そして街へ
【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。
その日のセシリアの起床は遅かった。今日はウツロから朝のトレーニングはなし、と伝えられていたため通常の生徒と同じ時間に起きる。
「セシリア、今日はこんな時間で大丈夫なの?」
同室のクリスは、半分寝ぼけたままでセシリアに呼びかけた。彼女の弱点は朝である。いつまで経っても早起きというものは、クリスにとって永遠の難問として立ち塞がるのだった。それ故に、彼女はウツロたちとのトレーニングに参加していない。興味があるのに体が追いつかないからだ。
「うん。後は出発の支度をして校門に行けばいいだけだから」
「……そう。あんまり無理はしないでね。あと、出来るだけ早く、無事に帰ってきて」
声は眠たげだが、クリスの言葉はしっかりとセシリアの耳に届いた。
「分かった、それじゃあいってくるね」
ベッドの上から力なく手を振るクリス。セシリアは寮の自室を飛び出して、校門に向かう。馬車はまだ着いていなかったが、代わりにウツロがすでにそこに立っていた。
「すいません、待たせましたか?」
「いいや、全然」
聞く人が聞けばデートでの一幕。
「というか、別にセシリアは遅れてないだろ。馬車も来てないんだし」
時間的にもまだいくらか余裕がある。
「ウツロの荷物は、それだけなんですか?」
セシリアが見つめる先には、槍と小さな巾着が一つだけ。あまりの身軽さに、カバン自体の忘れ物を心配したくなる。
「長くてせいぜい一週間くらいだろ? ならこれで十分さ」
「中は何が入っているんです?」
「着替えとペンと紙。あと金貨も持ってきたな」
確かに、これから二人は遊びに出かけるわけでも旅行に行くわけでもない。それにしても少なすぎる。セシリアはそう思わずにはいられなかった。
メッセンジャーバッグに、昨日なんとか荷物が入るように苦悩していた自分とは大違い。旅慣れしていない貴族の令嬢と、野宿なんて意にも介さない人間では、比べること自体ナンセンスである。
「まあ、男はこんなもんだろ」
もし任務でなければ、紙とペンすら必要ないのだ。ウツロとしてはこれでも余分な荷物があるくらいなのは、セシリアには伝えないでおこう。
蹄とそれに引かれる車輪の音が、二人の耳に届いてくる。一分もしないうちに、二人の前に馬車が到着する。御者の指示で二人は中に乗り込む。後は、目的地に着くのを待っているだけでいい。
「思っていたよりも快適だな」
はじめての馬車の乗り心地は、ウツロにとってそう悪くなかった。
「そういえば、ウツロはヌベンセから帝都にどうやって来たんですか? 私、あの次の日駅で来るのを待っていたのに」
ああ、そんなこともあったな。ウツロはどこか懐かしい気持ちに襲われる。
「あの時は金が無かったからな。馬車にも汽車にも用はなかった」
「じゃあ、自分の足だけで?」
黙って頷くウツロに、セシリアは目を丸くする。
「ひょっとするとウツロって、汽車よりも速いなんてことになりませんか?」
「まさか。それはないだろ」
セシリアは数秒黙り込んで、ありえないかを頭の中で精査する。そして質問を再開した。
「帝都に着いたのはいつ?」
「試験の前日。ちょうど夕焼けの頃だったな」
セシリアは目をしばたかせる。
「私はその日のお昼過ぎです。……あまり変わらないのでは?」
「俺は山の中真っ直ぐ突っ走ってるんだぜ? 線路と条件が同じとはとても言えないさ」
それを言い出すのなら、ウツロは全く整備されていない道なき道を進んでいたのだ。同じではない。
「最近思うんですけど、ウツロってもしかしてお父さんが猿だったりします?」
言う人が言えば侮辱になりそうな発言だったが、そんなこと気にも留めず、ウツロは笑いながら否定した。
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