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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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魔法使いの戦い方

 翌朝、ウツロとセシリアは司令室へ呼び出される。中では団長と副団長のエライザが待っていた。

「二人とも、昨日はよく眠れたかい?」

「はい、疲れもすっかり取れました」

 ウツロは小さく頷くだけ。


「では、早速本題に入るね。二人の現場実習の内容が決まったから、今伝えさせてもらう。まずセシリアは、エライザに同行に同行して。しっかり彼女の言うことを聞いて色々学んでね」

 よろしく、とエライザは手を挙げる。


「ウツロについては、騎士に帯同して実際の仕事に協力してもらう。戦力として期待しているから頼むよ。騎士の方はすでに外で待たせてあるから」

 団長からの命令に、二人は元気よく返事をする。ウツロは基地の出入り口へ、セシリアはエライザの所へ向かう。


「ウツロ、お互い頑張りましょうね!」

 一足先に部屋を出るパートナーを、セシリアは笑って送り出した。

「それじゃあ、セシリア。まずこの一ヶ月の目標について、私の方から一つ」

 セシリアはエライザの顔を真っ直ぐ見つめる。

「あなたの"朔"を身につけましょう」


   ~~~~


 司令室を出て、ウツロが建物の外へ行くと見知った顔が三人。エリック、ルカウ、ヨーコの三馬鹿である。

「やっと来たか、ウツロ」

 待ちくたびれた、という顔の三人をウツロは笑い飛ばす。


「今日から四馬鹿でやっていくのに、ずいぶんな挨拶だな。それで、お前らについてけって言われたが、何やるんだ?」

「今日は外回り。ウチは結構持ち場が広いから大変だよー」

 ヨーコの言葉は、営業マンのセリフでも成立しそうだ。


「マイオレは、港ということで海の印象が強いだろうが、山道もたくさんある。水陸両方で、商業的価値の大きい街だ。そのせいで、ウツロが経験したように山賊なんかも普通に出る」

 海も山も両方味わえる。ルカウの言葉を好意的に捉えれば、現場実習としてこれ以上ない立地なのかもしれない。


「最近物騒だしねー。海からも山からも、危ない奴らがやって来てるし」

「ウチは団長がいる分、まだ大丈夫だろ。それに、今日からは頼もしい助っ人もいるんだから」

 ルカウはウツロの背中を叩く。


「まあ、先輩方の仕事から勉強させてもらいますよ」

 ウツロの皮肉に、二人の騎士は笑っていた。

「お前ら、そろそろ無駄話も終わりだ」

 馬の準備を黙々としていたエリックの一声で、三人が騎乗する。ウツロも迷わず、左肩から足を跨がせる。


「馬の乗り方なんて、初歩的な話はしなくてよさそうだな」

 全員の様子を確認してから、エリックが先頭を走り出す。

「意外と貴族はすんなり乗れるのに、平民だと乗れないってパターンが多いんだけどね。さては山育ちだな?」

 横を走るヨーコがウツロの顔を覗き込む。


「前見てなくていいのか? 振り落とされるぞ」

 ウツロはにべもなく返す。

「逆に海が苦手っていう件は勘弁な。先頭のリーダーさんみたいに」

 ルカウは前を向いていたが、声から笑っているのが伝わってくる。


「エリックは泳げないのか?」

「いや、船酔いがすごい。船上の任務は全部断ってる」

「マイオレでそれじゃあ、半人前だよ」

「うるせぇ! 他でカバーしようと頑張ってるだろうが」

 騎士への同行は、和やかに。そして平和に続いていった。

『何かなぁ』

 ウツロは一人退屈そうに天を仰いだ。


   ~~~~


 エライザの一言に、セシリアは目を丸くする。

「とりあえず、場所を変えましょうか」


 軽やかな足取りのエライザに、セシリアは困惑しながらついていく。長い廊下を進み、地下へと続く階段を降りる。そして連れて行かれた先は、何もない開かれた空間。一見すると広々とした解放感があるように思えるが、窓がないため完全に閉じている。一体これから何が始まるのか、セシリアの心中は好奇の感情が勝っていた。


「ここは"穴蔵"。許可ある者しか立ち入りが許されてないエリアで、機密を扱う際などに使用するところよ」

「それで、ここで何をするんですか?」

 エライザは、笑って答える。


「秘密の特訓♪ とりあえず、今日は"開栓"といきましょう」

「開栓?」

 セシリアは首を傾げる。


「セシリア、あなたは今までウツロに多くのレクチャーを受けて戦闘スタイルを確立してきたでしょ?」

 セシリアは頷く。


「確かに、彼は強い。言うことも何も間違っていない。しかし、最適ではない。セシリアにとってはね」

「私にとって、最適ではない……」

 セシリアは入学からこれまでの日々を振り返る。そして、馬車でのウツロとの会話を思い出す。


「彼は体術や魔力操作は抜群で、そういったフィジカル面でのアドバイスはいくらでも出来る。一方で、魔法に関しては不得手。汎用魔法の腕だけなら、セシリアの方が上でしょ?」

