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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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 それから日々は矢の如く過ぎ去った。三日も経てば、二人はマイオレの生活に慣れていく。セシリアは日中穴蔵でエライザからの指導を受け、メキメキと力をつけていた。


「セシリア、今日はどうだった?」

 ウツロは寝る前にこう尋ねるのがもはや日課になっている。この質問に対して、セシリアは饒舌に語ってくれた。今日は何を教わり、何が出来るようになったのか、今後の課題は何であるか等。受けていないはずのウツロも、エライザの教えの半分くらいは理解できるほどに。ウツロも、魔法に関してはやはり苦手分野という意識があるため、セシリアにこうした形でフォローが入るのは何よりもありがたかった。


 一方で、ウツロには一つ悩みがあった。誰にも言うことはなかったが、ずっと前から思っていること。そのことが頭から離れないため妙に寝れない日々が続いていた。


 ある日、ウツロは真夜中に部屋を出て基地の屋上に向かう。夜空には満月が浮かんでいた。それをただ黙って眺めること数分。

「どうした、こんなところで」

 気付けば、団長も屋上に姿を見せていた。ウツロの隣まで移動して、同じように月を眺める。


「ここでの暮らしはどうだ?」

「悪くはないんじゃないの」

 ウツロは肩肘張らずに返す。


「お前たち二人の適応っぷりには驚かされるけどな。特にセシリアだ、まさかエライザがあんなに溺愛するとは。気張って副団長やってくれてたはずなのに、今じゃ飯も風呂まで一緒じゃねえか」

 立場上、平の団員たちとは一歩距離を置くべきであるはずなのに、この豹変っぷり。団長は心底驚いていた。


「セシリアはそういう人間さ。決して敵をつくらない。俺には真似できない」

「魔性の女だねぇ。俺は絆されないように近づかないどこ」

 二人はまだ月を見上げている。


「セシリアのことは、感謝してるよ。目に見えて強くなってる。これじゃあもうじき朔になる日も違いかもな」

「そうだな、セシリアは順調だ。ところで、お前さんの方はどうだ? 現場実習楽しんでるか?」

 この点が、ウツロの目下最大の悩みであった。実習が始まってもう一週間が経過したが、ウツロは日中パトロールに出るだけで何も学ぶことはなかった。そもそも実際に事件が対応しても、同行しているエリックたちで十分事足りる。


「全然。何にも得るものなくこのまま終わっちまいそうだ。セシリアは、あんなに毎日目を輝かせて頑張ってるっていうのに。俺の方は干からびてるだけ。パートナーとして、申し訳なくなってくるよ」

『申し訳ない、か』

 ウツロの口から意外な言葉が飛び出した。団長はそのことに目を丸くする。


「やっぱり、お前たちは不思議なパートナーだな。実力でいえばウツロの方が上。かといって、主導権を持っているかというとそうでもない。抜き身の剣には、立派な鞘が付いていた」

 ウツロは何も返事をしない。


「エリックと戦った時、俺はお前を壊すことしか知らない人種だと思っていた。正直今でもその評価は変わってない。だが、セシリアが隣にいるなら話は別かもしれんな」

 団長は月から視線を外し、踵を返す。


「ウツロ、ついて来い。俺からお前に"とっておき"を教えてやる」

 ウツロは黙ってその後を追った。二人が移動した先は穴蔵。日中セシリアとエライザが使っているこの場所も、草木も眠るこの時間には人の影がない。


「ここなら誰にも覗き見されることはない。安心して全力を出しな」

「それで、こんなところで一体何を教えてくれるんだ?」

 ウツロは団長のとっておきが待ちきれない。


「その前に、だ。ウツロ、お前自分の弱点は理解しているか?」

「何個かあるな」

 ウツロは即答した。

「なるほど、何個か。その中で、俺が特に気になったものが一つある。エリックとの戦いで、お前は青い炎を纏う朔を使った。あれは、魔力を無効化するものだな?」

 誤魔化しても仕方ないので、ウツロは頷く。


「ということは、だ。お前は魔力由来のものには滅法強い。全部あの炎で解決できるからだ。一方で、あの炎は魔力にしか効果がない。エリックの体から一切焼けた臭いがしなかったのがその証拠」

