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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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山道での急襲

 騎士学校から出発して、すでに六日が経過した。ちょうど頭の上に、太陽が昇っている頃。馬は日光に照らされながら、その栗毛を輝かせていた。

「この調子なら、夕方にはマイオレ基地に到着しますよ!」

 御者の声には、長旅の疲れなど全く感じさせない爽やかさがあった。


「安全運転でお願いしますよ。別に急いでいるわけじゃないので」

「分かってますよ。二人ともこれから大事なお務めなんだから、その前に怪我してちゃ元も子もない」

 ウツロの声に、御者は元気に応える。これまでの道程を一緒に過ごしてきたので、互いに知らぬ仲でもない。ウツロは行者の背中を一つ叩いてから、また横に転がる。しばらくして、馬車が速度を緩め始める。ウツロは瞬時に立ち上がり、前方へ移動する。


「御者、どうした?」

「前で馬車が横転して、道を塞いでいます。ありゃ事故ですね」

 ウツロもセシリアも目視で確認する。確かに、馬車が一台倒れており、荷台から荷物であろう木材が道に溢れている。


「どかすの手伝ってあげましょう。でないとこっちも通れませんし」

 御者は馬を停めていち早く馬車から降りる。その光景を見て、ウツロは違和感を覚える。

「ウツロ、私たちも行きましょう。……どうしたんです?」

 パートナーの警戒度が上がっているのに、セシリアは気付く。


「あの馬車はどうして横転したのか、と思ってな。馬に怪我はないし、見る限り車輪なんかにも破損はない。それに、一番気になるのはどうして人の気配がしない?」

 ウツロの言葉の通りだった。事故で倒れたはずの馬車は、何も損傷もなく、乗っている人の影すら見当たらない。そこにあるべきはずのものが一つもない。間違い探しであれば、感心して次のページに移れるのかもしれないが、それはあまりにも現実としては不自然だった。


 その気配に最初に気づいたのは、ウツロだった。突然木陰から、先に馬車を降りた御者に剣を振り下ろしながら飛びつく人間。当然このままいけば、行者の体は真っ二つになる。それを防いだのは、一本の朱槍だった。ウツロによる神速の投擲は、見事に襲撃者の心臓を貫いていた。セシリアを抱えて、ウツロは御者の元に駆ける。


「どうやらこいつは、罠みたいだな」

「ウツロ、敵は一体?」

 セシリアは首を左右に振りながら、周囲に意識を払っている。御者は腰が抜けたのか、二人の足元で小さく丸まっている。


「多分山賊だ。マイオレに向かっている馬車なら、高価な積荷があるとでも踏んでるんだろ」

 ウツロは山賊の遺体から無造作に槍を引き抜き、セシリアと背中合わせの位置で槍を構える。

『このままここで睨み合いを続けても埒が明かないな』


 ウツロは周囲に意識を向ける。索敵に引っかかった敵は左右に四人ずつ。直感的には実力は大したことなさそうであるが、セシリアと御者がいるのを考えるとあまり派手に動くのも不味い。セシリアは、多数戦闘の経験が一切ない。一対一なら入学してから嫌というほど戦ってきているが、ここでその弱点が顕在化してしまうとは。その上、守るべき対象も後ろに抱えているとなると、もはや完全に未知の領域。左右に散っている敵を、セシリアとの分担で一掃できれば一番手っ取り早いのだが、それは難しそうである。ウツロは不本意であったが、この状態を維持せざるを得なかった。


『一人一人槍を投げて対処するか』

 幸い、先程の探索で敵の位置は掴んでいる。ウツロの朱槍"夕星(ゆうづつ)"の権能は、忠誠。念じればそれだけで所有者の手に戻ってくるため、一投で弾切れになることはない。もし敵がそれを見て一斉に襲いかかってきても、武器を持っていない程度で遅れを取ルコとはないし、かえってそちらの方が好都合である。ウツロは自分の作戦をセシリアに伝えようと、念波魔法を起動したその瞬間、足早にこちらへ向かってくる足音が三つ。横目で見るウツロと、顔をそちらに向けるセシリア。そこにいたのは馬に乗った騎士だった。


