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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第3章 マイオレ基地
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元騎士様

 初めての現場実習を終えて、ウツロとセシリアは二日ぶりに騎士学校へ帰ってきた。今すぐにでも自分たちの寮の自室に向かいたいところだったが、先に生徒会室に顔を出すように指示が出されていた。


「こうしてみると、学校も何だか新鮮ですね」

 文字通り死線を彷徨ったセシリアにとって、日常の安寧は何よりも尊いものだった。廊下を歩いて、まっすぐ生徒会室の扉を開けると、中にはルクセンナが一人座っていた。

「二人とも、おかえりなさい」

 その目には、歓喜と安堵の色が浮かんでいた。


「ただいま、ルー姉」

 セシリアに対して言われた言葉のため、ウツロは特に返事をしない。

「ウツロも、お疲れ様。現場での活躍は耳にしているわ。とりあえず、二人とも座って」

 実に和やかな雰囲気で始まったお出迎え。それが逆にウツロには、大きな違和感となって胸中に残る。


「さて、まさかこんなに早く二人の顔がまた見れるとは思っていなかったわ。それに、無事に戻ってきてくれたのも、この上なく喜ばしい」

 ルクセンナの表情はやはり穏やかである。

「それじゃあ、今回の現場実習は成功と捉えても?」

「もちろん。犯人逮捕の手助けどころか、二人が捕まえたみたいなものだし。ウツロは特に気張ったみたいね。でもまさか、犯人が固有魔法を使う手練れとは。驚きだったわ」

 この結末は、誰も予想していなかっただろう。


「しかも、戦争で負傷した元騎士様でしたね」

 セシリアの言葉に、ルクセンナも表情を曇らせる。

「そうね。国のために命懸けで戦った人物が、今はこうして快楽のために極悪非道な犯罪に手を染めている」

 何とも心苦しい話である。戦争で矢面に立って戦っていた人間が、一番の被害者になってしまう。


「あの方は、これからどうなるのですか?」

「一生かけて罪を償っていくことになるかしら。もっとも、かなり意識や理性が混濁しているみたいだし、自分が何をしでかして、どういう状況に置かれているのかちゃんと理解できていればいいのだけれども」

 刑務所に行く前に、まずは精神病院が先か。これから生きていくことが、彼にとってあの時死ぬことよりも幸福なことかは誰にも分からない。しかし、セシリアによって、自分が殺そうとした相手の慈悲によって命があることくらいは正しく認識してほしい。ウツロはそれだけを願った。


「その件に関して今回、帝都娼婦連続殺人事件の犯人の素性について箝口令が敷かれたわ。あなたたち二人も注意してね。友人たちに根掘り葉掘り聞かれても絶対に口を割らないように」

 ルクセンナの発言に、ウツロは首を傾げる。


「どうして箝口令なんてものが? 犯人が捕まったことについて、どうして正しい情報を公表しないんですか?」

 ウツロは、ルクセンナに感じた違和感の正体がこの話であることを理解した。そして、自分の質問に対する答えも、ある程度は予測出来ていた。


「元とはいえ騎士だからよ。騎士は国民の規範であり、憧れの存在でなければいけない。ましてや、今回は先の戦争に参加した人物。華々しい部分だけしか口に出してはいけないの」

 ウツロは口を閉じたままである。この怒りは、ルクセンナに向けられたものではない。彼女だってこの対応に満足しているとは到底思えない。だが、従うしかないのだ。これがこの国のやり方か。ウツロはしっかりとこの身に刻んだ。


「では、二人とも今日はゆっくり休んで。公欠扱いになっているから授業には出なくていいから」

 ルクセンナから賞賛と注意事項についての説明が終わって、二人は寮に帰っていく。

「ウツロ、今の話どう思いましたか?」

 セシリアの顔も全く晴れた様子がない。


「臭いものにはフタをする。都合の悪いものは人知れず抹消する。……セシリア、お前はこんな国に誇りを持てるのか? こんな国で得る名声に何の価値があるんだ?」

 つい本音が出てしまうウツロ。セシリアはその言葉に何も返事ができなかった。彼女自身、今回の現場実習を通して揺らいだものがいくつもあったからである。


 二人はそれぞれの寮の前で分かれた後、ウツロは不機嫌そうに自室のベッドに転がる。

『気分悪いぜ』

 自分たちの失敗に目を瞑っているだけでは、解決にはならない。他人の振り見て我が振り直せ、そのくらい簡単に割り切れられれば、ウツロはどんなに生きやすい人生を送れたのだろうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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