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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第2章 帝都娼婦連続殺人事件
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現場実習

【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。

 バラキアがノックをして、生徒会室に入る。中では、絶賛書類と睨めっこしているルクセンナがいた。


「会長、連れてきましたよー」

「ご苦労様。二人とも、呼んでおいて悪いんだけど、デッキでしばらく寛いでいて。すぐ私も行くから」

 まだ終業して十分も経っていないというのに。生徒会とは何かと忙しいようだ。二人は言われた通りにデッキに腰掛ける。


「そういえば、バラキアさんは私たちのデュエットの解説をしてくれていましたよね」

 セシリアの発言で、ウツロはようやく記憶を思い出す。

「そうだったな。はっきり言って、そんなのに耳を傾けてる余裕はなかったけど」

 中で難しそうな顔でファイルを開いているバラキアを見る。ああいう雑用まで引き受けているのなら、そりゃ多忙なのも当たり前か。


「待たせたわね、二人とも」

 五分くらい経っただろうか。セシリアが淹れてくれた紅茶は、まだ湯気が立っている。

「セシリア、私にも一杯」

 "どうぞ"と歌うように弾む声だけで、二人の仲の様子が伝わってくる。


「久しぶりだね、セシリア。中々会いに来てくれないから寂しかったよ」

「ごめんなさい、ルー姉。何度か機会はあったのに」

「謝らなくてもいいわよ。私の方も自分が忙しくて会いに行かなかったのを棚上げしてるんだから」

 セシリアは朝も夕も、ウツロとのトレーニングがあった。


「そして昨日ぶりね、ウツロくん。ちょっと見ない間に物騒なものを持つようになって」

 やはりきたか。ウツロは自分の予想が的中したことに喜ぶこともなく、急いで襟を正す。

「色々ありましてね。カッセンドさんにプレゼントしてもらったんです。彼もうちのOBだそうで、昨日は夕食までご馳走してもらいました」

 あくまで自分ではなく、カッセンドの名前を出すことで、責任を回避しようとする作戦である。


「別に私は責めるつもりはないわ。ちゃんとセシリアからの了承も得ているんでしょ?」

 セシリアは大きく頷く。

「なら何も問題はないじゃない。必ず生徒は剣を携帯しなければならないなんて校則はないし、生徒会からも注意喚起する気もない。まあ、"あれはどういうことだ?"なんて生徒会に声を荒らげて問い合わせてきた輩もいたけどね。あなた本人に直接聞いてくる人はいた?」


「いえ。物珍しそうに見てくるだけですよ」

「そう、なら害はないみたいね」

 ルクセンナもまた、合理性で雑音をシャットアウト出来る性格のようだ。


「そういえば、言うのが遅れてしまったけど、初勝利おめでとう」

「ありがとう」

 姉妹のような二人のやりとりに、ウツロは口を挟まない。


「私も見ていてハラハラして、何度か倒れそうになったわ。でも、セシリアがあんなに強くなっていたのには一番驚かされた。ウツロくんの指導のおかげかしら」

「もちろん。ウツロは私のパートナーだから」

 昨日言われたことを思い出し、ウツロはカップをくるくる回して、右手で取っ手を持つ。その様子を見て、ルクセンナはコホン、と咳を一つ。


「出来ることならこのまま色々話していたいんだけど、時間もないし今日二人を呼んだ本題に入らせてもらうわね」

 また今度、と小さな声にセシリアは笑って頷く。


「うちの学校が今年から学習方針を大きく変えたのは二人とも知っているかしら?」

「例の戦争に負けて、国が本腰入れ始めたやつですか」

「生徒数の増枠とか、色々やってるよね」

 ウツロもその恩恵を受けた人間であるため、知らないはずがない。


「方針転換の目的としては、人材の質の向上。平定戦争でリトガルトの少数精鋭部隊に負けたことから、騎士一人一人の力を育てていこうというわけね。その一環として、現在"現場実習"が議題にあがっているの」

「現場実習?」

 セシリアは首を傾げる。


「サンセベリアは、今どこかとドンパチやり合っているわけではない。それなのに、一体どこで実習を?」

「別に実際に戦闘経験を積ませようというものではないわ。ただ、騎士団の中でしばらく過ごしてみて、その業務の一部を手伝うということが主な活動内容よ」

 ルクセンナの返答に、今度はウツロが眉をひそめる。


「そんなので、力がつくんですか?」

「さあ。上の考えることなんて、下々の私には理解できないから」

 言いながら、ルクセンナは視線を逸らす。彼女もウツロと同じ考えなのだろう。血を流す覚悟、その経験がなければ戦士が育つことはない。リトガルトで育った男には、それが骨身に染みた事実だった。


