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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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敵はすでに中に入っています

「そういや、あっちはあっちで順調らしいぞ」

 夜の穴蔵で、ウツロと団長は静かに修行を行なっていた。


「セシリアから話は聞いてるよ。何でも、珍しい技術を学んだとか」

「パートナーなら、そのうち嫌でも知ることになるだろ。今は楽しみに待っていな。それにしても、あいつもアレを他人に教えるとは。人間、変わるもんだなぁ」

 天井を見上げて、団長は黙り込む。


「何一人で浸ってんだ。技術ってのは、教えるやつと教わるやつがいればどこでも引き継がれていくものだろ?」

 団長はウツロの言葉を一蹴する。


「青いねぇ、ウツロ。世の中そんなに簡単じゃないさ。一子相伝・自分の一族のみに教える技術なんてものは、要するに血統重視。資質なんて二の次って話だから、教わりたくても教えてもらえないことはたくさんいる。サンセベリアは、歴史の長い国だからな。あちらこちらで似たようなことが起こりやがる」

 帝都も地方も変わらない。真なる後継者とは、中々巡り会えないものである。


「もっとも、そういうのにずっと拘ってる技術から廃れていくんだけどな」

 団長の笑いは、どこか皮肉めいていた。

「それでよ。とりあえず当初の予定は達成したけど、この後は?」

 二人の足元には、傷一つない土人形が転がっていた。ウツロは話しながらも、団長が出した三十体の人形の核のみを砕くという課題をクリアしていた。


「やるじゃねえか。大して集中せずとも、当然のように成功させる。おまけにほとんど音も立ててない。期待以上の出来だ」

『まさか、一週間そこらでここまでくるとはな』

 団長は、内心寒気がした。ウツロを実力者だと見込んではいたが、この実習中にはせいぜい基礎止まり。とてもじゃないが応用に移ることにはならないと思っていた。しかし、目の前の男はそのハードルをあっさりと飛び越えてきた。


「ウツロ、明日からは槍を持って来い。実戦編に入る」

「了解。今日はどうするんだ?」

 権能を使えば、すぐにでも槍は手元に持ってこれる。ウツロは団長の言葉を待った。


「今日はもう上がっていいぞ。それと、明日非番な」

 ウツロは首を傾げる。

「どうした、いきなり」

 現場実習も半分を経過した頃だが、今まで一日たりとも休みは与えられなかった。セシリアの方は、エライザが定期的に休ませていたみたいだが、ウツロは昼も夜も普通に活動を要求されていた。そこに不満はなかったが、いきなりの変容に不信感を覚える。


「大した意味はない。セシリアも明日は休みらしいから、二人で街にでも出掛けな」

 穴蔵から追い出されるように、ウツロは部屋に返される。日付も変わってないうちに返ってくるのは、修行が始まってからはじめてだった。


「おかえりなさい。今日は早いですね」

「明日休みだからさっさと寝ろってよ」

 セシリアは読んでいた本を閉じて机に置く。

「ウツロ、だったら出かけませんか? 私行きたいところがあって!」

 目を輝かせる少女に、男は笑って頷いた。


 翌朝、二人は朝早くにマイオレ基地を出発した。ウツロは三馬鹿に見つかりたくないから、セシリアは時間を目一杯使いたいから。奇しくも両者の要望が一致した瞬間だった。

「それでセシリア、行きたい場所ってどこ?」

「国立国際美術館です!」

 セシリアは元気一杯に、ウツロの顔の前に地図を差し出す。


「郊外にあるので、少し歩くことになるのですが大丈夫ですか?」 

 ウツロは眉をしかめる。それは目的地が遠いからではない。ウツロには芸術が分からぬ。自分から歩み寄ることもなければ、あちらから歩み寄ってくることもない。互いの距離が縮まることは、彼の人生においてこれまで一度もなかった。当然、美術館など行ったこともなく、楽しめるビジョンも湧いてこない。黙り込むウツロの顔を見て、セシリアは少しうつむき話始める。


「もしかして嫌、でしたか?」

 か弱い子羊ようなか細い声。こんなものを聞いてしまったら断るに断れない。

「いいや。この間パトロールに行ったときに、賊が出た辺りだなと思ってな」

「そうでしたか。やっぱり最近マイオレは物騒なんですね」

 胸を撫で下ろすセシリアを見て、ウツロも心の中で動きをトレースする。


「港がある分、余計なのが入ってきやすいんだろう。戦争に負けて、騎士団も疲弊しているからやりたい放題。そんな風に思うやつらも大勢いるしな」

 パトロールの一環で、ウツロも捕縛後の業務を覗いたことがある。海賊であれ山賊であれ、皆一様に今が狙い目、という趣旨の発言をしていた。


「戦地から離れたマイオレには、ほとんど影響はないはずなんですけどね」

 セシリアの言う通り、マイオレ基地の兵はほとんど前線に駆り出されることはなかった。リトガルトと戦っているせいで、他の国境の警備が疎かになるなどということになれば本末転倒である。漁夫の利で国が滅びるなんて笑えない話。距離の観点だけでなく、国全体の国防を鑑みての方針ゆえ、平定戦争にマイオレ基地は不参加といっても差し支えなかった。


