勝者と敗者の受け止め方
【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。
"総合"の時間を終えると、勝者であるウツロはセシリアとともに次の授業へ移動していた。
「そういえば、ウツロの属性魔法は名前があるんですか?」
「あるような、ないような。まだ何とも言えないな」
嘘である。ウツロは十歳の頃にすでに"名付け"を終わらせている。それがキロトリデが戦士として独り立ちする条件であった。しかし、この曖昧な返答の真偽を問いただすことは難しい。"名付け"とは、感覚でタイミングが決まるものであるからだ。
何となくイメージがあるんだけど、それが明確に言葉としては出てこない。属性魔法が完成に近づくにつれて、使用者はそのような何とも言えない居心地の悪さを感じるのは、有名な話である。そのため、セシリアはウツロが今その状況に身を置いていると勘違いしたのだ。
「そうですか。でも、決まったらちゃんと教えてくださいよ。パートナーの間で隠し事はなしですから」
セシリアが時々口にするこのルール。成立の時点でそれを破っているウツロは、いつも何も言わずにただ首を縦に振るだけだった。
廊下を歩いていると、すれ違う度にウツロの槍を見てギョッとする生徒ばかりである。やはり貴族社会においては、異物としか見られていないようである。
「どうにかならないかね、あの視線」
ウツロは愚痴をこぼすようだった。
「珍しいものですから仕方ありませんよ。しばらく経ったらみんな普通になります。でもやっぱり綺麗な槍ですね」
やはり、セシリアはこの朱槍を高く評価していた。
「この槍は、その物置に保管されていたんですよね。名前とかはどうなっているんですか?」
「なかったから自由に付けてくれ、だそうだ」
「ということは、ウツロのはじめての"名付け"ですね。何にします?」
セシリアは楽しそうにウツロの顔を見上げる。他人の小さなお祝いも大切に祝福できる彼女らしい反応だ。
「そうだな……夕星なんてどうだ?」
「いいですね、宵の明星のことでしたっけ」
「ああ、夕暮れ時に西の空に浮かぶ金星。ちょうど空がこんな色だろ」
ウツロが握る槍は、以前よりも輝いて見えた。
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一方、敗者の方は。
「負けましたね、ツミキ」
「まあね。剣が折られなかっただけマシなんだろうけど」
廊下を歩きながら、文句を言うツミキを見て、サーシャは微笑む。
「何、そんなに私が負けたのが面白かった?」
「いいえ。ツミキもそんな顔をするのだなと思っただけですよ。あなたと過ごしていると、歳が三つも四つも離れている姉のようにみえて、同い年って感じがしないから」
今のツミキは、年相応というより正常な人間の基準として悔しがっているのがありありと伝わってくる。いつもの鉄面皮の下は、乙女の顔なのである。
「ウツロのやつ。まさかあそこまでとんでもない朔とはね。あれ、魔法使いの天敵よ」
「どうすれば、ツミキは勝てるのでしょう?」
「うーん、今ある手札じゃ無理かもね。またいつ彼と戦うのかも分からないし、対策練るわよ!」
二人きりの反省会、もとい慰め会の開催が二人の間で決定した瞬間であった。
「本当に、折れない人」
サーシャはいきいきとし始めたパートナーを見て、一層穏やかな気持ちになった。
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放課後、ウツロとセシリアが授業の片付けのために教室に残っていると、二人の前に人が立ち止まる。
「こんにちは。私は、生徒会副会長を務めているバラキアと言います」
目の前の男は、丁寧に頭を下げている。ウツロは何となく、彼のグリーンの髪に見覚えがあったが、それがどこだったか思い出せない。
「それで、生徒会副会長さんが何か用で?」
「実は、会長が君たちをお呼びでね。私が使いとしてきたわけなんだ」
「ルー姉が? そういえば入学してからまだ顔を見せてないですね。色々あって忘れてました」
手を叩いて、ハッとするセシリア。
「俺は昨日あったばかりなんだけどなぁ」
何となく、嫌な予感がするウツロ。対照的な二人を連れて、バラキアが二人を案内した。
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