「ルカウ、ヨーコ、敵はお前らに任せるぞ!」

 真ん中の男の号令に、騎士二人はそれぞれ左右に分かれていく。

「大丈夫ですか?」

 号令を出した男は馬から降りて、ウツロたちの下へ駆け寄る。


「私は、エリック。マイオレ基地に所属している騎士です。三人とも、怪我は……この方は?」

 エリックは、転がっている山賊に視線を向けている。

「私たちを襲ってきた山賊です」

 ウツロはあくまで正当防衛であることを主張する。


「心臓を一突き、か。その槍で?」

「はい、その通りです」

 エリックの目は、疑惑に変わっていた。

「あなた方は商人ですよね? どうして武器を持った山賊をこうも簡単に倒して……聖剣?」

 エリックはセシリアのほうを向いて、さらに目を見開く。それと同時に口元を歪める。


「私は、セシリア・アルフグレット。こちらはウツロ・ダコバトトです。この度、現場実習のために騎士学校から参りました」

 それが一番分かりやすい状況説明だった。エリックは二人を二、三度並べて見て頷く。


「そういや騎士の卵どもが来るとか団長が言ってたな」

 エリックは一つ舌打ちをする。その後は口調が変わり、態度も少し横柄になる。さしずめ先程までが外面の良い騎士モードだったのだろう。


「エリー、こっちは終わったよー」

 左の森側から、女性の騎士が顔を出す。ウツロの索敵通り、四名の山賊を捕縛していた。

「ご苦労さん、ヨーコ。いつも言っているが、その女みたいなあだ名だけはやめてくれ」

「エリック、こっちも終わったぞ」

 右に向かったルカウも帰ってくる。五分かからず山賊を四人を捕縛。手際が良いだけではこうはいかないだろう。


「この二人、例の学生らしい。とりあえず基地に送るのが先だろうから、ここは任せていいか?」

 ヨーコとルカウは頷く。早急に道から障害物を除去して、ウツロとセシリアの乗る馬車は再び動き始めた。


「ウツロと言ったか? そこそこ腕はあるみたいだが、なんでそんな武器を持ってるんだ?」

 馬車の外から、馬に乗ったエリックが話しかけてくる。

「剣よりも性に合ってるんですよ。色々幅があるし」

「変わり者だな。よくまあそんな武器を恥ずかしげもなく」


 エリックの発言に、ウツロは何も反応しない。ガッツたちからこの手の状況に陥る可能性は、幾度となく伝えられてきた。それ故腹を立てることはない。むしろ予習したところがテストで出たような感覚で、少し笑いが込み上げてくる。一方、横に座っているパートナーは、心中穏やかでない様子。相手が騎士だからというのもあって、何とか堪えているようだが、隣にいると自然に不満が伝わってきた。


『そんなに怒ることか?』

 ウツロは、ツンツン状態になってしまったセシリアには触れないでおこうと決める。

「まあいいさ。どうせ基地にいる間に持ち変えることになる」

 エリックの方も拾うのが面倒くさくなってきた。寝たふりでもしてやろうかと思ったが、こっちが不機嫌になってしまうと洒落にならない事態へ突入する可能性があるため、仕方なく付き合うことにする。というか、こういうのはセシリアの方が得意なのに何故か二人とも会話をしようとしない。


「マイオレでは、具体的にどんな現場実習をするんですか?」

「さあな。なんせウチも初めての学生受け入れだ。先例も無ければマニュアルもない。団長が何か考えていた気もするが、俺は何にも知らん」

 ウツロとセシリアを乗せた馬車はいよいよ街に入っていく。潮風の匂いが、鼻の中を通り過ぎた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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