「そんなことも知らないバカのせいで、こっちは火の車なんて笑えないぜ」

「兵力十分なマイオレだから保ってますけど、兵力が足りていない基地だと、大変な騒ぎだったでしょうね」

 そんなことになれば、基地の陥落や制圧、果ては占領まであり得る。


「俺たちもノコノコ現場実習なんてやってられないだろうな」

「本当ですね。私たちは、良い基地に来れました。みなさん優しいですし、何よりエライザさんには感謝してもしきれません。毎日付きっきりで指導してくれているんですから」

「あの人、ちゃんと働いているのか?」

 セシリアの話を聞く限り、業務に勤しむ姿をウツロは想像できない。


「副団長は暇だから、と。団長が健在なうちはやることないっておっしゃってました」

「やっぱりあの団長、団員からナメられてるよな?」

 ますますウツロの疑念が確信に変わっていく。

『マイオレ基地って、組織として大丈夫なのか?』

 そして、さらなる疑惑へと誘われていく。


   ~~~~


「全員集まったな」

 ウツロとセシリアがいない基地。司令室に五人の団員が一堂に会していた。団長と副団長、そして三馬鹿。


「こんな朝っぱらからどうしたんだ、団長?」

「というか、ウツロとセシリア見てないけどどこ行ったか知ってる?」

「知らんけど、デートだろ」

 三者三様の反応に、副団長がため息をつく。


「三人とも、これから真面目な話をするわよ」

 真面目な話、と聞いて三人もようやく気を引き締める。

「本来なら、この部屋に入ってきた時点でそんな顔をしていてくれ」

 嫌味とともに団長は一つ咳払いをする。


「今日集めた理由だが、基地の防衛について伝えておきたいことがある。最近敗戦を契機とみて、賊の侵入が海からも山からも活発になってるのは知ってるな?」

「もちろん。私たちが一番対応してるんだもん」

「後、ウツロもな」

 ヨーコとルカウはどんなときでもこんな調子らしい。


「数が多くて煩わしいが、いくら増えても雑魚は雑魚。大したことないけどな」

「そう。エリックの言う通り、賊のレベルは低い。うちの団員なら問題なく倒せるのは言うまでもない。何なら、俺の人形だけでも、制圧は容易だろう」

 団長の言葉に、ヨーコは苦笑する。


「そりゃ団長の人形、一体でもそこそこ強いし。おまけに基本まとまって動いてるんだから、気付けば囲まれてボコボコでしょ」

「一体見たら、虫みたいにワラワラ湧いてくるもんな」

 ルカウとヨーコは顔を見合わせて笑い出す。それを一喝するかのように団長は切り出す。


「ところがだ。二日前から俺の人形が壊されまくっている。外周に配置したものから順番にな」

「そいつはまた、丁寧なことで」

 団長の言葉に、エリックは精一杯の軽口を返す。


「じゃあ、今は街の警備ちょっと足りてないの?」

「代わりに人間の団員を配置してる。人形も回したいところだが、敵が手練れならまた壊されるだけだろうからな」

 事の重大さを、皆が徐々に共有していく。それに伴って、空気も重くなる。


「しかも端から順にってことは、敵は組織的に動いている可能性が高いのか」

「ルカウ、何呑気なこと言ってんだ」

 エリックの言葉に、当人は首を傾げる。

「なんで敵は、人形の配置を知ってるんだ?」

「マジかよ……」

 ルカウは絶句してしまう。


「エリックの指摘通り、今回の敵は何らかの方法で基地の情報にアクセスしている。そして、俺の人形の配置は、ごく一部の人間しか知らない。ちょうどここにいる五人だけだ」

 ヨーコは固唾を呑む。

「それって、つまり私たちの中に裏切り者がいるってこと?」

 その場の緊張がさらに高まる。


「落ち着け。敵が正団員になりすまして基地に侵入し、配置情報を盗み取った可能性もある。俺がこの場で伝えたかったのは、今回の敵は恐ろしく厄介ということだ。何せ身内の中に敵がいるのがほぼ確定。それが、この中にもいるかもしれないのだから」

 ここまで口を開くことのなかった副団長が動く。


「でも、その可能性は限りなくゼロと私たちは判断した。だからこうして今話してるの。あなたたち三人には、これから内通者探しを任せたいわ。あくまで、極秘任務ということを心がけるように」

 三馬鹿はそれぞれの顔を見合う。いくら実戦の経験があるとはいえ、インナーミッションは初めて。肩に力が入っているのが丸わかりだった。


「お前たち三人を選んだのは、信用できるからだ。身元も実力も、申し分ない。頼むよ」

 最後に眼鏡をかけた団長を見て、三人はいつもの呼吸を取り戻す。勢いよく敬礼を返すと、そのまま司令室を後にしていった。

『締めるときはちゃんとしてくれるのよね』

 副団長は団長の横顔をただ眺めていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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