プレゼント
「色々と勉強になりましたね」
美術館からの帰り道。セシリアは満足気な顔を浮かべていた。
「それはそうだけど、休日としてはあまり出来は良くないな」
結局この日は、美術館巡りにほとんどの時間を割いてしまった。ウツロは少し残念そうな顔をする。
「他の場所はまた今度、それでいいじゃないですか。楽しいことは先延ばしにしても苦にはなりませんよ」
セシリアは鼻唄混じりで上機嫌だった。
「そういや、水着の出番って結局あるのか?」
マイオレに来る前の唯一の買い物。使わずに終わったらもったいないとでも思ったのだろうか。
「エライザさんに聞きましたけど、ちょっと時期が早いとのことです。七月になれば、泳げるビーチもあるって」
ならば、あの買い物は結局無駄になってしまったのか。ウツロは人知れず心の中でぼやく。
「夏休みになったら遊びに来ましょうね。みんなも連れて」
これもまた、楽しみの先延ばしなのだろう。ウツロは無意識に目を閉じて頷いていた。辺りも少しずつ暗くなりかけ、街もどんどん活気付いてくる。ウツロはふと露天の店に目がいく。そこで扱っているアクセサリーが不思議に思ったからだ。青と白が混じり合ったような、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる美しい色合い。気付けばそこで足を止めていた。
「ウツロ、どうしたんですか?」
「綺麗だと思ってな」
きょとんとした顔から、セシリアは状況を理解するのに三秒かかった。
「ああ、アクセサリーの方ですね。これは、"花房"ですか?」
店員はセシリアの言葉に頷く。
「お嬢ちゃん、博識だね。暗闇の中で青く輝く珍しい宝石。兄ちゃん、気に入ったのなら買ってきなよ。二つセットで安くしておくから」
普段はこの手の売り文句は意にも介さないウツロだったが、今日ばかりは魅力的に聞こえた。迷わず購入して、早速片方をセシリアに渡した。
「いいんですか、もらっても?」
「気に入ってもらえるのなら」
セシリアは指にはめ、月光に照らしてうれしそうに微笑んでいる。その様子を見て、ウツロはこの宝石に惹かれた意味を理解した。
『そうか、こいつは俺の瞳にそっくりだ』
サンセベリアでは誰にも見せることはない本来の青い瞳。ウツロは自然と自分に似たものを選んでいたのだ。
「それが、はじめてのプレゼントかな」
「前に魔道具の指輪を貰いましたよ?」
「あれはあくまで俺も貰い物だからな。こうして実際に買ったそっちの方が、値打ちあるだろ?」
実際、娼婦から貰ったなどと言ったらとんでもないことになる。成り行きとはいえ、恐ろしいことをしてしまったと、ウツロは今でも後悔していた。
『便利なものではあるんだけどな』
ウツロの言葉を聞いて、セシリアは中指にはめていた指輪を付け替える。
「なら、今日からはこっちにしますね。ウツロの正真正銘のプレゼントですから!」
これでウツロの不安も、ようやく解決される。安堵の笑みを浮かべて、同じように自分も青い指輪をはめる。
「こっちの魔道具もちゃんと大事にしますからね」
道具に罪はないので、そうしてもらえると助かります。本音をしまったまま、ウツロは頷いた。
「じゃあ、遅くならないうちに帰りましょうか」
二人はマイオレへの帰路に着く。しかし、その途中でウツロは妙なものを目にする。ほんの一瞬だったが、視界の端で捉えた光景。夜が深くなっていく森の中を駆ける知り合い二人。
「今、ヨーコとルカウが通っていったな」
「え? どこですか?」
ウツロは指を向けようとしたが、すでに二人の影すらない。
「でも、不思議ですね。基地とはかなり距離がありますよ」
セシリアの言う通り、散歩などで来る場所ではない。
『何か基地であったのか?』
ウツロの中に、疑問が生まれた瞬間だった。
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