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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第2章 帝都娼婦連続殺人事件
35/73

そして街へ

【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。

 その日のセシリアの起床は遅かった。今日はウツロから朝のトレーニングはなし、と伝えられていたため通常の生徒と同じ時間に起きる。


「セシリア、今日はこんな時間で大丈夫なの?」

 同室のクリスは、半分寝ぼけたままでセシリアに呼びかけた。彼女の弱点は朝である。いつまで経っても早起きというものは、クリスにとって永遠の難問として立ち塞がるのだった。それ故に、彼女はウツロたちとのトレーニングに参加していない。興味があるのに体が追いつかないからだ。


「うん。後は出発の支度をして校門に行けばいいだけだから」

「……そう。あんまり無理はしないでね。あと、出来るだけ早く、無事に帰ってきて」

 声は眠たげだが、クリスの言葉はしっかりとセシリアの耳に届いた。


「分かった、それじゃあいってくるね」

 ベッドの上から力なく手を振るクリス。セシリアは寮の自室を飛び出して、校門に向かう。馬車はまだ着いていなかったが、代わりにウツロがすでにそこに立っていた。


「すいません、待たせましたか?」

「いいや、全然」

 聞く人が聞けばデートでの一幕。


「というか、別にセシリアは遅れてないだろ。馬車も来てないんだし」

 時間的にもまだいくらか余裕がある。

「ウツロの荷物は、それだけなんですか?」

 セシリアが見つめる先には、槍と小さな巾着が一つだけ。あまりの身軽さに、カバン自体の忘れ物を心配したくなる。


「長くてせいぜい一週間くらいだろ? ならこれで十分さ」

「中は何が入っているんです?」

「着替えとペンと紙。あと金貨も持ってきたな」

 確かに、これから二人は遊びに出かけるわけでも旅行に行くわけでもない。それにしても少なすぎる。セシリアはそう思わずにはいられなかった。


 メッセンジャーバッグに、昨日なんとか荷物が入るように苦悩していた自分とは大違い。旅慣れしていない貴族の令嬢と、野宿なんて意にも介さない人間では、比べること自体ナンセンスである。


「まあ、男はこんなもんだろ」

 もし任務でなければ、紙とペンすら必要ないのだ。ウツロとしてはこれでも余分な荷物があるくらいなのは、セシリアには伝えないでおこう。


 蹄とそれに引かれる車輪の音が、二人の耳に届いてくる。一分もしないうちに、二人の前に馬車が到着する。御者の指示で二人は中に乗り込む。後は、目的地に着くのを待っているだけでいい。

「思っていたよりも快適だな」

 はじめての馬車の乗り心地は、ウツロにとってそう悪くなかった。


「そういえば、ウツロはヌベンセから帝都にどうやって来たんですか? 私、あの次の日駅で来るのを待っていたのに」

 ああ、そんなこともあったな。ウツロはどこか懐かしい気持ちに襲われる。


「あの時は金が無かったからな。馬車にも汽車にも用はなかった」

「じゃあ、自分の足だけで?」

 黙って頷くウツロに、セシリアは目を丸くする。


「ひょっとするとウツロって、汽車よりも速いなんてことになりませんか?」

「まさか。それはないだろ」

 セシリアは数秒黙り込んで、ありえないかを頭の中で精査する。そして質問を再開した。


「帝都に着いたのはいつ?」

「試験の前日。ちょうど夕焼けの頃だったな」

 セシリアは目をしばたかせる。


「私はその日のお昼過ぎです。……あまり変わらないのでは?」

「俺は山の中真っ直ぐ突っ走ってるんだぜ? 線路と条件が同じとはとても言えないさ」

 それを言い出すのなら、ウツロは全く整備されていない道なき道を進んでいたのだ。同じではない。


「最近思うんですけど、ウツロってもしかしてお父さんが猿だったりします?」

 言う人が言えば侮辱になりそうな発言だったが、そんなこと気にも留めず、ウツロは笑いながら否定した。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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