 その指摘はあまりにも的を得ていた。ウツロが得意と呼べる汎用魔法は、治癒魔法くらいなもので、後は並と言わざるを得ないレベル。セシリアも、それを間近に感じていた。


「汎用魔法は、時間をかけて努力すれば誰でも磨ける。でも、他の魔法はそうじゃない。個々人によって性格が大きく変わるものだし、トレーニング方法も十人十色。中々良い指導者に巡り合うのは難しい。けど、属性魔法に関してはそうとも限らないわ」

 セシリアは顔を上げる。


「属性魔法は、その名の通り魔力属性と呼ばれる大きな類型が存在する。地水火風、そして光闇の六属性が基本となって、様々な派生がある」

 シャコダッチの雷、エリックの血は、まさしく後者に該当する。


「アルフグレットは、代々"火"を受け継いでいる家。セシリアもそうよね?」

「はい。もしかして、エライザさんも火なんですか?」

 それならば、先生としてこれ以上の適任はいないはず。セシリアは胸を躍らせた。

「いや、私は風」

 いきなりハシゴを外され、セシリアは肩を落とす。それを見て、エライザは声を上げて笑い出す。


「セシリアは弄りがいがあるね! ちょっと楽しくなってきちゃった」

 頬を膨らませながら、セシリアは反抗の目を向ける。

「ごめんって。話を戻すけど、属性魔法の先生として適任な条件は、同じ属性であること。そしてもう一つ、魔法の方向性があるの」

「魔法の方向性?」

 さらにセシリアの頭に疑問符が浮かぶ。


「ウツロみたいに自己強化をメインにした魔法と、セシリアのように魔力から火を生成する魔法じゃ、戦い方も変わってくるでしょ?」

「私とウツロじゃ、遠近の違いが顕著ですね」

「そして、必要な魔力量も変わってくる。ウツロから最初に教わったのは、魔力操作じゃなかった?」

 セシリアは大きく頷く。


「彼の戦闘は、魔力を効率よく使うことが徹底されていた。魔力操作は魔力を消費するものではないし、あの朔も纏っているだけなら魔力を使うことはないだろうね」

 改めて、セシリアはウツロの戦いを思い返す。思えば彼が魔力を消費したシーンは、デュエットで後衛だったときくらい。


「あなたたち二人の、一番の違いはそこ。ウツロの魔力量とセシリアの魔力量じゃ、文字通り桁が違うくらいの差がある」

「魔力量の違い……」

 デュエットの際に、ウツロから指摘された長所でもあったが、彼女自身あまりスポットを当ててこなかった。


「セシリアは、もっとたくさん魔力を消費する戦法を身につけるべきよ。いくら無駄打ちしたって尽きることがないくらい余らせてるんだし」

「でも、以前炎を全力で放ったら魔力炎症がひどくて——」

「そこ!」

 エライザの大声に、セシリアは半歩後ろに退がる。


「セシリアには、一つ大きな悪癖がある。それは、魔力を絞って使うところ」

「絞る?」

「"出来る限り魔力を一点に集中させて、魔法を放て"。ウツロにこんなこと言われたでしょ?」

 それを実践するために、ウツロはセシリアに魔力操作を教えていた。


「水鉄砲の穴は小さい程威力が上がるけど、同時に穴にかかる圧力も比例しているの。一転集中の絞りは、魔力が多い人がやると逆効果。一度魔法を使うだけですぐに魔力炎症になるから」

「でも、それじゃあ威力が落ちるから」

 元の木阿弥となってしまう。


「魔力の出し方の問題よ。効率度外視で魔法を行使すればいい。あなたと同い年の、ツミキ・スペチアーレの魔法は見たことある?」

 セシリアは、ツミキとウツロとの一戦の光景が頭を流れる。彼女のダイナミックで、場を支配するあの氷は、確かに効率の観点からは無駄が多い。しかし、威力不足など微塵も感じさせなかった。


「あれは魔力を絞るなんて発想にすらない戦い方ね。魔力量が多い人間、"魔法使い"の特権でもある。私もその一人。そしてセシリア、あなたもよ」

 セシリアは、ウツロとの会話でぼんやりと指導者についての輪郭を思い描いていた。しかし、今彼女の目の前でそのイメージははっきりと顕現していた。


「話はこれくらいにして。そろそろ始めましょうか」

「はい、お願いします!」

 セシリアの目は、エライザを師と捉えていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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