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第五列 ――最強スパイと没落騎士令嬢の共同戦線――  作者: 平下駄
第2章 帝都娼婦連続殺人事件
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払戻と武器商人

【注意】この章には、R15指定に準ずる描写が登場します。ご覧になる際には、お気をつけください。

「ナタ、彼のことどう思った?」

 名前を呼ばれた少女は、机から顔を離し席に座り直す。

「強いね、相当。私がずっと殺気を送っているのに、最後まで平然といなされ続けた。あれは実戦もかなり積んでるね」

 セシリアに対する疑問も合わせて考えると、ルクセンナも激しく同意する。


『一度、きちんと調べてみましょうか』

 スパイの身元が疑われるなど、あってはならないことの一つ。気付かぬところで種を蒔いてしまうこの辺りが、本人がが潜入に向いていないと思う所以だろう。


「それで、会長。例の件はどうするの?」

「実力は申し分ないし、人間的にも信用できる。予定通り任せてみましょう」

 当然自分の知らないところで、大きな歯車が回っているのにも、ウツロはまだ気付かない。


   ~~~~


 ウツロが生徒会室を出て、次に向かったのは談話室。今日はここで人と会う約束があった。ルクセンナとのティータイムのせいで、待ち合わせの時間はとっくに過ぎているが、ウツロがそれを気にすることはない。今回の相談は、こちらの方が完全に立場が上であることを示すために敢えて遅れてきたのだ。


「すいませんね、お待たせして」

 指定された部屋に入ると、そこにはボルト・カッセンドが座っていた。デュエットの賭けを総括している胴元の生徒である。顔色は青白く、体は震えているように見えた。外は四月の陽気のため寒さで凍えているのではないのは明らかだろう。ウツロは向かい合うように、音を立てて座る。ボルトは身を小さくして、目線は下を向いていた。


「カッセンドさん。今日私をここに呼んだのは、例の賭けの払戻金についてですよね?」

 ウツロはにこやかに語りかける。本来であれば、胴元が一個人にここまで怯える必要など微塵もない。しかし、この場ではそうではない。それは、ウツロの配当金のせいである。


 彼は、セシリアが勝つ方に三百万を投じ、オッズ四百倍を見事に的中させたのだ。これで発生する額は実に十二億。いくら相手が貴族のお坊ちゃんだからといって、簡単に用意できる金額ではないのだ。


「……はい。ウツロ様は、確かに今、十二億ゴールドを獲得する権利を保有しています。しかし、一点問題がありまして……」

 そらきた、ウツロは心の中で即座に反応する。目の前の男が、食堂のときと違ってあまりにも覇気がないのも、ウツロは少し可笑しかった。


「今回、ウツロ様はセシリア・アルフグレットが勝つ方に三百万ゴールドを支払っています。通常であれば、これは何も問題ありません。しかし、ウツロ様はセシリア・アルフグレットのパートナーです。第三者が賭けているのならともかく、ウツロ様のように直接勝負に関わる御人が賭けたものは、扱いが別であるべきです」

 ウツロは目つきを鋭くする。


「払わない、と? 私はあの場で確かに"自分も賭けていいのか"と確認を取りました。自分がセシリア・アルフグレットのパートナーであることも話しています。もし、扱いが異なる・賭けが無効だというのなら、あの場でおっしゃるのが筋では?」

 ウツロは淡々と事実を述べ、さらに詰め寄る。あの場にいた時点から、こういう状況になるのは織り込み済みである。


「それは……」

「まさか、私の賭け金が呼び水で、その後多くの人間が押し寄せてきたから引くに引けなくなったとか。そもそもセシリアが負けていたのなら何も言わずに進めようとしていたとか。そんなふざけた話はありませんよね?」

 とうとうボルトは黙り込む。完全に心の中を読まれた上で、それが見事に封殺された。彼にもう逆転の一手は残されていなかった。


『ここからだな』

 完全に目が虚な男に、ウツロは救いの手を差し伸べる。

「とはいっても、私も目の前に十二億がポンっと用意されるとは思っていません。どうです、一つ取引をしませんか?」


「取引?」

「十二億を、二つのものと交換してほしいのです。まずは、私が賭けた大金貨三枚の返却。次に、私に武器を譲っていただきたい」

 ウツロの言葉に、ボルトはまたも言葉を詰まらす。


「一つ目は分かりましたが、武器とは?」

「カッセンドさん、あなたの家は代々大蔵省に勤めていらっしゃるとか。あそこは国庫の管理を一任されているはずです。お金だけでなく、武器もたくさんあるんですよね?」

 ボルトは固唾を呑む。そして、ウツロの要求の真意を察する。


「つまり、"聖剣"を用意しろと?」


 サンセベリアは大国である。聖剣の数もリトガルトとは比べものにならないほど保有している。とはいえ、いくら聖剣があってもそれを使いこなせる人材には限りがある。そのため、使用者が明確に登録されていないものは、国庫の中で管理されている。ウツロはこれに目を付けた。


 聖剣は、いくら大金を積んだところで手に入るものでもない。それこそたとえ十二億あっても難しい。その家の家宝であり、厳重に管理・継承されるものである。購入以外の方法でしか、基本は手にすることは出来ない。故に、ウツロは賭けの担保のような形で入手を目論んだのだ。


「私は武器を譲っていただきたいだけです。私のような平民が聖剣を持つのは憚られます。だが、もしカッセンドさんの方から是非とおっしゃるのであれば、甘んじてお受けしますよ」

 ウツロがカッセンドから聖剣をせしめた、というような評判になると、色々まずいのである。セシリアにも迷惑がかかってしまう。あくまで、カッセンドから譲り受けたという事実にする必要があるのだ。


 ウツロの発言を聞いて、ボルトは観念したかのように、床に座り込む。

「……分かりました。とりあえず、先に大金貨の方はお渡しさせていただきます」

 ボルトはしばらくして立ち上がり、机に金貨をそっと置いた。


「武器の方は、私の兄が国庫管理の責任者をしていますので、話をつけてから後日ご連絡させていただきます」

「いえ、今日お願いしてもいいですか?」

「え?」

 ボルトは口をぽかんと開ける。


「一日でも早く武器がほしいのです。出来ないのなら、残念ですが十二億ゴールドの方をお待ちしています」

 ボルトは滝のような汗を流しながら、目を左右に泳がせていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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