「といっても、まだこの案は可決されたわけじゃない。ウツロくんの言うように、どこへ実習へ行くのか。受け入れ先の体制やカリキュラムもまだ未定。だから、上としては一度テストのような形で、生徒数名に絞ってモニター実施を検討している最中」

 ウツロは、ようやく自分たちが呼ばれた理由を掴む。


「要するに、そのモニターが俺たちってことで?」

 ルクセンナは頷く。

「上としても、この案は通したいんだけど、貴族側から反対する声が出てるみたいで。危険だとか、本当に意味があるのかとか。本当、臆病な人たち」

 ルクセンナは吐き捨てるように告げる。

「だから一度、落とし所として限られた一部の生徒で実施をするわけか」

 ウツロはわざとらしく手を叩く。


「私はね、平定戦争に負けたという事実を、サンセベリアはもっと重く受け取るべきだと思うの。だって、兵力や資金力で見れば、私たちがリトガルトに負ける可能性なんて万に一つもなかった」

「でも、騎士団は敗北しました」

「そう。数の論理ではない部分、今までサンセベリアが意識してこなかった別の論理によって、我々は敗れた。そのことから、決して目を逸らしてはいけない。今までのやり方の延長なんて続けていたら、勝利は永遠に訪れない」

 ルクセンナの言葉には、柄にもなく熱がこもっていた。


「現状維持とは、長い目で見たら衰退である。新しいことをどんどんやっていくべきだと?」

「もちろん。でも、何でもかんでもそうというわけじゃない。無意味だったり、効果が小さいのなら、それはただの遠回り。私たちは、先を行くリトガルトを追いかける立場なの。そんな悠長なことをしてられない」

 ウツロは大きく目を見開いた。


 今までこのサンセベリアに入って、リトガルトの方が立場が上であると発言した人物は一人もいなかった。それを、目の前の彼女は臆面もなく発言した。彼女は"正しく"敗北を認めていた。貴族である自分たちは、たとえリトガルトの山猿共に敗戦したとしても、心では負けていない。そんな人口に膾炙する戯言を正面から切り伏せたのだ。


「私は、今回の実習は方向性としては悪くないと思ってる。実力を向上させるには、実戦での経験を積むのが一番効果的。でも、今の上のアイディアだと、貴族連中の発言もあって、ただのお泊まり会に成り下がらない。そんなもの、何の益体もない時間だわ」

 ウツロもセシリアも口を開かない。彼女の凄みに押されている。


「だから、私はこの中身を変えたい。より実戦的で意味のある実習を、生徒たちが受けられるようにしたいの。危険はもちろん伴う。でも、そうでなければ真の意味での成長ない」

 彼女の発言は、強者の立場だからこそ言えるのだと咎められてもおかしくはない。しかし、この場にそんな無粋なことを口にする人間はいない。


「だからって、いきなり力もない生徒を矢面に立たせるわけにはいかない。きちんと実力があり、今の話に首を縦に振ってくれる人間でないといけない」

 二つの条件を満たしている男は、両手を大きく広げる。


「その通りよ。ウツロくんは問題ないわね。セシリア、あなたは武功が立てたいと言った。もし今言ったように、この現場実習が意味のあるものに変われば、それは大きな功績になる。自身が戦果を残すよりも、後世の多くの人間に恩恵を与えた方が、国としては圧倒的に価値があるもの」

 ただし、そのためには危険が伴う。いくらウツロが横にいるとはいえ、実際の現場では何が起こるか分からない。それでも、


「やらせてください」

 虎穴に入らずんば虎子を得ず。安全圏から見ているだけで獲得できるものなど、この世にはないのだ。ウツロとセシリアは目を合わせる。そして互いに小さく頷く。


「決まりね。では早速明日から、騎士の方と任務にあたってもらうわ。内容は"帝都娼婦連続殺人事件の犯人の捜査及び確保"」

 ルクセンナの言葉に、二人は即座に彼女の方へ振り返った。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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