宝物庫での出会い
【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。
「あなたがウツロ・ダコバトトさんですね。私はデビット・カッセンドです。弟から話は聞いてますよ。さあ、こちらに」
三時間後、ウツロはサンセベリアの国庫に訪れていた。彼がスピード解決を目指したのは、確実に自分の要求を通すため。ウツロは最初から金などどうでも良かった。そちらは大金貨の方で十分だからだ。それよりも今は聖剣の入手が先である。デュエットを経て、ウツロは武器の重要性をひしひしと感じていた。
セシリアの聖剣出なければ、ウツロは魔法もなしにギルバートを倒すことは出来なかっただろう。これから誰と戦っていくのかは分からないが、少なくとも学校には貴族がウジャウジャいるのだ。また聖剣持ちと当たることを考えると、一日でも早く聖剣を手に入れ、それに順応しておかなければならない。そんな思いが、彼をここまで駆り立てていた。
国庫に案内されると、そこにはおびただしい数の聖剣が並んでいた。壁に、床に、天井に。ありとあらゆる場所に飾られる様は、どこかの博物館にでも迷い込んだような錯覚を与えてくる。
「この中から一本どうぞお持ち帰りください」
「いいんですか? どう見ても全部聖剣のようにですが。
「はい。私はこれでもここの管理者ですから。私の権限でどうにかします」
実際それは十二億を払うよりも安くつくのだろう。
カッセンドとしても、自分の家の家宝を差し出せと言われているのではない。ここにあるのは、持ち主不在の名前すらも忘れられた聖剣たち。一本無くなったところで、何も問題にはならないのだろう。
「ところで、ウツロさん。あなたは聖剣についてお詳しいですか?」
「いいえ、右も左も分かりません。なんせ所有したこともないので」
"聖剣"は確かに所有したことがない。嘘は全く言っていない。
「そうですか。では、簡単に私の方から説明させていただきます。といっても、権能について軽くお伝えするだけですけどね」
デビットに案内される形で、ウツロは国庫を時計回りに進んでいった。
「聖剣というのは不思議なものでして。適応者を選ぶと言います」
「聖剣が選ぶ?」
「はい。聖剣は適応者が扱わないとその力を十全に発揮することはありません。血統や魔力特性など、様々な要因が満たされた場合にのみ、彼らは真の力を発揮してくれます。一応抜け道として、適応者が使った直後なら、他人がその聖剣を借りて使って権能を引き出すことは可能です。しかし、それはせいぜい持って十分程度。残り火で暖を取っているようなものです」
ウツロが適応者でないにも関わらず、アルフグレットの聖剣イフリートを使えたのは、まさにこの性質のおかげ。当然ウツロは知っていたからこそ、作戦に組み込めた。
「それじゃあ、いくらこっちが気に入ったものでも、聖剣の方から拒絶されることもあるのですか?」
ウツロはお決まりの質問を口にする。
「良い質問ですね。これが不思議なことにそういうことにはならないんですよ。自分が一目見て"良い"と思った聖剣は、必ず適応しているものである。昔からよく言われている話なんですけど、まさにこれなんです。私も仕事柄こうして騎士の皆さんと国庫を回る機会があるんですけど、やはり皆さん私の説明なんかよりも先に気に入ったのが、そのまま相棒になる。いやあ、面白いものですよ」
ここにきて、ウツロは目の前の案内人が変わった人間であることに気付く。つまりそれは、今自分のやっているツアーや説明は大して意味がない活動であるということを自覚しているのと同じ。にも関わらず、この男は嫌な顔一つせず、ウツロに一本一本丁寧に説明をしていた。
「カッセンドさんは変わってますね。それだったら、私一人で国庫を一周させて、気に入ったのがあれば声をかけさせる形にすればいいのに」
「確かに効率はそっちの方がいいですよね。でも、私大の聖剣ファンでして。こうして近くで眺められて、しかもそれを聞いてくれる人がいる。それがこの上なく楽しいんです」
デビットは目を輝かせている。ウツロはその言葉に嘘はないと確信した。
『まあ、こっちとしてもそっちの方がありがたいか』
二人のツアーは静かに続いていた。
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「どうですか、ウツロさん。気にいったものはありましたか?」
一時間程度かかり、ウツロは国庫の入り口に戻ってきていた。そして、頭を悩ませていた。
「そうですね……」
ウツロはリトガルトで聖剣を見たことがあったし、デビットが説明した情報も知識として事前に知っていた。だから、一番良いのは目に入って光っているように見えたもの、というのは重々承知していた。その上で、ウツロは迷っていた。輝いて見える聖剣が一本も無いからである。
二人の間に沈黙が流れた。デビットも、その事情を察したらしい。
「ウツロさん、我々が管理している聖剣はこれで全部です。ですが、こちらに来てください」
デビットは国庫を出て、隣の部屋の扉を開ける。そこもまた、広い空間に武器が大量に収納されていた。しかしこちらは先程の部屋と違う点が一つ。斧、弓、杖、鎚、鎖にチャクラムなど。挙げ始めればキリがないくらい多種多様な武器たち。ここには剣が一本もなかったのだ。
「これらは、聖剣ではありません。しかし、聖剣と同じく一級品であり、権能も備えています。要は、形状が異なるだけの聖剣です」
それをリトガルトでは聖遺物と呼ぶ。正しくは、聖剣などという風に剣だけを特別視せず扱っているだけだが、サンセベリアはそうではない。剣こそが最も優れた武器であり、それ以外は亜流。そのような価値観が貴族たちによって形成されているため、サンセベリアで使われることはないのだろう。
「ここは国庫ではなく、物置と呼ばれている部屋です。ここにある武器たちは、性能では聖剣に全く劣ることはない名品にも関わらず、価値がないと押し込められています」
よく見れば、先程の国庫よりも置き方が乱雑な気もする。本当にただの物扱いというわけか。
「ウツロさんが、もしこの中から気に入るものがあるのなら、持っていっても構いません。ただし、騎士の世界は貴族が中心です。私がいうことではないかもしれませんが、ここにある武器たちは格がないと軽蔑されているものでもあります」
デビットの言葉には、怒気が込められていた。彼は聖剣が好きなのではなく、武器が好きなのだ。全ての武器に優劣などなく、ここに押し込められた物たちも、賞賛され人に使われるべきである。本気でそう思っているからこそ、彼は貴族の聖剣偏重に憤りを露わにしているのだ。
その点は、ウツロも同感である。良いものを良いと言えない社会が、健全であるとは到底思えないからだ。ウツロは物置の中を歩き出す。学園内では、とにかく剣しか目に触れてこなかったので、多種多様な武器たちは、どこか祖国を思い出させるようで安心を与えてくれた。そんな中、ウツロは突然足を止める。
『こいつは……!』
光って見えたその武器を、ウツロは赤子のように大事に握りしめた。
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