 あの一回の戦闘でここまで見られているとは。ウツロは目の前の男への警戒度を無意識に上げる。


「そうなると、純粋に火力が求められる場面でお前は手詰まる可能性が非常に高い。具体的には、強固な鎧や頑丈な盾を前にして、地力だけで突破しなければならないというケースだな」

 この点に関しては、ウツロも反論はない。


「まあ、そういう場面に出会ってもいいように、お前は魔力操作や体術を重点的に鍛えてるんだろうけどな。だが、人間本当の窮地ってのは、思いもよらない場面でやってくる。お前のその肉体と槍で、突破できない壁が現れたら。壊すことしか能のないお前は、一体どうする?」

 この問いに、ウツロは明確な回答を持っていない。強いていえば何とか頑張る、くらいなものだ。


「そこで、だ。お前に今から技術を一つ授ける。俺の故郷に伝わる"(かんぬき)"という技だ」

 聞き覚えのない未知の技術。ウツロの心が躍り出す。団長はまず地面に手を置く。すると、地面から土人形が一体生えてきた。顔のないのっぺらぼうで、色合い的にもデッサン人形を連想させる、命なき人間。


「こいつは、俺の魔法で作った人形だ。普通に戦ってもそこそこ強いが、今は置いておこう」

「耐久度が高いのか?」

 先程の流れからするとそうなる。

「いいや。こいつは体内に核があって、それが壊れるまで動き続けるが、特段硬いわけでもない」

「じゃあ、どうして出した? 魔法自慢か?」

 ウツロの煽りを、団長は鼻で笑う。


「お前にはこれから、こいつの表面に一切傷を付けずに体内の核を破壊してもらう」

「……何言ってんだ?」

 ウツロは即座に聞き返す。意味が理解できなかったのではなく、不可能だと思ったからである。


「いくら外表が硬くても、内部までもそういうわけにはいかない。柔と剛が両立しなければ生きられない、それが生物の宿命ってやつだ」

「閂ってのは、そういう技術ってわけか」

 ウツロは目の前の難問に、首を傾げる。


「理解が早くて助かる。鎧通しは出来るか? ならすぐに覚えられるさ」

 さぁ、というような表情の団長に、ウツロは苦言を返す。

「団長よ、その閂って技は鎧通しとはわけが違うだろ? あれは原理的には衝撃の波紋を体内に流すって技だが、思いっきり表層にもダメージは入る」

「ご名答。鎧通しはあくまで衝撃の余波を体内に響かせる技。一方で、閂は端から体内へ百パーセントのダメージを通す技だ」


 ウツロは大きくため息をつく。以前聖剣対策に彼が繰り出していた、相手の剣を伝って振動を体に与える技は、鎧通しの変形。そのため、鎧通しはウツロはすでに習得済みである。しかし、

「求められるレベルが、別次元だろ」

 これが率直な感想だった。


「仕方ない。まずは一度見ておけ」

 団長は人形の前に立って、拳を構える。そしてその腹部に向かって右拳を向ける。拳が当たる直前、寸止めの格好で体が停止する。その瞬間、人形は内側からヒビが入り、地面へ崩れ落ちた。


「鎧通しと違って、こいつは相手に触れる必要がない。それも一つ大きな特徴だな」

『これ、魔法使わずにやるのかよ』

 ウツロは右手で額を押さえる。目の前で予測していたあり得ない光景を見せられてしまったからだ。魔力操作で、相手の魔力と波長を合わせることが出来れば、似たようなことは可能かもしれない。しかし、魔力の波長なんて生まれによって大きく左右されるものであり、そもそも人形相手ではそれは不可能。


「閂を覚えたら、普通の一撃にも乗せられるようになるから、威力アップにも繋がる。覚えて損はないさ」

「まあ、せっかく教えてもらえるのなら頼む」

 ウツロはまだ半信半疑であるが、団長の顔を見る。


「何、まだ二週間もある。その間に身につけられるさ」

 男の笑い声が一つだけ、夜の穴蔵に響いた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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