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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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一体どこでつけてきたのか

「え! あの帝都の連続殺人事件二人が解決したの?」

 食堂で、ヨーコは大声を出す。

「ヨーコさん驚き過ぎですよ」

「いや、セシリア。それは当事者だから印象が矮小化されてるだけだ。あれ、こっちでもずっと話題になってたんだぜ? もう犯人捕まらないだろうなぁって皆が思い始めた頃に、急転直下だ」

 ルカウも目を見開いて、二人を眺める。


「ウツロさんは場数を踏んでいるとは思っていましたけど、そんなところでも」

「ウチでも大活躍間違いなしだな」

 絶句するユリアと、笑みを絶やさないエリック。食事は会話と共にしばらく続いた。


 食事が終わると、一行はそのまま風呂へと向かう。

「お風呂も広いですね」

 セシリアは、中に入って驚いた。マイオレ基地の方が学校よりも規模が大きいため当然なのだが、プールと見間違うくらいのサイズである。


「そりゃ、私たちは一応騎士ですから。見習いの寄せ集めと待遇が一緒じゃ、みんな文句言うでしょ?」

 勢いよく湯船に飛び込むヨーコ。

「ヨーコさん、はしたないといつも言ってるでしょ?」

 ユリアは音も波も立てないように静かに入る。その時、セシリアは彼女の背中に大きな傷があるのが目に入る。左肩から真っ直ぐ伸びたその一筋は、剣で斬られたようにも見えた。


「あら、セシリアさん。もしかして見えましたか?」

 普段は長い髪を下ろしているのに、湯船に入る際に頭上に持ってきたのが仇となった形か。

「別にいいじゃん、隠してるわけでも気にしてるわけでもないんでしょ?」

 ヨーコはセシリアを手招きしている。それに従って隣に座る。


「そうですけど。自分がよくても他の人が嫌だと思うのなら隠すのがマナーです」

 セシリアは、背中の傷について尋ねてみたい衝動に駆られたが、何とか自制した。

「セシリアさんが思うようなことはありませんよ。この傷は、小さい頃に山道で足を踏み外した際に木の枝で切っただけです」

「敵に斬られた傷なら、ちょっとは貫禄もつくのにね」

 回復士のユリアがそんなもの身につけても意味がないだろう。そう思った瞬間、セシリアは疑問が湧き上がる。


「ユリアさんは、回復魔法を使えますよね? その時はまだ使えなかったんですか?」

「ええ、これは私がまだ四歳の頃の出来事です。残念ながら魔法には目覚めてませんでした」

「回復士だって、人の子だからね。怪我くらいするよ」


 セシリアは頭の中で、もう一度背中の傷を思い出す。四歳という幼い頃に受けた傷が、今大人になった体の対角線ギリギリまで伸びている。体は成長しても、傷が大きくなることは人体の仕組みからありえない。つまり当時は背中どころで済まない大怪我だったはず。それを今はこんな風に平然と語るとは。彼女もまた修羅場をいくつも経験してきたのだろう。


「ヨーコさんは、あまり傷がないですね」

 前線に出て騎士として戦っているのなら、大怪我の一つや二つ負っていても仕方ない。治癒魔法で死ぬことはないにしても、騎士は危険の伴う仕事である。


「綺麗な体でしょ? 腕の良い回復士にその場で治してもらっているから、傷なんて残りません」

 ヨーコは自慢げに体を見せつける。本人の言うとおり、彼女の体には綻びが一つもなかった。それと同時に、セシリアは水着を買う際に目撃したパートナーの上体が蘇る。


「ヨーコさん、逆に傷が残るような状況ってのはどういうときですか?」

「単純に、治癒魔法のレベルが低いとき。怪我を長時間放置したとき」

「前線に立っている方だと、戦いながら自分の体を治癒しているときもありますね」

 ユリアの発言に、ヨーコは大きく頷いた。


「どういうことです?」

「セシリアはさ、汎用魔法と属性魔法を同時に使ったことある?」

「いえ、私の実力じゃどちらかに集中しないと上手く発動できないので」

 セシリアは、小さな声で答える。


「そんなことで落ち込まない! というか、それが普通なの。どんなに魔法に長けた熟練者でも、自分一人で二種類の魔法の同時発動はまず無理」

「出来たとしても、効果に差があります。属性魔法は八割近く機能しても、汎用魔法は二割も機能しない。魔法の同時発動でどちらも十全に使えるのは、歴史的に見ても数える程の大偉業です」

 セシリアはなるほど、と何度も頷く。


「だから魔法は基本は一種類のみ。汎用と属性を細かく切り替えて使うのが普通。だけど、実戦だとそうも言ってられない時もある。一人で戦っている際に大きなケガをした、とかね」

 パートナーが先に倒れれば、そういう状況もあるのだろう。セシリアは固唾を呑んだ。


「その場合には、無理矢理にでも魔法を二種類使わなければなりません。属性魔法を展開しながら、治癒魔法を発動させる。敵の眼前ですから、片方だけに集中するわけにもいきません」

「こういうケースだと、治癒魔法は不完全にしか働かないから、後に傷が残るような処置になるね。まあ、そんな極限状態は中々訪れないけど」


「基本は誰かと組んで動きますからね。騎士団全体で見ても、大きな傷がある人は少ないでしょう」

「お、回復士の腕が良いアピール?」

 二人は静かな睨み合いを始める。セシリアはそれとは無関係に、ウツロのことを考えていた。彼のおびただしい傷跡は、一体どうしてその身に刻まれたのだろうか。あれは、修羅場の数だけ付いてきたのだろうか。また一つ、ウツロに聞きたいことが増えた。

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