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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第2章 帝都娼婦連続殺人事件
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台風の目

【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。

「ずいぶんと、センセーショナルな事件で」

 ウツロですら、若干動揺しているのだ。セシリアのそれは比べものにならない。


「資料はここに用意してあるから。どの道明日になれば、同行する騎士から色々聞けるでしょう。あなたたちのはじめての現場実習、成功を祈ってるわ」

 件名だけ聞けば、誰もが断りたいと感じてしまう事件。


『いきなり、殺人事件の犯人捜しね』

 昨日の自分の質問は何だったのか。ウツロは一言文句を言いたくなったが、セシリアの表情を見たらそれも引っ込んでしまう。顔色は青白く、肩がわずかに震えている。行儀良く膝の上に置かれた両手は、握り拳をつくっていた。


 恐怖と憤り、その二つが混じり合っているのだろうか。ウツロはルクセンナが置いた資料の冊子に手を伸ばす。中を開いて、ページをパラパラとめくる。


『これは酷いな』

 ウツロの目に入ってきたのは、文字ではなく写真。念写魔法を使って撮られたそれは、目の前にあるのと遜色なく光景を収めていた。


 遺体は上半身と下半身に真っ二つ。もしくは、袈裟斬りの要領で、縦というより斜めに体が斬られていた。その大味な切り口は、斬られたというより()し切られたように見える。だが、それよりも気になる点は——。


「ストップ。それ以上先はここではやめてくれる?」

 ルクセンナの柏手で二人は意識を取り戻す。この言葉がどちらに向けられたものか分からなかったが、効果は同様に及ぶ。


 ウツロは冊子を閉じて立ち上がる。セシリアもそれに続いてゆっくりと動き出す。


「それじゃあ二人とも。明日の朝一番に校門から馬車を用意させているから、それに乗って捜査に向かって。くれぐれも、気をつけなさいよ」

 ルクセンナの言葉には、微かに心配の色があった。妹同然に可愛がっているセシリアを、自分の手で危険なところに送り出す。それは彼女にとって決して心地の良いものではなかった。


 だからこそ、その隣にいる男がどれほどのものか。昨日の呼び出しはウツロの為人を測るためのものだった。そして、ルクセンナは信頼に足ると理性で判断を下したからこそ、今日二人に声をかけた。不安は尽きないが、可愛い子には旅をさせることも必要である。二人は一礼して生徒会室から踵を返した。


『頼むわね、ウツロくん』

 ルクセンナはその背中が見えなくなるまで、じっと見つめていた。


「ずいぶんと心配症なことで。そんなになるんだったら別のパートナーに頼めば良かったのに」

 書類から目を離し、バラキアは扉の前で佇む少女に視線を上げる。


「私だって、気持ちの部分じゃそう思ってるわ。でも、他に条件に当てはまるパートナーがいるの?」

「上のお達しは、"貴族ではないパートナー"だろ? 会長が否定した社会科見学なら、別にそれでも構わないんだろうが、今回みたいにハードな現場には連れていけないか」


 貴族ではないということは、聖剣を持っていないということ。そしてウツロクラスでないと、そもそも武器で負けている状況で、相手を御するというのは至難の技である。残念ながら、この学校にウツロと同等かそれ以上で体術を扱えるものはそういない。条件に適合するパートナーは、セシリアとウツロしかいなかったのだ。


「でも、ウツロは相当腕が立つんだろ? 何でも、あのツミキ・スペチアーレに"総合"で勝ったらしいぜ」

「でしょうね。彼ならそのくらい出来るでしょう」

 バラキアの驚きに、ルクセンナは驚くほど冷たく返す。


「昨日であいつの実力が分かったのか? もしかして、模擬戦でもした?」

「いいえ。ただ軽くおしゃべりしただけよ。彼の実力は、あなただってデュエットで見てるでしょ?」

 あいにく自分にはそこまでの分析力はありません、そう白状するのは何だか癪だった。


「にしても、嵐のようなタイプだな。誰もらやったことのないチェンジのの次は、校内で槍を携帯するとは。冗談でやってないのは伝わってくるけど、どうにかなんないのかね」

 波風立てず大人しく、それが出来れば彼は限りなく完璧に近いスパイになっていただろう。


「いいじゃない。むしろこれからは彼みたいな人が必要なんだから」

「それはどうしてだ?」

 バラキアは眉を曇らせる。


「バラ、前にも言ったはずよ。今まで通りのやり方なんてものを続けていたら、私たちはリトガルトに勝つことは永遠に出来ないわ。少なくとも彼らのことを"山猿"などと呼んでいる時点でね」

「敗者の俺たちは、勝者から学ぶべきことがたくさんあるしな」


「その通り。これからは貴族の理論ではなく、山猿の理論を学ぶ時代。そして、それは私たち貴族からは決して生まれることはない。ウツロのような、平民でありながら非凡な力を持った、今までに例のない"嵐"に全てを過去にしてもらわないと」

 ルクセンナの話を聞いて、バラキアは立ち上がる。


「お前がそこまで言うのは珍しい。確かに、あいつなら俺たちの閉塞感なんて簡単にぶち壊してくれるかもな」

 思えば、槍一つとってもバラキアは面食らってしまった。ウツロからすれば大したことのない小事。他人の目、貴族の目など物ともしない彼の考えは、台風の目となって新しい風を巻き起こすだろう。


「でも、セシリア嬢の方は焦りすぎじゃないか? 武功を早く立てたいってのは分かるけど、何も女がそこまで無理しなくても」

 バラキアの台詞に、ルクセンナはため息を返す。


『彼ならこんな発言も、ぶち壊してくれるのかしら』

 貴族の慣習の、何が問題でどうすれば改善に向かうのか。残念ながら内側にいる人間には見当がつかない。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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