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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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知りたがりと治したがり

「ウツロ、本当に団長と何やってるの?」

 訓練場での手合わせの間、ヨーコは同じ質問を何度も繰り返していた。

「俺の様子に変化でもあったか?」

 ヨーコは首を大きく横に振る。既にこの質問を幾度も投げかけられているため、ウツロは辟易していた。


「何にも! 進歩が全く見えない」

 ヨーコの感想は当然だった。ウツロはあの夜の穴蔵以外で、団長に教わった"閂"を使ったことがない。団長の意向と、そもそも必要な場面が来ていないからである。


「なら、そういうことなんじゃないのか」

 ヨーコは目付きを鋭くする。

「そう言ってまたはぐらかすー! ケチ、教えてくれてもいいじゃん」

 ヨーコは頬を膨らませ、そっぽを向いてしまう。


「俺でなく、団長に聞きな」

「もうやってる。でも、全然取り合ってくれないの。"お前にはまだ早い"って」

「まあ、俺より弱いしな」

 ウツロはヨーコを鼻で笑う。その態度に、ヨーコはさらに腹を立てる。


「あー、言ったな? とうとう言ったな? 薄々気付いていたけど、年下にマウント取られるの悔しいから黙ってたのに、この大木野郎!」

 ヨーコは胸倉を掴み、必死に上目遣いで睨みつける。

「ヨーコさん、騒がしいですよ」

 訓練場の隅で待機していたユリアが一声言い放つ。


「でも、ウツロが——」

「あなたは年上のお姉さんですよ。ほら、良い子良い子」

 ユリアはすかさずヨーコの頭に腕を回して、抱擁した。胸に無理やりうずめられながら、頭を撫でられてると、ヨーコは少しずつ穏やかな表情に変わっていく。


「……ちょっと外の空気吸ってくるー」

 いつもの調子を取り戻すと、ヨーコはヒョコヒョコ訓練場を後にした。

「アンタ、腕が立つね」

 一連の様子を見て、ウツロは感心していた。


「ヨーコさんは、根は甘えたがり屋さんですから。あのくらいがちょうどいいんです」

「そこもすごいが、アンタの魔法だよ。ヨーコに全く悟られないように、精神魔法をかけていた」

 ウツロの指摘に、ユリアは片眉を微妙に上げる。


「……ウツロさんも、やるみたいですね。一応、私もシスターですから」

 回復士の仕事は、傷を治すだけでなく精神安定など広い範囲に渡っている。元々教会のシスターなどの専門職であったため、このような体系になると考えられていた。現代では、厳しい修練の末にシスターなどの階級が与えられるため、上級回復士よりも実力は上と位置付けれる。


「もっとも、聖女様なんかの足元にも及びませんが。ところで、ウツロさんもどうです? 小さな擦り傷や軽い倦怠感でも治せますよ。いや、いっそのこと気分を上げる魔法でもかけましょうか?」

 徐々に歩み寄ってくるユリアに、ウツロは冷静に距離を取る。


「仕事熱心なのは見習いたいが、いたって健康なので遠慮しておくよ」

「ウツロさん、いつもそう言いますよね? 慣れない土地ではさぞかし疲れもたまるでしょ? まだ基地に来てから一度も治療魔法を受けてないんですし、この機会にどうです?」

 ウツロは上手く背面の壁から切り返し、ユリアの包囲網から抜け出す。


「必要になったら、こっちから言うさ」

 ウツロは逃げるように、訓練場を飛び出した。背後では、大きなため息が響いた。


   ~~~~


「この基地って、もしかして変わり者しかいない?」

 エリックとルカウと風呂場で汗を流している時、ウツロはこう切り出す。

「個性だろ、個性。というか誰のことを言ってるんだ?」

「知りたがりと、治したがり」

「ああ、ヨーコとユリアのことか」

 これで通じる辺り、個性の範疇を逸脱しているのでは? ウツロは一人訝しんだ。


「別にいいだろ。片や好奇心旺盛、片や潔癖なまでの心配症。美人に詰め寄られるなら、お前だって嫌な気持ちしないだろ?」

 ルカウの言葉に、夢路は首を傾げて唸り出す。彼にとっては、全く天秤が釣り合ってない二つの事柄だからである。


「それより、お前昨日セシリアとデート行ったんだってな? 水臭いなぁ、そういう面白いことはこの頼れるお兄さんに相談しなさいよ」

 突然饒舌になったルカウに、ウツロはすぐさま湯船に逃げ込む。しかし、追尾弾のようにルカウはその後ろをついてきた。


「俺はお前のような兄を持った覚えはない」

「そう邪険にしないでくれよ。こんな女っ気なんてない場所に、突如咲いた一輪の花。気になるなという方が無茶な話だ」

 ルカウは目を輝かせて、ウツロの横顔を見つめる。


「特に何も。セシリアのリクエストで美術館に行っただけだ」

「あの右手の中指にはめられた指輪が? 前付けていたものとデザインがずいぶん違う」

 よく見ている男だ。ウツロは一つため息をつく。

「帰りに買っただけだ。綺麗だったからな」

「へえ、ウツロが選んだのかぁ」

 ニヤつきが声で分かるのが余計腹立たしい。ウツロは固く口を閉ざしてしまう。


「いいなぁ、俺らみたいな騎士学校行っていない組は、パートナーなんて甘い関係知らないんだ。青春だねぇ」

「パートナーは、騎士団では採用されてないのか?」

「お前、俺たちがなんて呼ばれてる?」

 三馬鹿、どう考えても奇数である。ルカウの言葉に、エリックが続ける。


「小隊で行動する時、多数決で割れると困るだろ? 中央の貴族連中は、偶数で戦っているが、他じゃそんなことしてない」

 団として、理に適っている話である。


「でも、堂々と方針破っていいのか?」

「やつらが視察くる時だけ変えてる。普段は一度も使ったことがない。俺たちは、団長の人形のおかげで、抜き打ちにも引っかからないし」

 騎士団といえど、一枚岩ではない。貴族とそれ以外の分断は、決して浅くないのだとウツロは改めて思い知った。


「ちなみに、その時は誰とパートナーを?」

「俺はヨーコ、ルカウはユリアとだな」

「新鮮さのカケラもない」

 あまりにもいつものメンバー過ぎる。


「付き合い長いからな。エリックは、入隊がヨーコとほとんど同じ時期だろ?」

「そうだな。下っ端の頃から何かとケンカしてきた」

 肩まで湯に浸かって、エリックは天井を眺める。

「そういう雰囲気にはならないのか?」

 ウツロは攻勢に出る判断をした。


「ない。俺は逐一回復してるくれるから有難いけど」

「俺も……そういう相手じゃないな。なぜなぜうるさいだけだ」

 即答のルカウ、小考のエリック。二人の違いをウツロは決して見逃さなかった。その瞬間、ウツロは昨日見た不思議な光景を思い出す。


「そういや、昨日ルカウとヨーコを森で見かけたけど、あれは何なんだ?」

「昨日? お前たち行ったの、国際美術館だろ? あんな辺鄙なところ近づいてない。それに、ヨーコと一緒に外に出てないけどな」

 ルカウはしきりに首を傾げる。


『中々の名演技だな』

 エリックは、彼の真意。インナーミッションの成就のための誤魔化しだと即座に理解する。

「……そうか。なら勘違いだな」

 質問した当人も答えた側も、同じように不思議そうに首を曲げていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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