりと尾けてきて、尚且つ追いついた。
単なる敵討ちのためだけにここまでするとは。ただの獣ではあるまい。これは魔獣の域である。通常獣には、魔力器官は存在しない。だが、稀にそれを持ち、魔力を行使して高い身体能力を発揮する個体がこの世界には存在する。それを人は魔獣と呼ぶ。ウツロは警戒度を上げる。
「わざわざご苦労なことで。まさかこんなところまで俺が来るとは思ってなかっただろうに」
魔獣は知能も高く人語も理解できるというのが定説である。しかし皮肉を投げかけても、大狼はびくともしない。思えばウツロに近づいてくるときも決して悟られぬように気配を殺していた。
本来であれば、自分の子どもを殺した相手だ。普通の獣ならほとばしるほどの殺意を抑えられず、勢いのままに飛びかかってしまうだろう。だか、この大狼はそうではない。ただ目の前の敵をどう倒すのか。混じり気のない目をしながらそれだけを考えている。
「そこまで本気で向かってくるとはな。ならばこちらも戦士として全力を尽くさなければ非礼に当たる」
ウツロは槍を構え、心臓に炎を灯す。ただの獣としてではなく、相手を一介の復讐者、いや戦士として認めたのだ。そして礼節を持ってそれを打ち砕く。これがリトガルトの戦いの作法である。
そこからは二人の間に静かな時間が流れた。元々誰もいない墓地、彼らを邪魔するものは何もない。ただ時間だけがゆっくりと進んでいく。二人は互いに間合いの外からジリジリと睨み合いを続ける。
どれほど経ったのだろうか、動いたのは大狼。先の先を取るべく勢いよく飛び込みながら右前脚を繰り出す。これが彼の持つ魔力がこもった最速の攻撃である。
しかし、その瞬間をウツロは待っていた。槍の石突を左手で握り締め、目一杯腕を伸ばす。対の先で大狼の攻撃よりもさらに遠い位置からカウンターで槍を心臓に一突き。見事正中線を捉え、大狼は動きを止める。
このまま進めば、その勢いで槍が体を貫くことが分かっているからである。その様子を見て、ウツロは一歩前に踏み出す。戦士として、敬意を持って相手に止めを刺す。これもまた戦いの礼節である。大狼はその一撃で膝を折って地面に倒れ込む。その姿を眺めるのはウツロと月だけ。
『まさかただの獣がここまで誇り高いとはな。戦いの何たるかをよく知っている。少なくとも、サンセベリアの騎士なんかよりもよっぽど分かっている』
ウツロは膝をつき、大狼の顔に手を当てる。その死に顔は、誉れ高い立派なものだった。
「感謝と流転をここに」
彼が唱えたのは祖国の祈り。まさか帝国で口にするとは思ってもいなかった。
さて、この大狼をどうするかという新たな問題は発生したが、これでようやく本来の目的に戻れる。ウツロは立ち上がり、再び墓の方へ歩き出そうとする。
しかし、目の端で異様な光景を捉える。
そこにあるはずのない人の影があったのだ。
今の姿を見られるのは非常にまずい。なぜなら、己の身元が唯一辿られるおそれのある聖槍を手にしているから。国を上げて取り組んだ初めての潜入任務が、まさかの初日で失敗。笑い話にもならない事態だ。
ウツロはゆっくりと人影の方を振り向く。そこには、金髪の少女 セシリア・アルフグレットが立っていた。ヌベンセで出会ったあの少女である。
『見られた』
その事実を、ウツロは冷静に把握した。
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